B君はもう抵抗出来ない
「くっ、そこのお兄ちゃん達、私を助けてよ。 助けてくれたら、何でも言う事を聞いてあげるわ」
うわぁ、俺を巻き込もうとするな、この小娘が。
「逃げるぞ」
俺はB君にこう言ったのに、B君は大バカだったんだ、それとも小娘に一目惚れでもしたんだろうか。
あり得ないぞ、小娘を捕まえている暴力団を、いきなり殴りやがった。
ひぇー、なんて事をするんだよ、殺されちゃうよ。
「お兄ちゃん、逃げるわよ」
わぁわぁ、俺はあんたの兄では、ありませんでしょう。
隙をついて拘束を逃れた小娘が、俺を完全に引き込みやがった、ひどいよ。
もうこうなったら、逃げるしかないです。
俺はまたドアを蹴って、外へ走り出した、小娘も当然のように後をついて来ている。
しとしと降っていた雨は、本降りとなり、繁華街はさっき以上のゴーストタウンだ。
バラバラに逃げた方が良いんじゃないかな。
そう俺が言う前に、B君がドアをぶち抜いて、こっちにやってきた。
正確に言うと、ボコボコにされてから、投げ飛ばされたんだ。
もう一ミリも動いていないぞ、見覚えがなった顔が、アクション映画で良く見る顔になっている。
血みどろだ。
最後に出来てきたトドママは、「ギャー」と叫んで、ドスドスと〈桜草〉の二階へ逃げて行った。
危機察知能力は、野生のトドなみだな、本能に従って生きているんだね。
「おい、兄ちゃん、ふざけたまねをしてくれたな」
そんな低く冷静に言わないでおくれよ、僕は根が真面目な好青年です。
「うっさいわ。 お兄ちゃんが、私を逃がしてくれるのよ。 ねぇ、お願い」
きゃー、なんて事を言うんだ、止めてくれよ、許してちょうだい。
おっぱいを背中に押しつけても、無理なものは無理なんだ、俺がすごく弱いのを知らないな。
「ははっ、どうすんだよ」
「がはっ」
うわぉ、B君が道に敷いてあった煉瓦を両手で握り、暴力団のお兄さんの後頭部を、ボコ、そしてボコってしたぞ。
煉瓦敷きのレンガが、浮いたままに放置されていたんだな、寂れてしまい資金不足なんだろう。
「くそっ、よくも〈つばさ〉をやりやがったな」
もう一人の暴力団のお兄さんが、B君を蹴りまくっている、B君はもう抵抗出来ないらしい。
そりゃそうだ、血みどろだったからな、さっきのが、最後の馬鹿力って言うヤツだろう。
それか、何か危ない薬でもキメてたんだろうな、動けそうな体じゃ無かったもん。
「お兄ちゃん、はい、レンガ」
小娘が俺にレンガを手渡してきた、こいつ何なんだ。
自分でやれよ、そう思ったけど、今やらない訳にはいかない。
そうしないと俺もやられてしまう、そんな状況に追い込まれています。
「ドゴォ」
暴力団のお兄さんの後頭部から、嫌な音が聞こえた、俺が思い切り出した音だ。
「うーん、やり過ぎかな。 ちょっとマズいわね」
言われなくても知っているよ、血を流して倒れている男が、三人もいるんだぞ。
警察に逮捕されてしまうし、暴力団の仕返しが当然あるだろう、刑務所内で虐められるかも知れない。
「そんなの嫌だ」
「ちょっと、叫ばないでよ。 それより何か考えたら」
お前も考えろよ、と強く思う、でもしょうがない。
「今から隙間を作るから、運ぶのを手伝えよ」
「はぁっ、おかしくなったの」
俺は例の刃物で目の前の空間を切った、こうするのが一番だろう。
死体が無ければ事件じゃない、警察も暴力団も動かないと思う、そうであって欲しい。
「娘さんよ、足の方を持ってくれ」
「えっ、どこに運ぶのよ。 店に運んでも無駄だわ」
「いいから持てよ」
「ふん、怒らなくても良いじゃない。 持つわよ」
俺はまず小娘と、〈つばさ君〉を運ぶ事にした、体重が一番ありそうなので、体力があるうちにしようと思ったんだ。
「えぇー、なんなのよ、これは。 おかしいよ」
「いいから運べよ」
「ふん、でも異常じゃん」
「いいから黙って運べよ」
「ふん、分かったわ。 お兄ちゃんは、不思議な力があるのね」
不思議な力か、でもな、これが何の役に立つんだ。
事件をもみ消すのに役立ってください、神様どうかお願します、お祈りいたします。
俺と小娘は汗みどろになって、三人の男達を異界の中へ運びこんだ。
もうへとへとだ。
小娘も荒い息を吐いて、座り込んでいるな。
雨と汗で服が肌に張り付いているのが、かなりエロい。
少し服がめくれて見えたのだが、ブルーのブラジャーをしてやがる。
最近の高校生は純白じゃ無いんだ、良いのか悪いのか、難しい。
「お兄ちゃん、これからどうするの」
「娘さんよ。 俺はお兄ちゃんじゃない」
「ふん、じゃどう呼べば良いのよ」
「そうだな。 俺の名前は〈よしき〉だ。 〈よしき〉様と呼ぶがいい」
「はぁっ、様づけ。 冗談はよしき。 うっ。 そうだ、〈よっしー〉で良いじゃん」
この小娘、恥かしい事を言ったから、赤くなってやがる、可愛いとこもあるんだな。
「あははっ、〈よっしー〉か、プレシオサウルスみたいだな。 まあ、良いか。 娘さんはどう呼んだら良いんだ」
「笑わないでよ。 自分でもショックなんだから。 うーん、そうね。 私の名前は〈さちの〉だよ。 様づけはいらないわ。 さんづけね」
どう考えても本当の名前じゃないな、トドママのことだから、何も考えずに〈さくら〉と名付けていそうだ。
「〈さっちん〉か。 幸せになれると良いな」
「はぁっ、〈さっちん〉って何よ。 ちんが卑猥じゃない。 他にも呼び方があるでしょう」
「これからどうするか聞いたよな、〈さっちん〉。 他にどうしようも無いから、神様に祈ろう」
「〈さっちん〉は止めてよ。 それに、お祈りをしても無駄じゃないの」
「きぃー、神様の前で何てことを言うんだ。 バチが当たるぞ」
〈さっちん〉は「私は生まれてからバチばかりよ」とブツブツ言いながらも、目を閉じて祈りを捧げている。
おっ、コイツ以外にまつ毛が長いんだな、黙っていれば可愛いのに。