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Re:第三話「代替」

 高校生になった。


 お兄ちゃんが生きていても、同じ学校に通うことが出来るのは小学校と大学程度だから、そこに感情は無い。でも、違う感情が一つある。


「悠生さんにメールしようかな」


 昨日、あの返信以降のメールは来ていない。まあ、会話としては終わったようなものだし、それは仕方ない。でも、ここで終わらせたら何も変わらない。新しい話をして次の会話を繋げよう。


「んー、初めて送られてきた悠生さんのメールを真似したら気付いてくれるかな? でも学校周りに何があるかなんて知らないから、苺のタルトに代わるものがないよね」


「京〜そろそろ行かないと電車乗れないわよ」


 少しの間悩んでいたが、お母さんの言葉で現実に戻る。


 電車通学って出る時間の融通が利かないし、乗ってる時間って無駄な気がしてならないよ。あっ、これ書けばいいのか。


 私は今思ったことを悠生さんに送ってから登校した。


 高校は初日ということもあり、入学式と軽いHR以外はなく、午前で終わった。


「改めて入学おめでとう、京。結生にも可愛い制服姿を見せてあげたいくらいね」


 お母さんが優しい笑顔で私の頭を撫でる。お母さんは私がお兄ちゃんのことを大好きだからと、お兄ちゃんの話題に出してくれることが多い。それが純粋な優しさ故なのは私も分かってる。だけど、溺れて死ぬはずだった私の代わりに、溺れて消えてしまったお兄ちゃんの話題をお母さんからされるのは、時々複雑な気分になる。普段はそんなことは思わないけど、今回みたいな「してあげたい」の時は耳を塞ぎたい衝動に駆られる。


「京、今日はもう終わりのようだけど一緒に帰る? それともお友達作り頑張ってみる?」


 友達作りは別に明日からでもいいかな。まだまともな自己紹介の時間もないし。それに同じ中学から来てる子もいるから、誰も知らないという訳でもない。だからお母さん達と一緒に帰ってもいいんだけど、さっきの会話もあり、あまり帰る気にはならなかった。


「私はこの辺りを少し覚えてから帰ることにする。先に帰っていいよ」


「あらそう? じゃあ家で待ってるわね。気を付けてね」


「うん」


 お母さん達と別れたところで、私はほんの少し速い動作でスマホを手に取って、通知を確認した。


「あれ、返信来てない」


 スマホを手にしたのが今日を入れても片手で数えられてしまう私は、返信が来ることが当たり前のように思ってしまっていたようだ。相手の都合なんて、こちらでは全く知ることも出来ないのに身勝手過ぎた。


 二通目の無視はもう返信する気がないという意思表示と取れる。でも、もし悠生さんが私と同じ過去に苦しんでいるのなら、返信は必ず来る気がしていた。こんな風に人の行動に確信が持てるのはお兄ちゃん以来だ。


「とりあえずもう一通送ってみようかな。と言っても、返信を求めるような内容は催促してるみたいだし……」


 もう呟き程度の内容でいっか。


『入学式が終わって今日は午前のみでした。これから学校から駅までの間に何かお店がないか見て回ります』


 私は今思ったことを、そのまま文字に起こして送信した。これで返信が来たら、きっと少しだけ前を向ける。


 私はスマホの画面を落として、学校から駅までの道を少し遠回りするように歩き始めた。


「あ、こんなところに喫茶店ある」

「ここの道を真っ直ぐ行くとゲームセンターがあるんだ。流石に一人は怖いから、今日はやめておこう」

「へー、たい焼き専門店なんてあるんだ」


 だいたい六割ほど歩いたが、思いの外色々と見つかるね。


 元々の私は未知の場所を歩くのが好きだ。けど、私の冒険譚を聞いてくれる人がいなくなってからは、こうやって歩いて何かを見つける、なんてことはしなかった。でも、出会ってしまったのだ、冒険譚を聞いてくれそうな人に。


 そして、その人はこのスマホの震えと共に聞いてくれる人となる。


『今朝は寝坊するところでしたが、京さんのメールで遅刻せずに済みました。ありがとうございます。下校探索、気を付けて。徒歩十分以内の喫茶店は学生の溜まり場になりやすいので、電車通学なら駅一つ移動して探すのも面白いと思います』


 声が、届いた。


 ここまでのメールのやり取りは間違いメールの延長だった。けど、これは私と悠生さんのただの会話だ。


 お兄ちゃんじゃないことは承知の上だけど、『yuki_firefly』というメールアドレスに送って返答がある、ということがとにかく嬉しかった。


 悠生さんにメールしているのは間違いない。でも、思考の隅でお兄ちゃんにも送っているつもりでいる。過去から進むことはまだ出来ないけど、悠生さんとお兄ちゃんを一部重ねることで前を向けた気持ちになる。


「悠生さんも、私のことを美矢子さんの代わりとして考えてくれてたらいいな」


 未だ確証に至る言葉は聞いていない。私の推測が正しくても、もう悠生さんは喪失の悲しみを乗り越えているかもしれない。それでもいい。これは私の我儘だ。


だから、悠生さん、少しの間でいいから--


「お兄ちゃんの代わりでいてください」

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