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Re:第十二話「悠生式サプライズ」

「薄々そんな気はしてたけど……何のヒントも貰えなかったのは、もしかして初めて?」


 悠生さんからメールの返信が来た。が、色々聞いてみても何一つピンとくる案は出てこなかった。


 なんだかんだ言いつつも助けてくれる悠生さんにしては、非常に珍しい。男の人ってそんなに誕生日は意識しないのかな?


 いや、そうだとしても大多数がガム一個に対して、妹の美矢子ちゃんへの誕生日プレゼントは望まれたものの1.5倍にするっていうのは甘過ぎる。お兄ちゃんでさえ、そんなことはしていない。


「私も人のこと言えないけど、悠生さんはちょっと他人と身内の温度差が露骨というか……」


 私は周りが見えていなかっただけだけど、悠生さんは周りが見えた上でどうでもいいとか思ってそう。


 そんな人の内側に、ひょんなことから入り込めてしまった私は、運がいいと思ってもいいのだろうか。


「いや運は良いんだろうけど、もしこのやり方で誕生日プレゼント渡されたら、今後プレゼント貰う時の感覚が麻痺しそう……」


 甘過ぎると言うのも考えものなのかもしれない。


 翌日、私はお父さんからノートパソコンを借りて、誕生日プレゼントの候補と渡し方について調べてみた。しかし、


「無理強いはしない、相手は返礼品を気にしてしまう、もしくは不要なものを貰いたくない意志がある……うーん、言いたいことはわかるんだけど、明日音には当てはまらないよね」


 いくら調べても、欲しがってない相手に渡すべきではないと言ったことが頻繁に書かれていた。


 私もそういう思考の人になら渡す気は無い。でも、明日音は欲しいものが明確だったとしても受け取らない。素直に感謝や祝福を受け取れず、萎縮してしまう。だから、受け取りやすい状況と品を用意しなければならない。


「ヒントは貰えなかったけど、プレゼントに対して良いか悪いかは答えて貰えるかな」


 悠生さん、確か今日のバイトは夕方前に終わるって言っていたよね。その後の予定も特に聞いてないし、今の時間からなら話せるかもしれない。


『昨日あれから考えたんですけど、お菓子とかなら一緒に食べようって持っていけば、何の疑いもなく受け取ってくれると思うんですよ。でもそれだと明日音に伝わらない気がして……。悠生さんはお菓子プレゼントされたら嬉しいですか?』


 まずは食べ物関係。個人的には微妙だと思っているが、悠生さん的にはどうだろう? また想定の1.5倍の量とか言い出すのかな。


 すぐに返信来るかと思っていたが、予想に反して悠生さんから返信は来なかった。


「うーん、まだバイト中かな?」


 まあ後でまとめて返信してくれるだろうし、頭の整理も兼ねてもう何通か送っておこう。絶対最初の返信で『メモ扱いするな』って言ってきそうだけど。


 三十分後。


「えっ、プレゼントにも意味なんてあるんだ。バレンタインだけだと思ってた」


『プレゼントするものによって相手が何を考えているか分かるらしいですよ! 異性同性で意味も変わるらしくて、手袋とか面白いですね。女性同士、男性から女性には特に意味は無いのに、女性から男性に贈ると恋愛的な意味が含まれるようです』


 更に十五分後。


「別に物じゃなくても良いんだよね。旅行……とは言わなくても、ライブとかも良さそう」


『ライブチケットとかも良いかなって思ったんですけど、抽選方法だったり讓渡ルールだったりと結構決まり事があるんですね。というか、明日音の好きなアーティストがそもそも分からなかったです』


 更に更に二十分後。


『バイト、忙しいですか?』


 更に更に更に五分後。


『事故に巻き込まれた、とかないですよね?』


 今までに何時間も返信が来ない、なんてことは何度もあった。メールを打ち切る確率が高いのも悠生さんの方だ。


 それでも、いつもならバイトが終わったら、何かしら返信をくれるはずの悠生さんが、今日は全く音沙汰がない。


 珍しい状況というのは、頭ではそういう日もあると思っていても不安になる。


 何より、私と悠生さんの繋がりはこのメールアドレスのみ。住んでいる場所も知らなければ、顔もフルネームも知らない。


 それもそのはず、知りたいという気持ちに蓋をしたのは、私自身だ。


 聞いてしまえば、きっと悠生さんは形式上の注意をした後に教えてくれる。けどそれは、


「依存、だよね」


 自覚はある。お兄ちゃんへの依存が薄れるに比例し、悠生さんへの依存が進んでいる。傾いた天秤は、いずれ反対方向に傾くことだろう。


 そうなる前に、私はもっと成長しなくてはならない。


『今日は忙しそうですね。たくさんメール送ってしまってすみません! こういうのは私が一人で考えるべきなのに』


 最後にもう一通だけメールを送って、気合いを入れ直す。


「よしっ……親友への感謝だもん。そもそも人に頼っちゃダメだよ。一旦お風呂入って頭の中整理してこよ」


 休憩も兼ねて私はお風呂場へと向かった。


 三十分ほど湯船に浸かって頭を冷やし、湯上りにコーヒー牛乳を飲みながら部屋へ戻ると、スマホから『シャボン玉』が流れていた。


「返信……! 悠生さんか……いったい!」


 返信への喜びと驚きで、思いっ切り机に向かって飛び込んでしまい、膝をぶつけてしまった。


 コーヒー牛乳、零れなくてよかった……。


『何を一人で喋って一人で完結させてるんだ? 返信出来なくて悪いな。バイト終わりにちょっと隠れミッションを遂行してたんだ』


 メールの内容に返信をくれたわけじゃない。変に空回ったメールにフォローをしてくれたわけでもない。六通のメールをたった一通で簡易的に返してきた。


 でも、それでも、私は心の底から安堵してしまった。


『いえ、明日音のプレゼント選びに煮詰まって混乱してただけなので。隠れミッションってなんですか?』


『明日音の誕生日プレゼント案出すために、ショッピングモールを練り歩いてた』


『えっ!?』

「えっ!?」


 あまりの衝撃で脳とメールの内容が直結してしまった。


 なんで? 昨日は自分なんて役不足だって言っていた。それで悠生さんからしたら話はそれまでのはずだ。そこまでする義理は、悠生さんにない。それなのにここまでしてくれる理由がわからない。


『はっはっは、その反応が見たかっただけだ。覚えときな、俺は期待通りかそれ以下に見られてる時の方が予想外に動くぞ。プレゼント1.5倍と同じ原理だ』


 悠生さんの返事は、私の疑問を全て見透かしているかのようだった。


 多分彼の言っていることは全て本音だ。私を気遣っているつもりはない。ただ、純粋に驚かれたくてとった行動。期待して助けを求めると対応は雑に、諦めるとむしろ動き出す。大学生のくせに、やってることはイタズラを企てる小学生となんら変わらない。


「は、はは……ずっとこの人に甘やかされてたら……頭バグっちゃうって」


 いや、きっと甘やかしてる自覚もないんだろうな。本当にタチが悪い糖度だ。


『なんか、美矢子ちゃんの気持ちがわかった気がします……。あっすみません、感謝が先でした。ありがとうございます。それで、何か案は見つかりましたか?』


 驚きは大きいが、煮詰まっていたのも事実。私にわざわざ伝えた、ということは収穫はあったんだと思う。


『残念ながらプレゼント案はない。俺は明日音の好みを知らないからな』


 返ってきた返信は、またしても予想を裏切る答えだった。しかし、メールはその後も続いている。


『ただ、最終的にプレゼントなんて何でも良いと思ったよ。一緒に買い物に行って、一緒にこれが好きだこれは可愛いだなんだと話す。これだけでも楽しいだろ? その中でなんでもいい、彼女がいいなって思ったものを贈るんだ。何が好きか探ろうって考える必要は無い。素直じゃないやつは、そういう特別より普通を求める。誕生日おめでとう! これプレゼント! って祝うより、そういえば今度誕生日じゃん買ってあげるよ、くらいの普段と変わらない声で、表情で贈ってあげな。もし断ってきたら、今日付き合ってくれたお礼だの、新学期最初の思い出だの、向こうが折れるまで適当な理由を追加すればいいさ。とりあえず十個くらい適当な理由を用意しておけばどっかで折れるだろ』


 悠生さんにしては珍しい、本当に珍しい長文。何でも良いとは言っているが、案が出なくて思考を放棄したようには見えない。


 特別を嫌がるなら、特別にしなければいい。

 きっと悠生さんはそう言いたいんだろう。

 ただ日常の中で奢る、そのくらいの気持ち。


 確かに昨日のファミレスとカフェでちょっと高めのメニューを頼んだ時は、明日音も素直に喜んでいた。つまり、あれは正解だったんだ。


 悠生さんの言葉で方針は定まった。


『日常を1.5倍、ってことですね』


『一日は36時間にならないぞ』


『分かってて言ってますよね! 怒りますよ!』


 ああ、もう。ほんと悠生さんって--


「甘いくせに塩対応……あまじょっぱい人!」


 私の乏しい発想では、これが精一杯の悪口だった。

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