第15話 こじらせて言えなくて
チャッピー(ChatGPT)にて執筆し手直ししたものを掲載しています
約束通り、日曜の午後はけいちゃんを迎えに行った。 彼女の家の近くに着くと、約束の時間ぴったりに玄関から飛び出してくる姿が見えた。
「ようさーん! こっちこっち!」
小さく手を振るその笑顔に、自然と肩の力が抜ける。車の助手席に乗り込むなり、彼女は顔をこちらに向けたまま、にんまりと目を細めた。
「ねえ、今日もかっこいいじゃん」
冗談半分、でも目はまっすぐ。僕は視線を前に向けながら、口元だけで笑った。
「そう? いつも通りだけど」
「うん、でも今日はちょっと雰囲気違う。なんか……頼れる感じ」
そう言って笑った彼女の声が、車内を軽やかに跳ねた。信号待ちの間にちらりと横を見ると、髪をまとめてナチュラルメイクの彼女が、いつもより少し大人びて見える。
デートらしいデートは、まだ片手で数えられるくらいだ。 それでもこうして迎えに行って、ふたりでどこかへ行く道中が、もう特別に感じられることがうれしかった。
「行き先、どこでもいいって言ってたけど……」
「ようさんが連れてってくれるとこなら、どこでも楽しい」
冗談めかした声に少し照れたけど、嬉しかった。彼女のそんなところに、いつも心を救われている。
この日は、ちょっとだけ遠出して、少し有名な海沿いのカフェに行った。車を降りて並んで歩くとき、けいちゃんが何度か指先を揺らして僕の手に触れてきたのは、ただの偶然じゃない気がして。
それでも僕は、どうしても踏み出せないでいた。
(……この距離感、保ったほうがいいんじゃないか)
今のままがちょうどいい、なんて思ってしまうのは、たぶん臆病だからだ。
「ね、ようさん」
「ん?」
「私のこと、女として見てる?」
唐突に言われて、思わず立ち止まってしまった。彼女も立ち止まり、僕の顔をじっと見上げる。
「……なんで、そんなこと聞くの」
「なんとなく。気になっただけ」
笑ってごまかすけいちゃんの声の奥に、ほんの少しだけ寂しさが混じっていた。
ちゃんと、伝えたい。 けれど、どう言えばいいのか分からないまま、言葉を飲み込んでしまう。
カフェで過ごした時間は、穏やかだった。 けいちゃんは明るく話し、僕もそれに答えた。笑い合う瞬間もあったし、写真を撮ったり、ふと無言で海を眺める時間も心地よかった。
でも、帰りの車の中で、彼女はぽつりと言った。
「……今日は、嬉しかった。でもちょっとだけ、寂しかった」
助手席のけいちゃんは、窓の外を見たまま、こちらを見なかった。
「そっか……ごめん」
「謝らなくていいよ。ようさんの優しさ、わかってるし」
彼女の声は柔らかくて、だからこそ胸に刺さる。何もしていない自分が、責められているように感じた。
自宅近くに着くころには、もう夜の匂いがしていた。
「じゃあ、また」
僕がそう言って車を停めると、彼女はシートベルトを外してこちらを向いた。
「ようさん」
「ん?」
「私、ようさんと一緒にいるの、すごく好きだよ」
その言葉を聞いた瞬間、胸がぎゅっとなった。
どうしてこんなに素直に伝えられるんだろう。どうして僕は、ちゃんと返せないんだろう。
「……僕も」
その先の言葉が出てこないまま、彼女は笑って車を降りた。
バックミラー越しに見えたその背中に、もっと言えたはずの言葉がいくつも引っかかっていた。
僕は……彼女のことが、好きだ。 けれど、彼女に触れるたび、自分の未熟さが怖くなる。 彼女を傷つけるのが、怖くて仕方なかった。