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第六話「迷惑メール?」

 蝉の大合唱で起こされる季節が始まった。


『今朝はセミファイナルに遭遇しました!』


『喜ぶな、嫌がれ、女子高生』


 奇跡のような繋がりを得てから早数ヶ月。

 京さん……いや、京はメールの使い方に慣れたようだ。感情表現が分かりやすくなり、口調も丁寧なのは変わらないが、どことなく砕けた感じになった。

 俺も俺で京に対して気を遣うことは減り、本人からも年上なのだからタメ口と呼び捨てでもいい、と言われたことで美矢子と話すような口調で話すようになった。


 あと正直な話、京のご家族--主に結生さん--には謝罪したいことがひとつある。


 丁寧に育てられてきた京に、俺達のような適当兄妹が加わったことで余分な知識を大量に与えてしまった。今送られてきたセミファイナルなんてまさにで、蝉の話題になった際に『セミファイナルって何かの準決勝ですか?』と、言われたことで教えてしまった単語だ。地頭がいいと余分な知識もすぐ覚えてしまうのだろうか。


『私はメールアドレスに蜘蛛を入れる女子高生ですよ? ちなみに転がっているセミは、脚が開いているとセミファイナルだそうです。ちゃんと脚が開いているのを確認して近付きました』


 ……もしかしたら俺が思っているほど、京は頭が良くないのかもしれない。調べて知識を持った上で近付くなんて、夏休みの自由研究をしている小学生と遜色ない。


『知識をありがとう。俺は脚が開いてたら避けて通るわ。そういえば高校ってエアコンつけてくれるのか? 俺の高校は窓を開けりゃあ我慢できる、とか言う教師がいてな。熱血は自分だけにしてくれって思ってたよ』


 今は二コマ目の講義中だが、エアコンがしっかり効いていて、講義も出席さえしていれば単位が取れるもののため、悠々自適にメールを送っていた。


 いや、待て。俺が講義中なら向こうも授業中じゃないか? 優等生に無駄な知識どころか悪い遊びを教えたみたいになるから、非常に辞めて頂きたい。


『今受けてる授業の担当教師は、暑いのが大嫌いらしくてとても涼しいです。というか寒いです』


『教師に言って少し上げてもらいな。あと真面目に授業を受けなさい』


『悠生さんも授業中ですよね? 真面目に受けて下さい』


『生憎と、このコマはテストがない単位でな。ログインボーナスなんだ』


『ログインボーナスってソーシャルゲームの単語って聞いたことがありますけど、この場合は講義に出席、つまりログインすることで簡単に手に入る単位をボーナスと置き換えたってことですね。悠生さん語もだいぶ分かるようになってきましたよ(`・ω・´)』


『人の発言を細かく噛み砕くんじゃない。芸を説明された芸人みたいな気分になる』


『あっ、明日音が寒いって言って室温上がりました! さすが明日音』


 こんな感じで、前よりもだいぶメッセージアプリのような、細かいメールの応酬が増えた。


 そしてもう一つ、京の会話に登場人物が増えた。

 明日音さんと言うらしいが、京の昔からの友達らしい。京の話し方的に、多分親友の域に達しているのだろう。


 京はこの明日音さんの話を偶にする。一応個人情報を知らない人間に簡単に渡すものじゃない、と何度か危険性を指導したことでネットリテラシーは学んだらしいが、それでも明日音さんの話はしたかったようだ。


『せっかく明日音さんが進言してくれたんなら、遊んでないでちゃんと授業を受けなさい。これで学力下がったら、メール送るの減らすからな?』


 このメールを送ると、返信がピタリと止んだ。俺とのメールを減らしたくない、と言われているようでむず痒くなるが、悪い遊びを教えた張本人ということを忘れてはならない。


 俺も気を引き締めて講義を受けよう。そう思いスマホをポケットに閉まった瞬間、もう震えないと思ったスマホが、再度震えた。


 若月辺りからメッセージでも飛んで来たのかと思い確認すると、届いたものはメールだった。


『from:Tomorrow_Melody』


 ……誰だ?

 こんなメアド、見たことがない。京以外は基本アプリでの連絡だし、連絡先を教える時もメアドを教えることは無い。一先ず読んでみようとメールを開いた。


『突然のメール、すみません。添付されているコードを読み取って、メッセージアプリの友達に登録してください。メールは使いにくいので。登録するかどうかはアカウントを見てから決めてください』


 なんだ、この危険過ぎるメール。直球でユーザーコードを送ってくる迷惑メールもあるにはあるが、後半の内容は迷惑メールとは言い難い。


 普段なら迷惑フォルダ行きで終わりだが、なんとなく気になってしまい、つい言われた通りにコードをアプリに読み取らせ、アカウントを確認した。


 アカウント名は『あかね』。そしてアカウントの背景画像には、以前京から送られてきた、たまごプリンといちごのショートケーキ。


 なるほど……正体は京の友達の明日音さんか。それならメアドが知られていても京の落ち度として納得がいく。メールが使いにくいから登録しろ、と言ってきたということは何か俺に用があるのだろう。


 俺は明日音さんのアカウントを登録し、一言『登録しました』とだけ送った。


『あかね:ありがとうございます。少し狡い方法でメアドを勝手に使って、こんな形で登録してもらいすみません』


 なかなか礼儀正しいだな。京の友達と言うだけあって、大人しめな子なのだろうか。


『悠生:いえ、大丈夫です。多分本人から教えて貰ったか、セキュリティの甘さだと思うので』


 以前、京から明日音さんに少し俺の話をしてもいいかと言われたが、流石に直接メアドを教えることはないだろう。大方覗かれたか、俺がメールを送ったタイミングで京がスマホを置いたまま席を外していたとかだと思う。


『あかね:突然の追加なのに驚かないんですね』

『あかね:じゃあ、率直に聞きます』

『あかね:あなたは誰ですか』

『あかね:何が目的ですか』


 怒涛の四連続メッセージが飛んできた。おいおい、授業中だろ君たち。教師は何やってんだ。


『悠生:あの、まずは真面目に授業受けてください』

『あかね:誤魔化して逃げる気ですか?』

『悠生:いや、逃げも隠れもしないんで、京にもスマホ使うなって注意したばかりです』

『あかね:えっ』

『あかね:あっ、本当に使ってない』


 明日音さんの連絡はここで途絶えた。すぐ途絶える当たり、普段は使っていないのだろう。


 さて、

「面倒事が始まるな……」

 俺は小さく呟いてスマホを閉まった。

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