第10話 やるせない思い
チャッピー(ChatGPT)にて執筆し手直ししたものを掲載しています
Moonからの帰り道、ひんやりとした夜風が頬をなでていく。
ビル街の明かりが川面に揺れ、川沿いを歩く俺の足音が、時折、自販機の明かりに照らされたアスファルトに響く。
けいちゃんと大田さんのやり取りが頭から離れなかった。あの笑い声も、軽快なツッコミも、初めて見た一面だった。
僕の目の前では、あんなに無邪気に笑う彼女を見たことがなかった。 いや、たぶん……笑っていたのかもしれない。でも、僕が緊張してて、ちゃんと見られてなかっただけなのかも。
それにしても、大田さんは初対面でもぐいぐい行ける人だ。 年上で、ノリも良くて、場を読んで空気も盛り上げて。 そんな人が、けいちゃんと楽しそうに話してるのを見て、
――正直、少し、いや……かなり、モヤモヤした。
なんでだろうな。別に、僕の彼女でもないのに。
『お前、けいちゃんって子、悪くないと思うで。村田よりおもろいし。』
大田さんの冗談交じりの一言が、じわりと胸の奥に残ってた。 たぶん冗談だ。あの人は場を盛り上げるために言っただけ。 でも、どこかひっかかってた。
それが悔しいのか、羨ましいのか、自分でもよく分からなかった。
駅に着く頃には、頬の火照りも冷めて、 今日のMoonでの時間が、なんだか遠い昔の出来事のように思えた。
ポケットに入れたスマホが、ふいに震えた。
――けいちゃん、かな?
そう思って画面を見ると、岡崎さんからだった。
『今度の金曜、また行かへん?大田も行きたがってるし。』
返事を打つ手が止まる。
行きたい、という気持ちはあった。 けど、またあの雰囲気の中に入っていくのは、正直怖かった。 自分だけが蚊帳の外みたいに感じるのが、耐えられなかった。
……結局、その日は断った。
「すみません、ちょっと予定があって……」
と、自分でも驚くくらい事務的に。
岡崎さんは、「おー、また今度な」と軽く返してくれた。
ただ、その後に見た、 『じゃあ、大田とふたりで行ってくるわ〜』という一文。 それが胸にすっと入り込んで、息を飲んだ。
けいちゃんは、俺のことなんか気にしてないんだろうな。 あの距離感が、接客だからって割り切ってるからだって 頭では分かってるつもりだった。
でも……なんか、やるせない。
帰宅して部屋の明かりをつける。 静かな空間に、Moonでの賑やかさが遠ざかっていくようだった。
ジャケットを脱ぎ、ネクタイを緩めながら、冷蔵庫から缶ビールを一本。
ぷしゅ、と小さく音を立てて開けた缶を口に運び、ひと口だけ飲んで、 そのままソファに沈んだ。
「……なんやってるんやろ。」
ぽつりと、誰に言うでもなく呟く。
ただ話して笑っていただけの彼女に、勝手に特別な感情を抱いて、 勝手に一喜一憂して。
こんな自分が、少し情けなくなった。
でも――また会いたいと思ってる自分が、確かにいる。
次に会ったら、ちゃんと目を見て話せるかな。 もう少しだけ、近づけるだろうか。
静かに流れる夜の中で、 僕はただ、次の週末が来るのを待っていた。