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第十話「プレゼント大作戦前夜」

『悠生さん、相談に乗って下さい』

『あかね:相談があります』


 夏の終わりを感じさせない暑さの八月下旬。バイト終わりに確認したスマホには、いつもの女子高生二人からメールとメッセージがそれぞれ届いていた。


「これは……また巻き込まれそうだな」


 二人同時に送ってきて、内容も全く同じと来た。これまでの経験から、面倒事の確率が非常に高い。


「一先ず、明日音は京についてで確定だろ。俺に普通の相談をするとは思えん」


 それなら明日音のメッセージに先に反応した方が、その後の京の相談も楽になるかもしれない。そう考えた俺は京への返信を一旦保留、明日音にメッセージを送った。


『悠生:京になんかあったのか?』


『あかね:まだ何も言ってないのに決めつけるんですか?』


『悠生:じゃあ何の相談だよ』


『あかね:京の事ですけど』


『悠生:おい』


 この子は一回楯突かないと会話が出来ないのか?


『悠生:まあいいや。で、京がどうしたんだ?』


『あかね:この間はありがとうございました』


『あかね:おかげで今日も』

『あかねさんがメッセージを削除しました』


「……ん?」


 明日音のメッセージが止まるまで待っていようと画面を眺めていたが、途中まで打たれて送られたメッセージは、数秒後には彼女の手によって削除された。


 打ちかけのメッセージを読まれるのが恥ずかしくて消したのか、言うべきではないと判断したのか。


『あかね:すみません、忘れてください』


 この反応から考えて、恐らく後者だろうな。明日音が言うべきではないと判断したのなら、彼女の意思を尊重しよう。


『悠生:俺は大したことしてないぞ』


『あかね:もちろん』


『あかね:あんなクイズでなんで上手くいったのか、正直全く全然これっぽっちも分からないけど、悠生さんのおかげです。感謝してます』


『悠生:君は一言多いって言われないか?』


『あかね:初めて言われました』


『悠生:そ、そうか。すまん、続けてくれ』


 こんなに一言余分なのに、誰にも言われたことがないのか……。


 俺との会話は常に反抗的だが、京の近くにずっといる子だ。こういう態度で会話をすることの方が珍しいんだろうな。


 ……ストレスの捌け口にされている気がしないでもないが。


『あかね:で、そんな京がお昼頃からなんかソワソワしてたんです』


『あかね:何かあったか聞いてもなんでもないって言うし』


『あかね:悠生さん何やらかしたんですか』


『悠生:なんで俺がやったことが確定してるんだ……』


『あかね:冗談ですよ。まあ、なのでそれを探って欲しいんです』


「なるほどな」


 ということはつまり、京は何か考え事をしていて、手詰まりになったから俺に相談することにした。そしてその京を見ていた明日音が何かあったのかと俺に相談することにした、と。


「全く、どうやったらこんな構図が作れるんだか」


 不可思議な状況に思わず笑ってしまう。しかし、不可思議な状況は更なる要素を含んでいた。


『悠生:分かったよ。ちょうど京からも話があるみたいだから聞いてくる』


 明日音に承諾の返信をして、今度は京に返信した。


『どうした? クイズはもう飽きたんだが』


『クイズじゃないです! 実は昼間、とんでもない事に気付いてしまったんですよ』


 というか今日って土曜だよな? 夏休みに平日どころか、土曜にも両方会ってるなんて、相変わらず仲が良い。


『夏休みの宿題は早めにやっておかないと、こうやって痛い目を見るんだぞ』


『宿題を溜め込んでたわけでもないです! というか、夏休み二週目にはもう終わってました(`・ω・´)』


『マジか、それは偉いな。それで、何に気付いたんだ?』


 これ以上弄ると話が脱線し過ぎてしまうし、また明日音に呆れられてしまうので、本筋へと舵を戻した。


『実はですね、明日音の誕生日が九月九日なんです。私その事を数年忘れてて……なので、今年は今までの感謝も込めて何かプレゼントしたいです』


 数年忘れてた、か。親友の誕生日を忘れてやるなよって言うのが普通の返答なんだろうが、この場においては凶器と変わらない。むしろ思い出したことを喜ぶべきだ。


「…………そういえば、若月たち(あいつら)の誕生日知らねぇな」


 というか美矢子のことがある前から、連中の誕生日とか気にしたことがない。まあ男同士なんてそんなものか。


 自身の薄情さを性別故のことと頭の中で言い訳して京に返信。


『それで俺にプレゼントの相談ってわけか。…………役に立たないと思うが?』


 女子高生の誕生日プレゼントなんて、考えたこともない。


 美矢子の誕生日プレゼントなら分からなくもないが、あいつはあいつで、漫画の影響で多趣味--というか飽き性--だったから毎年欲しいものが全然違ったし。


『ちなみに悠生さんが欲しいものはなんですか?』


『タイムマシン』


『それは私も欲しいです』


『そもそも俺に聞かないで本人に聞いた方が手っ取り早いだろ』


『明日音って正面からの感謝とか好意を受け取らないんです。今メールしてる人と似てますね』


『急に銃口をこちらへ向けるんじゃない』


 俺と明日音が似てると思われてたのか……。明日音が聞いたら文句のメッセージが山ほど送られてきそうだ。


『悠生さんは近くの女性に誕生日プレゼントを贈ったりはしないんですか?』


『私今日誕生日なんだ、って言われて適当に祝いつつ、コンビニの袋からガム一個渡すことはたまにある』


『うわぁ……』


 顔が見えなくても露骨に引かれたことが伝わってくる反応だ。


 いや、当日に自分から言ってくる時点でもう手遅れだろ。ガム一個でも渡そうと思った事を褒めてもらいたいくらいだ。


『事前に知ってたらちゃんと祝うさ。知り合いの誕生日とかほとんど知らないけど』


『じゃあ知ってる女性、例えば美矢子ちゃんにはどんなプレゼント贈るんですか?』


『欲しいものを直接聞いて用意するぞ。で、何も言わずにプラスαの品も一緒に付ける。もしくは欲しいものの量や質を1.5倍にして贈る』


『げ、激甘……この前教えてもらった溺愛系の女性向け漫画みたいになってますよ』


 確かに美矢子からも「それ彼女にやるやつだから」と言われたが、そんなにか? 失敗するサプライズより、安牌を確保してからのプチサプライズの方が面白いと思うんだが。


『さて、どうだ、役に立ったか?』


 答えは分かりきっているが、わざと聞いてみる。これだけ引かれていて役に立ったわけが無い。


『うーん……とりあえず明日音が欲しそうなものをそれとなく探ってみることにします。これが苦手だから悠生さんに相談したのに……』


 もう既に明日音に様子がおかしいことはバレてるぞ、とは言える訳もなく、相談事はここで終了となった。


「……うーん、何となく後味悪いな」


 とはいえ、俺がいきなり明日音に『今なんか欲しいものある?』とか聞くと、この面白状態は更に複雑化することだろう。できることと言えば、明日のバイト終わりにショッピングモールに赴くくらいだろうか。


「こう……期待されてない状態で行動するってのは、結構好きなんだよな」


 こういうところが素直じゃないって、京は言いたいんだろうな。

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