第2話 また行きたい
チャッピー(ChatGPT)が執筆した小説を手直しして掲載しています。
繁華街の雑踏から一歩路地へと入ると、空気が変わる気がする。
夜の帳が下りたばかりの街は、まだどこか忙しなく、行き交う人の足音と車の音が交錯していた。その中を、僕と岡崎さんは並んで歩いていた。今日は会社の打ち上げがあって、その帰り道だ。
「よう、今日も顔、硬いなぁ」
肩を叩かれて、思わず少し笑ってしまう。岡崎さんの言うとおり、俺はこういう店に来るのが得意じゃない。
「……すみません。なんか、気構えちゃって」
「構わん構わん。構えるぐらいが丁度ええよ。変に慣れてるより、よっぽどマシや」
そう言って笑う岡崎さんの声が、やけに明るく感じた。
前回、この『Moon』というスナックに初めて来たのは、たまたまいつもの店が満席だったからだ。代わりに岡崎さんが見つけてくれたこの店は、見た目よりずっと居心地が良くて、どこか家庭的な空気があった。
「よう、前来たときの……けいちゃん、って子。あの子の顔、ちゃんと覚えてるか?」
「……はい。明るくて、話しやすい方でしたね」
「だろ? あの子はな、気配りが細かいのに押し付けがましくない。ああいう子、なかなかいないよ。俺、けっこう気に入ってんねん」
僕が返事をする前に、岡崎さんはもう扉を開けていた。チリン、と小さな鈴の音が鳴る。
前回と変わらない店内の空気。カウンターと小さなテーブルがいくつか、照明はやや落とし気味で、でも暗すぎることはない。壁に飾られたレコードのジャケットが、少しレトロな雰囲気を醸している。
「いらっしゃいませー!」
奥から飛び出してきたのは、前回と同じ、けいちゃんだった。
「わー! また来てくれたんやー! 嬉しいっ。覚えてますよ、ようさんですよね?」
「……はい。村田です」
何がそんなに嬉しいのか分からないけれど、けいちゃんの笑顔に嘘はないように見えた。
岡崎さんはもう慣れた様子で席につき、隣にけいちゃんが座る。その向かいに、僕。
「今日も……お疲れさまでした!」
乾杯のグラスを合わせながら、けいちゃんの声は明るく弾む。
正直、あまり話すのは得意じゃない。でも、この店ではなぜか、それを責められない空気がある。
「あ、そういえば前、言ってましたよね? 朝ごはんは毎日パンって。今日も?」
「え? ……あ、はい。いつもスーパーで買って……」
「えらいなぁ。自炊男子ってポイント高いですよ? 何パンが好きなんですか?」
「え、あ……チーズの……」
「わー! それ、うちも好きやわ! コンビニのも美味しいですよね!」
テンポのいい会話に、岡崎さんも笑っている。
なんというか、けいちゃんはずっと楽しそうだ。話すこと全部が自然で、こっちに話題を投げては拾ってくれて、気付けば僕は、少しずつ緊張を解いていた。
「ようさんって……あれやな、優しそうやけど、怒ったりせぇへん人でしょ?」
「……あまり怒らないかもしれません」
「やっぱりー。そんなん、顔に出てるもん。ふわってした優しさが」
「……それ、良いことですか?」
「もちろん! そやけど、ちゃんと言いたいことは言わなアカンよ?」
「はい……気をつけます」
なんだか叱られているみたいだけど、不思議と嫌じゃなかった。
ふと、グラスが空になっていることに気づいた。
「おかわり、もらえますか?」
「もちろんっ!」
けいちゃんは立ち上がると、くるっと踵を返して軽快に奥へ向かっていった。
その背中を目で追いながら、ふと自分の口元が緩んでいることに気づく。
(……また、来たいな)
思ってしまったその気持ちが、自分でも意外だった。
***
店を出た帰り道、岡崎さんがポツリと呟いた。
「お前、前よりずっと顔、柔らかくなっとるな」
「そう……ですかね」
「うん。ああいう子、ほんまに貴重やで。……けど、お前のペースでええからな。無理せんでええ」
「……はい」
夜風が、少しだけ涼しく感じた。
会話を思い出しながら歩く帰り道は、前よりずっと短く感じた。