第14話 裏通り
チャッピー(ChatGPT)にて執筆し手直ししたものを掲載しています
Moonの近くにある小さな裏通りを、何の気なしに歩いていた。
たまたまその日は、少しだけ仕事が早く終わって、直帰するのももったいなくて、ふらりと店の方へ足を向けてみた。店に寄るつもりなんてなかった。ただ、けいちゃんがいるあの空間の近くに行きたい、そんな気持ちだったのかもしれない。
細い通路を抜けると、Moonの裏口が見える。
そこに、けいちゃんがいた。
誰かと話しているわけでもなく、スマホをいじっているわけでもない。ただ、壁にもたれて、ぽつんと立っていた。
こんなけいちゃんを見るのは、初めてだった。
「あ……こんばんは」
声をかけると、彼女はびくっと肩を揺らして、こちらを見た。
「ようさん!? びっくりした……」
目を丸くして少しだけ笑ったけど、いつものあの明るい笑顔じゃない。どこか遠くを見るような目をしていた。
「ごめん、驚かせた。たまたま通っただけなんだけど……どうしたの? こんなとこで」
「んー……なんか、今日はちょっと気分が乗らなくて。店、入る前にちょっとだけひと息つこうかなーって」
そう言って、彼女はふっと視線をそらした。
けいちゃんがこんなふうに、感情を隠さず話すのは珍しい。いつもは、何を聞いても「だいじょーぶ!」って笑って返してくるのに。
「無理しなくていいんだよ」
気づいたら、そう口にしていた。
彼女は少しだけ目を伏せて、数秒の沈黙のあと、小さく笑った。
「……ようちゃんって、たまにずるいよね」
「え?」
「そーやって、何気なくそういうこと言うとこ。なんかさ、わたしのガードゆるくなっちゃうじゃん」
冗談めかした口調だったけど、その声には、どこか素の彼女が滲んでいた。
「ずるい、か……僕、そんなつもりじゃ」
「わかってる。ようさんは、そういう人だから。わたしのことも、最初からぜーんぶ見透かされてた気がしてた」
静かな夜風が通り抜けていく。
「そんなことないよ。ただ、見せてくれたのが、嬉しかっただけ」
そう答えると、けいちゃんはふっと目を細めた。
「……ありがとね」
その言葉が、やけに胸に染みた。
彼女はそのまま、ゆっくりと体を起こして裏口のドアに手をかける。
「よーし!そろそろ戻ろっかな。さぼってると怒られちゃうし」
「……うん。頑張りすぎないで」
彼女は振り返って、にっこりと笑った。
「だいじょーぶ。頑張ってるように見せてるだけだからさ!」
そして、軽やかな足取りで店内へと戻っていった。
数分後、僕も正面からMoonに入った。
けいちゃんは、すでにいつもの明るいテンションでお客さんと話していて、まるでさっきのやりとりが夢だったかのようだった。
僕の席に来たときも、「ようちゃーん、待ってたよー」なんて、冗談交じりに言いながら笑っていた。
でも、その笑顔の奥にあるものを、僕は知ってしまった。
誰にでも見せる顔と、僕にだけ見せてくれた一瞬の素顔。
そのギャップが、胸の奥に静かに響いていた。