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Bcc:第三話「目に見えない真実」

 どこで、間違えたんだろう。


 あたしは、京をただ守りたかった。


 結生さんの代わりに、あたしがその役目を引き継ぐんだって。


 あたしは京に近づく者が全員悪だとは流石に思っていない。そんな独占欲とかで守るつもりは全く無い。


 でも、あたしの中の基準はある。

 今回なんて絶対、京にとって良くない関係だと思った。顔も見た事ない人を信じられるなんておかしい。京は騙されて悪影響受けている。そうだと思い込んだ。


 だからあたしも、ルールから外れた行動で相手に立ち向かうことにした。


 なのに、京が授業中に余分な行動をしていたからメールを減らすと叱った、と言われた。

 京の前で話してたら表情を実況されて不利だと助言された。


 なんで悪い関係のはずなのに、まともな注意をするの?

 あたしはあなたを排斥しようとしているのに、なんでそんなに余裕なの?

 なんであたしが不利にならないように場を整えようとしてくれるの?

 もしかして、あたしを油断させて絆されるように仕向けてる?


 私は少しでも脳を過った「悪い人じゃないのかも」を振り払って、強引にでも本性を探ろうと京から聞いた彼の情報を全て嘘だと言い放った。


 彼は動揺しているようで、それを見てあたしはやっぱり悪い人なんだと再び思い込んだ。だからか、勢いに任せて京も巻き込んで非難してしまった。


 こんなこと言うつもりじゃないのに、あたしの身体は言うことを聞かずに非難を続けようとする。その瞬間、


『悠生:やめろ!』


 あたしを止めてくれたのは、あたしが疑った人、その人だった。


『悠生:いいか、それ以上、踏み込むな』


 さっきまでとは違って丁寧な言葉はなく、やっと本性を表したんだと思った。でも、


『悠生:明日音さんの京を守りたい気持ちは十分伝わった』

『悠生:だけど、目に見えているものだけを真実とする君に、俺と京のことを理解することは出来ない』

『悠生:俺の我儘で続けて貰っている関係なのは否定しない。京が巻き込まれたことも事実だ』

『悠生:でもな、あの子がもうやめると言うまで、俺はみやこの味方で居続けるつもりだ』

『悠生:これ以上は本当にもう話せることは無い。明日音さんも京の味方というのなら、よく考えて発言することだ』


 なんなの。


 京に会ったこともないくせに、なんで()()()()()()()()で自分が前に立とうとするの。


 この人は隠し事は無いと言いつつ、何かを隠していることは明確。あまりにも不誠実。なのに、京の味方でいる覚悟だけはあたしと変わらない。いや、むしろあたし以上かもしれないとすら思った。


「目に見えてるものってなんなの? 直接会ったことがない方が偉いとでも言いたいわけ?」


 ムカつく。あたしは一番近くで京を見てきた。京のことはあたしの方が分かってる。そう言い切りたいのに、あたしはもうこれ以上返信をする気にはなれなかった。


 翌日から、今度は京に直接やめた方がいいって言おうとして口に出せない日々が続いた。


 言えなかったのは、ストレートに言ったところで京もやめる気は無いだろうと思ってしまったからだ。だからと言って強引にやめさせて、あたしからも京が離れてしまったら意味が無い。


 悩んでいる間に、高校に入って最初の期末テストが終わった。全然集中出来てなかったけど、追試だけはありませんように……。


 テスト明け一日目は教師陣も気が抜けているのか、ゆったりスピードの授業中ばかり。ほとんど雑談で終わらせる教師もいた。


 そんな適当な時間が過ぎてお昼。


「ねぇ明日音、今日は中庭でお昼食べようよ」


 いつもはあたしからお昼に誘うのに、今日は京から誘ってきた。しかもこの真夏日に中庭というチョイス。正直、教室で良いんだけど、京からの誘いは珍しいし乗ることにした。


 中庭に着き、お弁当を食べ始めようと玉子焼きに手を伸ばす直前、京から何か悩んでいるか、と聞かれた。


 一瞬だけ動揺してしまったが、すぐに自分を取り戻して誤魔化す。


「なら、良いけど……何か困ったことがあったら言ってね? 私だって明日音の力になりたいから」


「うん、ありがと」


 言えない。あたしは京達の関係を断ち切ろうと考えているのに、そんなことを本人に相談なんてできない。


 でも、京から話を振ってくれたおかげで少しだけ話しやすくなった。


「あー、悩み……とかじゃないんだけど……悠生さんって、どんな人?」


「!? え、エスパー……」


「エスパーってなにさ」


 ちょっと誤魔化すように京に問い掛けると、京は何故か驚いた顔で口に運んでいた唐揚げを落としかけた。えっ、ほんとになんでエスパー?


「ああ、ごめん。悠生さんのことだよね。と、言っても明日音には割と話してると思うけど」


「どんな話をしたとかは聞いた事あるけど、どんな人かは教えてくれなかったでしょ」


「あ、確かに……」


 京は箸を置いて腕を組んで少し考える様子を見せる。


「うーん……前にも言ったけど、よく分からないんだ」


 その言葉に嘘は無い。京にとってもよく分かっていないのか、可能な範囲で頑張って話してくれた。


 ただ、聞けば聞くほど怪しい。

 偶然メアドが一致することすらおかしいし、それが京がスマホを買って翌日なのも怖い。それなのに京は笑って肯定する。自分のことなのに、まるで他人事のように。


「悠生さんにはね、美矢子さんって言う妹がいたんだって」


 突然、京は先程も話した彼の妹について話しだした。なんでまた同じ話を?


「その妹さんにメールを送ろうとして間違えたんでしょ? 結局本当のメアドに送れたの?」


「えっ……と……」


 あたしがさっき聞いた話を最後まで代わりに言うと、何故か京は困惑してしまった。


「本当のメールアドレスは多分、私が使ってるこのメールアドレスだよ」


「え、間違えたんじゃないの? じゃあやっぱり怪しくない? 妹も本当にいるか分からないんでしょ?」


 さっきと言ってることが違うじゃん。京のメアドが本当のメアドというのなら、それは確実に京を狙った行動ということになる。だったら今すぐにでもそんな関係やめた方がいい。あたしは今度こそ伝える決心をして京を見る。すると、


「……ねぇ、明日音。葛結生なんて人間、そもそも存在していたのかな?」

「え……」


 京はあたしの方を見ずにそんなことを呟いた。聞き間違い……だよね。京が結生さんの存在を疑うなんてありえない。


「どうしたの、京」


「私は本当はそんな人を見ていない。私は空想の中で葛結生なんてものを作り出していたに過ぎないんじゃないかな」


 京の様子がおかしい。あたしと目を合わせる気はなく、淡々と結生さんの存在を否定する京があまりにも異質で、京じゃないように感じた。


「ねえ、本当にどうしたの!? 結生さんは京のお兄さんでしょ! あたしだって一緒に遊んだことあるし、京が大好きな結生さんは幻なんかじゃないよ!」


 あたしは必死に京を正気に戻そうと、肩を揺すって声を掛ける。


「仮に居たとして、明日音以外は? 私が今から教室に行って、私のことを一人っ子だと思ってる人に葛結生のことを話したらどう思うかな」


 あたしの声は届いたようで届いておらず、まるで結生さんの存在を肯定しているのはあたしだけとでも言いたいようだ。


 また戻ったようだった。京に声を掛けても届かず、必死に平静を装って呼び掛けていたあの頃に。それを思い出してしまい、泣きそうになるが、あたしだけは絶対に味方で居なきゃいけない、と唇を噛み締めて涙を塞き止める。


「京……どうして、急にそんなこと言うの……? 誰かに……何か言われた? あたしは、ちゃんと結生さんの存在を知ってるよ? 誰も信じなくても、あたしはちゃんと覚えてるから」


 自分でも分かるくらい声は震えているが、これが精一杯だった。少しでも気を抜けば涙が溢れそうで力が抜けない。誰かに言われたら腹が立つだけな結生さんの存在否定を、京本人にされてしまうとただただ悲しかった。


 京がやっとこちらを見る。すると目を見開いて慌ててあたしを抱き締めた。


「ご、ごめん! 急にこんなこと言って……。大丈夫、ちゃんとお兄ちゃんは生きていたし、私の記憶に今も鮮明に残ってる。誰かに何か言われたとかでもないよ」


 先程までの表情から一変して、京は最近の穏やかな表情になった。京が元に戻って安心するが、京は手を握ったまま話を続けた。


「でも、後から私を知った人達にはそれが真実とはならない。遺影を見せたら信じるかも知れないけど、そんな不幸自慢みたいなことはしたくない。証拠を見せない限り、疑い続ける人は必ずいる」


「あっ……」


『家族を亡くしたことがない人間が、簡単に声を掛けることは出来ない』

『いくら考えてもその答えは一生出ることはない。あたしに兄弟はいないのだから』


 過去の言葉や思考を思い出す。どれもあたし自身が当時の京を見て感じたことだ。


「明日音には、そうなって欲しくないな……」


 京が何を言いたいのか、全部を理解することは出来なかった。でも、


「目に見えているものだけを真実とする君に理解することは出来ない……」


 彼に言われたことを思い出す。


 あたしは、結生さんが亡くなったことだけが真実だと思っていた。けど、京の言葉と彼の言葉は繋がっている。つまり、彼の妹もきっと……


「えっ? なんかの本の台詞?」


 優しくあたしの肩を撫でていた京が首を傾げる。まさか声に出てた?


「ご、ごめん、な、なんでもない……最近、聞いた言葉を思い出しただけ」


「ふーん? でも良い言葉だね。私が伝えたかったのはまさにそれだよ。言った人とは話が合うかも」


 京は不思議そうにしていたが、彼の言葉を気に入ったのか、うんうんと頷いた。


「うん……きっと、京は気に入るよ」

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