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Chronosphere 〜貴方を殺めた世界に、花束を〜  作者: サム
第四章「バルザ海の航海」
40/74

Episode40「生きたい」

夜明け前。

ノアたちは、目の前に広がるバルザへ続く3kmの「バルザ海峡」を見つめていた。島にボートなどはなかった。

だが、バルザ海峡は全体的に水深が浅く、途中に休める小島もある。


「3kmの海峡…やっぱり泳ぐしかないか。」

「途中で休めるポイントもいくつかあるし。」

「恥ずかしいが、俺は泳ぎは得意じゃねぇんだよなぁ…。」

「…………。」


エリスは海を見つめ、何かに怯えているようだった。

「…エリス?」

「…私、泳げないの。」


記憶の奥底でうずく痛み。

水の冷たさ、沈む感覚、意識が薄れていく感覚。彼女の脳裏には、幼い頃の光景が蘇っていた。

戦争で故郷を焼かれ、必死に逃げた先で力尽き、盗賊団に拾われたあの日。


「生きたいか?」

闇に包まれる意識の中、誰かの声が聞こえた。

「お前に魔法を授けよう。」

「お前がそれを望むとき、目覚める。」


盗賊団たちが幼きエリスに使用した「復活の魔法」。瀕死の者を復活させることができる魔法で、「生きる」という強い意思さえあれば、傷一つなく復活することができる治癒魔法の一種だ。


「おい、エリス…なんかヤバいぞ。」

「……風が…?」

「す、すごいわ…!!」


エリスの体が光を帯び、足元から魔法陣が広がる。

「私……生きたい…!」

風が渦を巻き、体が浮かび上がる。空気が凝縮し、形を成し翼のように広がったのだ。


「……飛んだ……だと!?」

「ば、馬鹿な…!?」

「エリス、すごいわ!!!」


To be continued…

復活の魔法 ― Regeneratio Vitaeレゲネラティオ・ウィタエ


古来より伝わる蘇生術のひとつ。

これは、瀕死の者――命の灯が今にも消えようとする者にのみ効果を発揮する。

一度唱えられれば、傷も疲弊も癒え、命は元の輝きを取り戻す。

その身も心も、まるで最初から傷ついていなかったかのように蘇生する。


だがたったひとつだけ厳しい条件がある。

それは、瀕死の者自身が、「生きたい」と心から願っていること。


いかに強力な魔法でも、本人にその意志がなければ力は及ばない。

希望なき魂には、この光は届かない。


ゆえに、この魔法が真に効果を発揮したとき、そこにあるのは魔法の力だけではない。

生きようとする強い意志と、救おうとする者の祈り。

その二つが交わるとき、初めてこの世界に"奇跡"が生まれる。

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