表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/37

第16話 気づかれた思い

チャッピー(ChatGPT)にて執筆し手直ししたものを掲載しています


 早朝の空気は、まだ眠たげに揺れていた。  車のフロントガラスに朝露が薄くにじみ、エンジンをかけたときの震えが、いつもより頼もしく感じられる。土曜日のこの時間帯にしては、やけに静かで、心なしか道路も空いていた。


 僕はいつもより少し早めに家を出ていた。今日、彼女を迎えに行く。それだけの違いなのに、朝の景色がまるで別物に見えるのが不思議だった。


 けいちゃんを迎えに行くことになったのは、昨夜のやりとりがきっかけだった。


『明日、駅から歩くのしんどいなぁ〜。雨降ったら最悪やし』 『じゃあ迎えに行こうか?』 『え、いいの?助かる〜!うち、朝テンション低いから、気合い入れてきてな♪』


 そんな軽いやりとりのつもりだった。けど、気づけば自分でも驚くほど入念に車内を片付けて、CDまでお気に入りのアルバムに差し替えていた。彼女が座る助手席のシートを拭いて、何度もミラー越しに自分の表情を確認したりして――何やってんだろう、僕。


 まだ少し肌寒い朝。駅前のロータリーには、ちらほらと通勤客の姿もあった。


 指定した時間の5分前。僕は少し離れた場所に車を停めて、LINEを開いて彼女に「着いたよ」とだけ送った。ほんの十数秒で「おっけ〜今いくっ」とスタンプ付きの返信が届く。


 そして、目の前のロータリーに姿を現した彼女。


 大きめのパーカーにキャップ姿。化粧っ気は薄く、マスクをしていてもその笑顔はすぐに分かった。彼女が僕を見つけると、ひらひらと手を振る。


「おはよ〜!朝から優しさ満点やな、ようさん」


「おはよう。……そんな格好で来るんだ」


「え、寝起き感出てる?まさか幻滅した?」


「いや、似合ってる。思ったより……かわいい」


「ふふっ、今の、けっこうキュンってした。うち、ポイント高い?」


 彼女は助手席のドアを勢いよく開けて乗り込み、バッグを足元に置くと、シートベルトを締めながらにやにやと僕の顔を覗き込んだ。


「意外と緊張してるやろ?どこ見ていいか分からん顔してる」


「……うるさいな」


 けいちゃんとこうしてふたりきりでいる時間は、まだ慣れない。Moonではあれだけ自然に話せるのに、密室の車内では不思議なほどぎこちなくなる。


 だけどそれが、なんだか少し心地いい。ぎこちなさすらも、彼女としか味わえない時間だと思うと、悪くない気がした。


 車を発進させ、いつもの道を走り出す。彼女は窓の外を眺めながら、ぽつりと呟いた。


「なんかさ、こうやって迎えにきてもらうの、ちょっと夢みたいやね」


「……夢?」


「うん。うち、こういうの憧れててん。彼氏に駅まで迎えにきてもらって、そのままドライブとか……なんかドラマっぽいやん?」


「そっか……それ、俺でもいいの?」


 少しの沈黙のあと、彼女が笑った。


「いまの、ちょっとずるいな。朝からそんな聞き方されたら、照れるやん」


 冗談めかして笑いながら、けいちゃんは僕の方を見て言った。


「でもな、ゆうさんがやから嬉しいんよ。たぶん、他の誰かやったら『ありがと〜』だけで終わってた」


 その言葉に、胸の奥がふっと熱くなる。


 信号で止まったとき、彼女がそっとエアコンの吹き出し口をこっちに向けた。


「寒ない?朝って意外と冷えるよな」


「うん、ちょっとね。ありがとう」


 何気ない気遣いが、僕にはすごくあたたかく感じた。


 店に到着するまでの短い時間。会話は途切れがちだったけど、不思議と沈黙が居心地悪くなかった。たぶん、彼女も同じ気持ちだったんじゃないかと思う。


 Moonの前に車を停めると、けいちゃんがちらっと僕を見て言った。


「今日はありがと。なんか……またお願いしたくなるやつやった」


「いつでも言って。駅で待つの、けいちゃんだけやから」


「ふふっ、うん。じゃ、行ってきます!」


 小走りで階段を上っていく後ろ姿を見送りながら、僕はまだ胸の奥がくすぐったい感覚のまま、深く息を吐いた。


 彼女の言葉ひとつで、こんなにも気持ちが揺れるなんて。


 ――やっぱり俺は、けいちゃんのことが好きなんだな。


 思い知らされた、土曜の朝だった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ