第23話 普通の会話
チャッピー(ChatGPT)にて執筆し手直ししたものを掲載しています
閉店間際のMoonは、静けさの中にも、どこか一日の名残のような空気が漂っていた。 店内には、グラスを洗う音と、ボトルを棚に戻す小さな音が響いている。
今日も変わらず、にこにこと笑って、先輩ホステスとしての空気をまとう彼女。 でも、あの「無邪気さ」が、どこか上滑りして見えるときがあるのは、最近気づいたことだった。
「ねぇ、ようさん。最後に1杯飲んでかない?」
そんな軽い口調に、どきりとする。 けいちゃんが、勤務後に自分から誘ってくるなんて、滅多にない。
「……え、あ、僕? うん、大丈夫、時間はあるよ」
気づかれないように言葉を整えると、彼女はにやっと笑った。
「よかった。じゃ、ちょっとだけ、ね」
いつもの客席に並んで腰を下ろすと、彼女は足を組み替えながら、そっと一息ついた。
「なんかさ、たまには、ふつーに喋りたいなって思って」
ふつーに、という言葉が、なんだか妙にひっかかった。
僕は頷きながら、静かにグラスを合わせる。
「なんか……難しいこととか、置いといてさ」
そう呟いた彼女は、どこか寂しそうに笑っていた。
——そういえば。
あの夜、大田さんが来た日。
けいちゃんは、いつも通りの笑顔だったけど。 でも、その笑顔の奥に、確かに違和感があった。
「……けいちゃん、あのとき、ちょっと無理してた?」
僕がそう尋ねると、彼女はふいに目をそらし、グラスの中をじっと見つめた。
「……ばれた?」
ぽつりと呟くその声は、いつもの軽やかさがどこか影を潜めていた。
「うん、まあ……気づくよ。少しだけだけど、ね」
そう言うと、彼女はゆっくりこちらを見た。
「ようさんって、そういうとこ、優しいよね」
それが褒め言葉なのかどうか、私はうまく返せない。
彼女は、少しだけ言いよどみながらも続けた。
「……あのね。大田さん、ちょっと、苦手なの」
小さな声だったけれど、その言葉には、嘘がなかった。
「前にさ、何度か誘われたことあって。お店の外で会ったことはないけど……」
言葉を濁す彼女に、それ以上は聞かないようにした。 聞いたところで、私がどうにかできる話ではない。 でも、知っておきたいと思っていた。
「……だから、ようさんが一緒にいてくれて、助かった」
ぽつんと、そんな言葉が落ちた。
僕は、ただ静かに頷いた。 何かを言おうとしても、喉の奥でうまく言葉が形にならない。
それでも、けいちゃんが少しだけ肩の力を抜いたのが、わかった。
「……ありがと」
その一言に、少しだけ救われたような気がした。
こうやって、何かを共有できた夜。 それだけで、十分だった。
グラスの氷が、カランと鳴った。
そろそろ、おひらきの時間かもしれない。
——でも。
この、ささやかな夜の延長線上に、なにか変化が待っている気がして。 私は、そっとその空気を、大切に抱きしめた。