第27話 大事な人のこと
チャッピー(ChatGPT)にて執筆し手直ししたものを掲載しています
Moonの営業が終わったあと、もうバイトスタッフのようになってきた僕はいつものように店内の掃除をして、空になったグラスを片付けているときだった。カウンター越しにけいちゃんがちらっとこちらを見て、何か言いたそうに口を開きかけては閉じる、を繰り返していた。
いつもより静かな夜。スタッフの笑い声もなく、BGMだけが小さく流れている。ひとつの営業が終わったあとの、ほんの少し寂しさを含んだ空気。
「ようさん……今日、ちょっとだけ、付き合ってくれない？」
ふいに聞こえたその声に、片手に持っていたグラスを落としかけた。
「え？あ、うん……僕で良ければ」
誘い方は控えめだけど、どこか覚悟があるようにも見えた。
向かった先は、Moonからそれほど遠くない、小さなファミレスだった。
けいちゃんはドリンクバーでカフェオレを選んで、席に戻ってくるとふぅと一息ついた。
「ねえ、ようさん。あたしって、ちゃんとできてるかな」
突然の問いに、返事を詰まらせる。
「え……何が？」
「いろいろ。接客とか、日々のこととか……好きな人との距離の詰め方とか」
最後の言葉で、けいちゃんが視線を落としたのが分かった。
「けいちゃん……」
何か答えたかった。でも、うまく言葉が見つからない。
「最近さ、うまく笑えないときがあるの」
そう呟いた彼女の指が、カップの縁をくるくると撫でている。
「ようさんの前では平気なんだけどね。たぶん、変に見せたくないって気持ちが強すぎて、がんばっちゃってるのかも」
そう言ったあと、けいちゃんは微笑んだ。どこかで何度も練習したみたいな、癖のついた笑顔だった。
「僕、けいちゃんのこと……ちゃんと見たいって、思ってるよ」
ふっと彼女が目を丸くする。
「けいちゃんががんばってるところも、つらそうなところも、ちゃんと。だから、見せてくれたら、嬉しい」
静かな夜。ファミレスのガラス越しに映るネオンがぼんやり滲んでいる。
「……ありがとう」
その言葉と一緒に、けいちゃんの目に涙が浮かんだ。
「泣くつもりなかったのに。なんでかな」
「泣きたいときは、泣いていいんだよ」
テーブル越しにそっと手を伸ばして、彼女の指先に触れそうなところで止めた。
けいちゃんはそれに気づいたのか、小さく笑ってから、自分から手を差し出してきた。
「……ありがとう。なんか、ちゃんと話せてよかった」
「こちらこそ。僕も嬉しい」
ほんの少し、距離が近づいた夜だった。
