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第八話「味方」

 京との関係を自分の中で納得させる事が出来た数日後、京から相談を受けた。


『明日音が何か悩んでるみたいなんですけど、どうやったら聞き出せますか?』


「いやそれ当事者に聞くなよ……って、京は俺と明日音さんが接触したことを知らないよな」


 あの様子だと明日音さんもわざわざ京に言うこともないだろうとは思ってたが、案の定何も知らないようだ。


「とりあえず何でもかんでも聞くと地雷を踏む可能性があることは伝えるか」


 俺を知恵袋のように使うな、という旨を伝えるだけの返信をしようと思ったが、明日音さんの悩みの種が俺の存在だとしたら、なかなかに申し訳ない。少しだけ、アドバイスになるか分からないが協力しよう。異端者は常にこちらなのだから。


「てか、俺の存在を京が変に隠すのがダメだよな。嘘下手って自分で言ってたし」


 明日音さんには既に連絡先を知られていて逃げ道なんてないし、それならもう京から直接聞いた方が安心するだろう。


 一通目を送った直後だが、京にもう一通、俺について話してもいいと送った。


『ありがとうございますm(_ _)m 早速明日試してみます。でも、珍しいですね。悠生さんが二通も送ってくる上に、個人情報開示を許可するなんて』


『何も誰彼構わずに言っていいとは言ってないからな? 明日音さんなら京の親友だから良いと思っただけだ』


『明日音って私の親友なんですか!? 確かに仲良いですけど驚きです!』


『京はもう少し勉強じゃなくて、漫画とか読んだ方がいいな……』


 これならまだ偽勤勉家の清水の方が、現代的な頭の良さは上に思える。


 仲が良い話をたくさん聞かされて、明日音さんからも明確な守る意志を見せられて、これでただの友達は明日音さんが不憫でならないな……。


 京の作戦が上手くいったのか、数日後に明日音さんからメッセージが届いた。京から上手くいったというメールは貰っていたが、どうにも信用できず半信半疑でメッセージを確認する。


『あかね:先日は一方的な発言をしてしまいすみませんでした』

『あかね:京からあなたの話を聞きました』

『あかね:京も納得してる上での関係、というのは理解しました』


 明日音さんから謝られて、なんだが逆に居た堪れなくなってしまった。


 謝られる事では無いんだよな……。

 間違っているのはこちらであって、明日音さんは一般的な常識を基に敵対することを選んだ。誰にでも出来ることじゃない。


『悠生:いえ、こちらこそ急に口調を強くしてしまい、すみませんでした。分かって貰えたのであれば良かったです』


 メッセージを返信すると、すぐに既読が付いた。が、以前のように即返信は来ず、まるで用件は済んだかのようにスマホは息を潜めてしまった。


「まさかこのためだけに連絡してきたのか……?」

 不思議に思ったがその五分後、明日音さんから返信が届いた。


『あかね:一つだけ教えて下さい』

『あかね:妹さんはどんな人ですか』

『あかね:京の味方でいるために、教えて下さい』


 美矢子の現状を、京は知らない体でいるだけで、知らないわけがない。だから敢えて曖昧に好きに話していいと言ったのだが、明日音さんにも知らないと言い張ったのか。


 ……律儀な奴だ、現実で会うわけが無いんだから、そんな所にルールもなにもないだろうに。


「好きに話していいって言っただろ、全く」


 悪態をついているが、口角が自然と上がってしまう。京から見て、この関係の価値がどのくらいかを垣間見えたようで、正直嬉しかった。


 だからなのか、俺はなんの躊躇いもなく美矢子のことを話せた。


『悠生:妹の名前は美矢子。今年十八歳になる受験生です。お察しはついてると思いますが、生きていればの話です』

『悠生:美矢子が生前、作ると言っていたメアドにたまに美矢子宛のメールを送っていたところ、偶然にも京がそのアドレスを作成してしまった。これが事の発端です。隠していることは無いと言いましたが、この部分は隠してしまいました。すみません』


 毎日一通以上送っていたのは、流石に伏せることにした。そもそもたまに送る時点で、十分おかしな人間ということを自覚した方がいい。


 またすぐに返信は来ず、今度は七分後に返信が来た。


『あかね:教えて下さりありがとうございます。すみません、こういうこと、本当は聞いちゃダメっていうのは分かっているんです』

『あかね:でもあたしはあなたの言った通り、自分が実際に見たものしか信じることは出来ません。正直な話、今でもあなたを信じ切ることは難しいです』

『あかね:でも、だからこそ、見えない部分も可能な限り見るようにしていきたいです。これからも京の味方でいるために』


 明日音さんの決意を聞いて、俺はついつい面白くなって笑ってしまう。


 決してバカにした訳では無い。見知らぬ男に感情のまま突撃してきたり、京の前で連絡を取ったりと、猪突猛進なタイプかと思いきや、今のようにセンシティブな話題には考えて発言をしようとする理性や一般常識がある。そしてなにより、自分のためじゃなく友のために行動した。こんな親友、絶対手放しちゃダメだぞ、京。


『悠生:そう言っていただけるだけで十分です。分かってると思いますが、京にこの話はしないで下さい』


『あかね:もちろんです』

『あかね:あ、あたしのことも呼び捨てとタメ口で良いですよ。年上に敬語使われるの変な感じがしますし、京と同じ方が話しやすいですよね』


 認めて貰えたからか、文章から感じる空気が柔らかく感じる。これが本来の明日音さんの空気なのかもしれない。


 この好意を拒否するのは、むしろこちらが警戒を解いてないという意思表示になってしまうし、お言葉に甘えることにする


『悠生:わかった。別に俺の方もタメ口で構わないよ。お互い京の保護者みたいなものだしな』


『あかね:年上にいきなりタメ口は難しいです』

『あかね:あとその発言はセクハラです』


『悠生:なんで!?』


 女子高生の感性が分からない……。もしかして京もこれまでに何かセクハラを感じていたとかあるのか? ちょっと気を付けて発言するようにしないと。


『悠生:と、とりあえず、和解……でいいよな? 和解出来たってことで一つ提案がある』


『あかね:なんですか?』


『悠生:この前、京が俺に明日音の表情を実況してきたことがあっただろ。それを明日音に伝えたら、京に直接的な攻撃が届いた』


『あかね:あれはあの子が悪いです』


『悠生:ああ、あれは京が悪い。でもこれは使い方によっては悪くないと思うんだ』


 そう、考えていることがあった。


 それは最近気付いた、俺の本当の目的。


 これまで、俺は美矢子の代わりとして適当に会話出来れば良いと思っていた。しかし、明日音を通して、ただ会話しているだけの関係では無いと気付いた時、ある欲が俺の中で生まれた。


 京の成長を見届けたい。

 美矢子の時間はあの日を境に止まってしまった。

 でも、京は違う。


『私は今日から高校生です』


 間違いメールを送ってしまった後に届いた京のメールが、本当に過去の傷痕を治してくれたように思えた。


 だから、見ていたい。せめて高校卒業まででいい。美矢子が歩めなかった時間を、京が歩めたのなら、俺の心の傷は回復する。


『あかね:?? 使い方ってどういうことですか?』


『悠生:京に現実で何か起きた時、俺は直接助けられない。でも京は俺に相談をするかもしれない。そんな時は明日音に連絡を入れるから京に力を貸してやってほしい』


『悠生:逆に明日音ではどうしようもない時は、俺に連絡をくれれば京の手助けをする。一人じゃ無理なことでも二人でなら範囲は広がると思うんだ』


 自分だけじゃ力になれないと言っているようなものだし、明日音だけじゃ京を助けられないとも言っているようなものだ。かなり失礼な提案だとは思うが、お互いの利害が一致している今なら、このやり方は間違ってはいないはず。


『あかね:なるほど……つまりあたしに扱いやすい駒になれ、と言ってるんですね?』


『悠生:語弊がありすぎるなぁ……』


『あかね:冗談です』

『あかね:いいですよ。あたしも、力になりたいと思っても同じ視野を持てないことを悔やんでいた時期があったので、その提案は嬉しいです』


 前回のやり取りが敵対心剥き出しだったせいか、冗談が冗談に聞こえなくて焦る。一先ず冗談を言ってくれる程度には信用して貰えた、ってことで納得することにしよう。


 紆余曲折はあったが、結果的に現実の京に直接手助けが出来る存在が味方になったのは心強い。


 ただ、ちょっと一直線気味なところが不安だ。何か起こる前に釘は刺して置くか。


『悠生:予め言っておくが、京を守ると言っても明日音自身が危険になることはしないこと。これだけは優先して考えてくれ。京の親友に京の代わりに何かあったとしたら京が悲しむからな』


 メッセージを送ると、何故か既読が付いただけで返信は来なかった。明日音の入力速度なら何かしらはすぐに返信が来ると思ったのだが。そもそもメッセージなのだから親に呼ばれた、何か用が出来たなどですぐに返信出来ないのが普通だ。ちょっと明日音が速すぎて感覚麻痺してるのかもしれない。


 明日音から返信が来たのは送ってから三分後だった。


『あかね:すみません。ちょっと動揺しました』

『あかね:はい、もちろん肝に銘じます。というか京ってあたしの親友なんですね。妹だと思ってました』


「もしかして俺の親友の定義が間違ってる……のか?」

 やっぱり女子高生ってのはよく分からないな。

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