第18話 あの日からの距離
チャッピー(ChatGPT)にて執筆し手直ししたものを掲載しています
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あの日、けいちゃんを迎えに行ったときのことを、何度も思い返している。
駅のロータリーで手を振った彼女の笑顔。隣で何度も「わーっ」と声を漏らしていた楽しげな声。そのどれもが、少し照れくさくて、でも嬉しくて、胸の奥で小さく灯る火みたいだった。
今夜もMoonのドアを開ける。
「いらっしゃいませっ!」
元気な声に迎えられ、僕は少し微笑みながらカウンター席へ向かう。けいちゃんは、いつものように笑顔で、でもどこかそわそわした雰囲気で僕におしぼりを差し出す。
「おかえりなさい。今日も、いつもの?」
「うん……じゃあ、お願いしていいかな」
目が合った瞬間、少しだけ視線を逸らされる。
彼女は、あの日から少しだけ距離を詰めてきている気がする。でも、それが『好意』なのか『気まぐれ』なのかは、まだわからない。
だからこそ、こちらから踏み込むのは怖い。
ただ彼女と話したい、その気持ちだけがある。
「ようちゃん、今日はちょっと疲れてる?顔に出てるよ」
「えっ……そんなにわかる?」
「うん、でもそれが、わかるようになってきた自分にちょっとドヤ顔したい」
そう言ってけいちゃんは、くすっと笑った。
いつもの冗談交じりのテンション。でもその笑顔の裏に、少しだけ「僕を見ようとしてくれている」温度を感じる。
まだ『恋人』じゃないけれど、彼女の心の中に、少しずつ僕の居場所ができていっている。
そんな気がした。
話題は他愛ないものに移っていく。仕事のこと、テレビのこと、駅前の新しいカフェのこと。
でもそのひとつひとつが、やけに心に残る。
彼女が笑うたび、僕も笑ってしまう。
彼女が不意に真面目な顔をすると、つられて背筋が伸びる。
心がふわふわと、どこか浮いているような、でも地に足がついているような不思議な感覚。
夜が更けていく中で、けいちゃんがふとカウンターの内側から顔を近づけた。
「ねえ、今度さ……もし休み合ったら、どっか行く?」
唐突すぎて、返事に詰まった。
「……どっかって?」
「えー?具体的には考えてないけど、ふたりで行くのって、楽しそうじゃない?」
彼女はあくまで軽い調子で言う。でも、その目はどこか真剣で、僕の反応を待っているようにも見えた。
「……行きたい、かも」
照れ隠しに目を伏せながら答えると、けいちゃんは少しだけ頬を緩めた。
「じゃあ決まりっ。ようちゃんの休み、教えてね」
その一言で、胸の奥の火は少しだけ大きくなった気がする。
僕たちはまだ、はっきりとした関係じゃない。
でも、心がほんの少しずつ、歩み寄っている。
それだけで、十分に幸せだった。