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20話 二人で行く場所

チャッピー(ChatGPT)にて執筆し手直ししたものを掲載しています



 日曜日の午後、店は定休日。誰もいないMoonのカウンターにひとり座って、コンビニで買ったコーヒーを飲みながら、ぼんやりと窓の外を見ていた。少し曇りがかった空に、街の音が静かに溶け込んでいる。


今日は約束していた日。たまにはふたりでどこか出かけようと、前から言っていたのに、なかなか実現できなかった予定を、ようやく叶えることにした。


 「お待たせしましたー!」


 ドアが開いて、明るい声が店内に跳ねた。振り向けば、少し風に吹かれた髪を整えながら、けいちゃんが笑って立っていた。


 「……うん。待ってた」


 素直にそう言うと、けいちゃんは目を細めて、


 「ふふ。じゃあ今日くらい、たっぷり甘やかしてもらおっかな」


 なんて軽く言って、横に座ってきた。こうして並んで座るのは、なんだかんだ言ってまだ数えるほどしかないのに、妙に落ち着く。


 「ごはん、もう食べた?」


 「ううん。まだ」


 「じゃあ、どっか行く前に軽くなにか食べよっか」


 けいちゃんはバッグの中から、何やら手書きの地図を取り出した。


 「実はさ、こないだお客さんに教えてもらったんだけど、Moonからちょっと歩いたとこに、めちゃくちゃ雰囲気いい喫茶店があるんだって。店の名前は……“とまり木”。いい名前でしょ?」


 「……うん。いい名前だね」


 “とまり木”って言葉に、どうしてか少し胸が温かくなった。理由なんて、自分でもわからない。


 


 喫茶店までの道すがら、けいちゃんはいつもより饒舌だった。話題はたわいもないことばかり。テレビの話、月曜の天気予報、最近よく使うリップの色。


 でも、そんな何気ない言葉の一つひとつが、やけに耳に残る。


 けいちゃんが前を歩くときは、少し小走り。僕が前に出るときは、ぴたりと隣を歩く。そういう距離感が、ずっと心地よかった。


 


 目的の“とまり木”は、小さな坂の途中にあった。煉瓦づくりの建物の一角で、看板も控えめ。だけど、店の雰囲気は名前そのものだった。


 「ここだよ」


 けいちゃんがドアを押すと、小さな鈴が鳴った。中には、年配の女性がひとり、奥の席で本を読んでいて、あとはカウンターの中に、柔らかい表情のマスターが立っていた。


 「いらっしゃいませ。お好きな席へどうぞ」


 僕らは窓際の小さなテーブルに腰を下ろした。外には、ゆるやかに流れる川と、少し色づいた桜の枝が見えた。


 「こういうとこ、初めて来た?」


 「……うん。初めて」


 「でしょー? なんかさ、ここって“誰かと来るための店”って感じじゃない? ひとりだとちょっと、もったいない気がするっていうか」


 「……うん。わかるかも」


 けいちゃんはメニューをぱらぱらめくりながら、ふと小さな声で呟いた。


 「今日、ありがとうね」


 「うん」


 「なんか、ほんとはね。こういう日って、私の方が誘っておきながら、ちょっと緊張してた」


 「緊張?」


 「うん。だってさ、ふたりでどっか行くって、言葉にするとすごく簡単だけど……“ふたり”って、すごく特別じゃん?」


 その言葉に、何かを返したかったのに、僕は少しだけ黙ってしまった。


 


 そのあと頼んだミックスサンドと珈琲は、どちらも驚くほど美味しかった。たぶん、けいちゃんが「美味しいね」って何度も言うから、それだけで味が増していたのかもしれない。


 「こういうとこ、また来たい?」


 「うん。けいちゃんが一緒なら」


 「……そう言ってくれるの、嬉しいな」


 言い終えてから、けいちゃんはちょっとだけ、恥ずかしそうに笑った。僕はその横顔を見て、またなにかを好きになった気がした。


 


 帰り道、もう日が傾いていて、影が長く伸びていた。途中の信号で立ち止まったとき、けいちゃんがぽつりと呟いた。


 「ようちゃんてさ、うちに会いたいなって思うとき、ある?」


 「……あるよ。けっこう、ある」


 「……ふふ、そっか」


 「なんで?」


 「うーん……うちはね、会いたいって思っても、我慢しちゃうタイプだから。会いたいって言って、もし迷惑だったらイヤだし」


 その言葉に、胸の奥がきゅっとなった。


 「けいちゃん、会いたいときは言っていいよ。迷惑とか、思ったことないし」


 「……うん。ありがと」


 


 その日、駅まで送る道すがら、僕たちはずっと隣を歩いていた。肩は触れそうで触れなくて、それでもどこか温かい。


 けいちゃんが電車に乗り込む直前、ふいに振り向いて、小さく手を振った。


 「今日は“ふたりの日”にしてくれて、ありがと。ちゃんと、また誘ってね」


 「……うん。次も、俺から言うよ」


 扉が閉まる直前、けいちゃんが小さく、けれどはっきりと笑ったのが見えた。


 


 日常の中で、“ふたり”っていう時間を持つこと。それは特別なようで、でも、ずっと続いてほしいと思える、そんなひとときだった。

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