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Bcc:第一話「違和感」

 あたし、日向明日音(ひゅうがあかね)は、最近友達の葛京(かずらみやこ)の行動に違和感を感じている。


 京は兄である結生さんを亡くしてから、なんとか生き繋いでる状態だった。


 自他ともに認めるお兄ちゃん大好きっ子だったから、半身を失ったようなもの。しかも京が死にかけたところを、結生さんが身代わりになったと聞く。


 あたしがそんな立場になったらどう感じるか。しかし、いくら考えてもその答えは一生出ることはない。あたしに兄弟はいないのだから。


 でも、気持ちがわからなくても寄り添うことは出来る。京に声が届くまで、あたしは変わらないテンションで話し掛け続けた。


 高校に入学して二日目。一年半も掛け続けたあたしの声は、突然京に届いた。


「おはよう、京」

「あっおはよう、明日音。入学前にスマホ買ったんだけど、明日音の連絡先教えて。そういえば同じクラスなんだね」


 あたしは目を見開いた。これまで話し掛けても言われたことに返すしかしなかった京が、今日は自分から話題を持ち出してきたのだ。


 ……泣いちゃダメだ。今泣いたら京が困惑するどころか、教室中に「入学二日目で泣き出す女」と自己紹介することになる。


「……す、スマホ買ったんだ。ユーザーID渡せばいい?」

「ユーザーIDってなに? メールアドレスじゃないの?」

「あんた、嘘でしょ」


 京のせいで泣きかけたのに、京のおかげで涙が引っ込んだ。この時代にメッセージアプリを知らない女子高生なんている?




 それからというもの、京はあたしの予想を遥かに超えるスピードで、どんどん表情が柔らかくなっていった。柊ちゃんと土屋ちゃんという新しい共通の友達も出来たし、人当たりも良いことで男子からはお近付きになりたいオーラが見えるくらいだ。でも、だからこそ、あたしから見たら違和感しかない。


 ()()()()()()()


 最愛の人を亡くして一年半も心を閉ざしていた子が、こんな急に元に戻れるもの? 入学までの間に何があったの?


 京の回復に比例して、あたしの不安は募っていった。


 そんな中、高校に入って初めての連休、あたしは連休中の宿題を片付けるため、京と一緒にカフェに行くことにした。


 京の解いた問題を写そうとノートを見ようとするが、京は昔のように宿題を写すのではなく自分でやれ、と言った。それがあまりに嬉しくてついこの間までの京の姿を話してしまい、京から謝罪された。


「京が謝ることじゃないよ」


 あたしはそう言って、京が回復していることが嬉しいと伝えた。だからこそ、聞きたい。


「ねぇ京、無理してないよね?」


 あたしは本音を少しだけ漏らした。それを聞いた京は笑顔で大丈夫、と答えた。その顔は無理をしているようには見えず、昔の京に戻った、そんな表情だった。


 あたしはその言葉に安堵して、宿題を片付けようとすると、京のスマホに着信が入った気がした。気がしたというのは、何かメロディが聞こえた瞬間に京の右手が普段からは想像もできない速度で動き、着信を止めてスマホを確認し始めたからだ。


 確認する前は明るい表情だった京は、数秒後には落ち込んだ表情になり、その更に数秒後には何かを思いついたような表情をした。何だこの生き物。


「み、京? どうしたの? なんか見たことない速度で動いたと思ったら、表情が乱高下してたけど」


「何でもないよ。ところで明日音って、メールの通知音を個別に変えるやり方って知ってる?」


 京は感情を隠すように、一口紅茶を飲んでから質問してきた。数日前にメールで使えるスタンプを聞いてきたりと、何かとメールに拘っている気がする。京のメッセージが基本的に複数の内容をまとめて一回で返信してくるのも、言ってしまえばメールっぽい。


 京のお母さんとかの年代はまだメールの方が馴染みがあるのかな? なら、お母さんって分かる着信音は便利だ。


 少し前の学生は、メールの着信音を好きな人や恋人だけ恋愛ソングに変える、なんて青春風景があったとお母さんから聞いたことがある。メッセージアプリって、そういうところは無機質だよね。あたしもそんな青春してみたい。


 京に着信音の変え方を教えてみたところ、あたしの予想は外れて、変えようとしてる相手は京のお母さんではなかった。


 じゃあ、誰なの?


 京の交友関係はあの日を境にほとんど途切れた。あたしですら、同じ高校でなければ途切れていただろう、と悲しみを覚えたくらいだ。


 そんな状態の京が、両親以外で特定の人に向けて着信音を変えるなんて、とても信じられない。京の祖父母の可能性も考えたが、それならそうだと断定してくれるはずだ。よくメールする人、だなんて抽象的な言い方は京らしくない。


 誰か尋ねてみたが、京は露骨な嘘をついて話題を曖昧にした。


 怪しい……。


 と、その時、件の人? からメールが届いたようだ。京はメールに気付くとパッと笑顔になってスマホに張り付いた。


 その笑顔は、あたしのよく知っている「結生さんと一緒にいる時の京」だった。


 あたしは気にしない風を装って、カフェのメニューを開きメールの返信を勧める。しかし、スマホ越しに存在しない人物を見ている京が気になって、メニューなんてまともに見ていない。


 故人からメールが〜、なんてアニメやドラマを観たことはあるが、そんなものは作り話だ。現実で起こったら、それは百パーセント詐欺。でも、京がスマホを買ったのは入学式の数日前と言っていたから、たった数日でピンポイントな詐欺が来るとも思えない。


 ねえ、京。メールの相手は、誰? 京が元気になったことは嬉しいから今は見守るけど、それが紛い物というのなら、あたしはその人を許すことは出来ない。

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