表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/5

Re:第二話「でした」

「なんて聞けばいいんだろうぅぅぅ……」


 二日後、私は自室のベッドの上でうつ伏せになっていた。頭の中は悠生さんと妹の『みやこ』さんのことでいっぱいだった。


 なんとなく、本当になんとなくなんだけど、この間違いメールは私がいつまでも立ち直れないことを心配した、お兄ちゃんからの最後の贈り物のような気がした。そうじゃなきゃ、こんな偶然はありえない。


 だから、お話したいんだけど……


「私、お兄ちゃんがいたから話せてたからなぁ……」


 お兄ちゃんと一緒にいないと喋れないとか、そういうのじゃない。どこで喋っても、どこで何か言われても、帰ればお兄ちゃんがその話を聞いてくれた。だからどんな状況でも「帰ったらこの話をお兄ちゃんにするんだ」って心で決めれば怖くなかった。けど、その部分は今や空洞。話す内容は分かっていても、話しかける勇気が出ない。


「結生を失ったことで勇気を失ったってこと? ははっ」


 自暴自棄気味に乾いた笑いしか出てこない。


 もうこのテンションのまま送っちゃおうかな。


『妹さんってどんな人ですか? どんな状況でこんなアドレスと間違えるようなメールアドレスを教えたんですか?』


 もういいよ、これで。

 聞きたいことは書いたでしょ。


 私は半ば投げやりに送信ボタンを押した。


 一分後、スマホが震えてメールの受信を報せる。


「えっ!? は、早い……」


 送るだけでテンションが上がったり下がったりして疲れたのに、こんな返信が早いなんて心の準備が出来てないよ!


 私はバクバクと音を立てる心臓を落ち着かせるため、深呼吸をしてからスマホのロックを解除した。


『スマートフォンの新規ご契約、誠にありがとうございます。店内でのスタッフの対応について五分程度のアンケートをお願いします』


 私は枕を殴った。


 そうだよね! お母さんとお父さん、悠生さん以外にケータイ会社もメールアドレス知ってて当たり前だよね!


 無駄に血流を良くしただけの心臓が一瞬にして平常運転に戻る。


「はぁ……何やってるんだろ、私」


 一旦気にしないようにしようと、明日の高校の入学式の準備を始める。その十分後、スマホが震えて再度メールの受信を報せる。


『from:yuki_firefly』


 今度こそ悠生さんからの返信だ。


 さっき一人でドタバタしたせいか、今度は何の緊張もせずにメールを確認した。


『妹はあなたと同じ名前で『美矢子』と書きます。緩いノリのふざけた奴でした。赤い花が好きで、このメアドも彼岸花の英訳をそのまま使いたがっていたんです。俺はローマ字にしとけって言ったんですがね。変な妹でしょう?』


「へぇ、私とは漢字が違うんだ。……えっ、彼岸花って英語でspiderlilyなの」


 なんという偶然なんだろう。蜘蛛とユリが合わさると彼岸花になるなんて驚きだ。間に「_」を入れるか入れないか程度の違いなら間違えるのも納得できる。


「お兄ちゃんも、お母さんから好きな蜘蛛をそのままメアドに入れる変な子って、言わ、れて……あれ?」


 お母さんとの会話を思い出すと、メールに違和感を覚えた。私はもう一度メールを読み、ある事に気付く。


「これ……過去形……」


 何かの漫画に、結婚する娘の親族挨拶で懐かしむように話す父親が、そんな言い方をしてたのは読んだことがある。でも悠生さんは大学生になったばかりだから、美矢子さんは少なくとも高校生。


 他に使うとしたら第一印象をあとから言う場合。けど自分の妹の説明に第一印象なんて言わないと思う。


 そうなると、答えは限られてくる。


 離別か、死別か。

 詳しいことまでは分からないが、悠生さんと美矢子さんはもう会えていないのだろう。


 文章から察するに、悠生さんは私にその事を伝える気はなかったような気がする。だって四日前にお兄ちゃんの話をしてくれた、お母さんと同じ空気を感じたから。


 もし、私の推測が正しかったとしたら、『みやこ』という妹をなくした『ゆき』と、『ゆうき』という兄をなくした『みやこ』が偶然にも一致したメールアドレスで繋がったことになる。


「お兄ちゃん、凄い贈り物を送ってくれたね……」


 もしかしたら悠生さんの誤字だった、で終わる話かもしれない。私が仲間を求め、深読みし過ぎた結果ならそれはそれでいい。だけど、もし私と同じで欠けた部分を求めているのだとしたら、


「会話を、続けてみたい……」


 会話を続けるなら、向こうが返信をしたくなるような内容にしなければならない。そして、向こうに私の状況を暗に伝えたい。伝わらなかったら、もうやりとりは終わりにしよう。元々、住んでる場所も顔も声も分からない完全な他人だもん。この繋がってしまった糸が切れたら終わり、単純明快だよね。


「よし、じゃあ何に反応してくれるか分からないし色々話しかけてみよう」


 別に立ち直れた訳じゃない。慰められた訳でも悟りを開いた訳でもない。


 ただ、仲間なら行動したいという原動力を手に入れただけだ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ