第28話 心の準備
チャッピー(ChatGPT)にて執筆し手直ししたものを掲載しています
休日の朝は、なんとも言えない空気が漂っている。
平日の慌ただしさとは違う、時間の流れがゆっくりで、どこか柔らかい。
けいちゃんを誘ったのは、数日前だった。
「今度の休み、もし予定なかったら、一緒に出かけませんか」
Moonの営業後、グラスを拭きながら言ったら、けいちゃんはぱっと目を輝かせて、「うん、行く!」と即答してくれた。
そうして今日。
待ち合わせの駅の改札口で、けいちゃんは白いブラウスにジーンズ、髪をふわりと巻いていた。ちょっとした街歩きのつもりだったけれど、その姿はどこか晴れやかで、見とれてしまうくらいだった。
「お待たせ〜! 今日めっちゃ楽しみにしてたんやから!」
「うん、俺も……楽しみにしてた」
けいちゃんは、ふわっと腕を絡めてきた。その無邪気さに少しだけ戸惑いながらも、心の奥がぽっと温かくなる。
最初に向かったのは、雑貨屋が立ち並ぶトアロード。
小さな木製の看板がぶら下がる店先を覗き込みながら、けいちゃんはあれこれと楽しそうに語ってくれる。
「見てこれ! 猫の形の箸置き! かわいすぎる!」
「ほんとだ。けいちゃん、猫好き?」
「うん。飼ったことないけど、猫カフェ行くとテンション上がる」
ガラスの器を覗いたり、ハンドメイドのアクセサリーを手に取ったり。
そんなけいちゃんの姿を、俺は少し後ろから見守るように歩く。
ああ、なんか、こういうの、いいな。
昼は、けいちゃんが「気になってたんやけど、ひとりじゃ入りづらくて」と言っていたカフェへ。
店内はアンティーク調のインテリアで、カップもひとつずつ違っていて、ちょっと大人っぽい雰囲気だった。
けいちゃんはランチプレートを、俺はパスタを頼んで、窓際の席で向かい合う。
「こういうの、久しぶりかも」
「こういうの?」
「うん……ちゃんと誰かと出かけて、ごはん食べて。なんか、デートっぽいやん」
照れたように笑うけいちゃんの頬に、午後の陽が柔らかく差し込んでいた。
食後のコーヒーを飲みながら、話題は昔話になった。
「高校のとき、休みの日もバイト入れててさ。今思えば、誰かとゆっくり遊ぶ時間、ほとんどなかったなって」
「けいちゃん、忙しかったんだね」
「うん。でも今、こうしてのんびりしてるの、なんか変な感じする」
けいちゃんの言葉には、どこか迷いのようなものが滲んでいた。
そのまま商店街を歩いているとき、ふいにけいちゃんが立ち止まる。
「ねぇ、ようさん」
「うん?」
「ようさんはさ、私みたいなの、どう思ってる?」
目が合った。
その瞳には、いつもの明るさの奥に、何かを確かめるような真剣さがあった。
どう思ってるか。
言葉にするのは簡単じゃない。
でも──嘘はつきたくない。
「……いいと思うよ。すごく素敵な人だと思う」
けいちゃんは、ぽかんとした顔になった後、ゆっくりと笑った。
その笑顔が、なんというか……すごく柔らかくて、俺の胸の奥に、そっと触れてくるようだった。
「……そっか。ありがと」
そのあとは何も言わず、並んで歩いた。
肩と肩が触れるか触れないかくらいの距離。
時折風が吹いて、髪が揺れる。
帰りの電車の中。
けいちゃんは、車窓の外を見ながら、ふわっと笑った。
「今日、すっごい楽しかった」
「うん。俺も」
沈黙が、心地いいと思った。
言葉じゃないところで、少しずつ近づいている気がして。
けいちゃんの隣にいると、時間がやさしく流れる。
あの人のこと、もっと知りたい。
もっと一緒にいたい。
そんな想いが、胸の奥で、静かに膨らんでいく。