Re:第四話「兄妹差分」
悠生さんと互いが互いを代替にしたメールのやりとりを始めてしばらくが経った。
このやりとりを通して、悠生さんの事を多少知ることが出来たと思う。
美矢子さんの為に苺関連の商品を探していること、美矢子の影響で女性向けの漫画に詳しいこと、バイトをしていること、私の行動を過剰にならない範囲で尊重と心配をしてくれて、時にはアドバイスをしてくれること、どんな会話も反応に差はあれど、必ず受け入れてくれること。
お兄ちゃんみたいな守ってくれて何でもお手本になる兄像とは全く違い、悠生さんの近くに居て安らげる心地良さも、また一つの完成された兄像だと感じた。
話せば話すほど、悠生さんとお兄ちゃんの違いは浮き彫りとなるが、何かあれば伝えたいと思う気持ちが乖離することはなかった。
「京、最近は少し昔の行動力が戻った気がするけど、無理してない?」
悠生さんと話すようになってから、いつだったか、お母さんにそんなことを言われた。
「うん、大丈夫。少し行動しようって思えるきっかけがあっただけだから」
「そう、元気を取り戻してくれたのなら、お母さんは嬉しいわ」
お母さんは優しい笑顔で喜んでくれた。私がお兄ちゃんの事で落ち込み続けていたから、前を進み始めたことに喜んでいるんだと思う。
だけどごめんね、お母さん。これは代替を用意しただけに過ぎないの。私はまだ、戻っただけで進めてはいないんだよ。
部屋で宿題を消化しているとスマホが鳴った。
『京〜明日の放課後、柊ちゃんと土屋ちゃんが部活休みらしいんだけど、一つ隣の駅にあるカフェ行かない?』
中学からの友達で、高校も同じクラスになった日向明日音から、お誘いのメッセージだ。
『いいよ。三つくらいカフェあったと思うけど、どこ行くの?』
『北口のペデストリアンデッキを真っ直ぐ進んだところの予定〜』
あのお店ならまだ行ったことないし、会話の種にもなりそうだね。
了解、と返信しようと思ったところで明日音から追加のメッセージが送られてきた。
『今の話とは別になるけど、GW初日に南口側のカフェに行かない? あのお店、勉強や長時間滞在OKだから一緒に宿題終わらせちゃおうよ』
メッセージと一緒に勉強に苦しんでる様子のスタンプが添えられていた。これ、どうやってやるんだろう? 私もやってみたいけど、そもそもメールにスタンプなんてあるのかな。ついでだから明日音に聞いてみよう。
『明日の放課後の件、了解。カフェで勉強もいいよ。ところで今みたいに文に感情を作るのってどうやったらいいの?』
『えっ? スタンプ押せばいいんじゃない?』
『メールにもスタンプってあるの?』
『えー? メールなんて広告とかしか来ないからよくわかんないよ』
うーん、やっぱりメールってそんなに使わないのかな……。
『顔文字なら出来るでしょ。「^^」これとかにこにこしてるように見えるし、スマホ使い慣れてない京でも打てるでしょ』
凄い、たった二文字なのに笑顔を表現出来るんだ! これは革命的かもしれない。
『すごい^^ ありがとう明日音^^』
試しに明日音にメッセージを送るために使ってみたが、文章が明るくなったように見える。
「早速、今日の悠生さんとの会話で使ってみよう」
この後、悠生さんから長文の顔文字講習メールが届いたのだった。
読み手によって煽りになるなんてわかんないよ!