第33話 迷いと決意
チャッピー(ChatGPT)にて執筆し手直ししたものを掲載しています
いつもより少し早く退勤できた帰り道、駅前のコンビニでお茶を買って改札へ向かおうとしたところで、不意に名前を呼ばれた。
「……ようちゃん?」
振り返ると、懐かしい顔がそこにいた。落ち着いたベージュのトレンチコートを羽織り、化粧も髪も整ったその女性は、元カノだった。
「久しぶりやな。こんなとこで会うなんて、すごい偶然」
そう言って笑う彼女の声は、当時と変わらなかった。
「……久しぶりやな」
少し間を置いて答える。もう感情はない。でも、記憶の中の彼女が一瞬、今の彼女と重なって見えた。
「元気にしてた? 最近、ようちゃんのことたまたま思い出しててさ。……あの頃みたいに、また話せたらいいなって思ってたんよ」
冗談まじりのようで、その視線は真剣だった。
「……俺、今は大事にしたい人がいるから。そういうんは、もうできへん」
少しきつい言い方になったかもしれない。でも曖昧に笑って流す方が、よっぽど残酷やと思った。
彼女は一瞬きょとんとした後、「そっか」とだけ言って、少しだけ視線を落とした。
それきり、深追いはしてこなかった。
夜。
Moonが開店してから少し落ち着いた時間帯。けいちゃんが他のテーブルについている間、カウンターで飲んでいた俺は、心の中でぐるぐると考え続けていた。
——言うべきか、黙ってるべきか。
俺は今、会社員として毎日忙しく働いてる。けいちゃんは夜の店で、いろんな男のお客さんに笑顔を向ける。
正直、不安になることがゼロやとは言わん。でも、それでも——信じてる。
だからこそ、隠したくなかった。
閉店後の店内。後片付けをしているけいちゃんに、そっと声をかけた。
「けいちゃん、ちょっとだけええ?」
「ん? なにー、ようさん」
「今日さ、たまたまやけど、元カノに会ってん」
けいちゃんの手がピタリと止まる。
「……え、そうなん? なんでまた」
「偶然。駅のとこで。別に何もなかったけど、『また話せたら』とか言われて……でも俺、その場でちゃんと断ったから」
一瞬、間が空いて。
「……そっか」
けいちゃんは笑っていた。でもそれは、どこか寂しそうな、でもやっぱり少し安心したような、複雑な笑顔だった。
「ようさん、ちゃんと話してくれてありがとう」
「うん」
「なんか、うちはさ、こうやって言ってくれるようさんのこと、やっぱ好きやなって思った」
「俺も、もっとちゃんとしたいと思ってる」
「ちゃんと、って?」
「未来のこと、もっと考えたい。けいちゃんと一緒に、まっすぐに生きていきたいって。思ってる」
その言葉に、けいちゃんの目がすこし潤んだ気がした。
「……ようさんって、ほんま、ずるいよな。そんな言い方されたら、うち、どんどん好きになってまうやん」
照れながら、でもどこか誇らしげに、彼女は笑った。
——きっと、迷いは全部、もう手放していい。
俺の中にあった小さなぐらつきも、今日限りで終わりにしよう。
そう思えた夜だった。