Episode1 「ただいま」
外も暖かくなりはじめ、春の訪れを感じ始めた頃。少年ノア・エバンスとその両親は、特急列車にのって家族旅行へ出かけていた。
「ノア、久しぶりの家族旅行なんだから楽しんでいこうぜ」
と父クラウスが優しく話しかける。
「うん、分かってる」
12歳で、反抗期というのもあり少し親にそっけない態度を取るようになっていた。
エバンス一家は持ち込んだお菓子などを食べたり、景色を見たりして王都までの道のりを楽しんでいた。
冷戦中ということも忘れて…
そう、ノアたちの住む「クロノスフィア王国」と隣国である「ザジャル帝国」は、前から極度の対立関係にあった。6年ほど前に、国境付近で戦争も勃発したが王国軍が勝利した。だが、未だに和解できていないのだ。
なので、いつ再び戦争が勃発してもおかしくない状況なのだ。
エバンス一家はこんなことも忘れるほど、道のりを楽しんでいた。
ヴェルザンド駅を出発して、王都まで半分ぐらいの道のりに差し掛かった頃だった。
「危ない!!!」
父クラウスがなにかを察した様子で叫んだ。
ノアと母ブランカは困惑した表情で彼を見つめた。それは周りの乗客もだ。
そのとき、車内に閃光が走った。
「うわああああ、なんだ?!」
乗客たちは皆悲鳴を上げ、パニックに陥った。
「心配するな。お前たちは俺が守る!!アイギス・サンクタ!!」
次の瞬間、轟音とともに大爆発が起きた。
「うわああああああああ!!!」
ノアは列車の外へ投げ出された。列車のほうを見ると、まるで列車にとどめを刺すかのように、幾度と爆発が起きていた。
「あぁぁ!父さんと母さんは?!!」
そう叫び、列車に向かって走ろうとした瞬間、四肢に激痛が走った。
「ギャアアア!!」
見ると、両腕両足に火傷のような傷ができていた。さらに、強い鈍痛がやってきた。その痛さに耐えながら、列車に向かって走り出した。
「か、母さん!母さん!!」
ノアは、母の焼死体の前でしゃがみ込み、涙した。だが、いくら探しても父の姿が見当たらない。
ノアはあの大爆発をまともにくらって生き残れるはずがないと思い、再び涙した。
ノアは変わり果てた姿になった母をその場に埋葬した。
「母さん、俺だけ生き残ってごめん…」
そう呟き、母の形見のアクセサリーを首につけ、線路沿いを歩き始めた。
だが、日差しが強くなりノアの体力は少しずつ削がれていった。
「ハァハァ、どこかに村はないのか…?」
ヴェルサンド駅とエルシェリア駅は、長い駅間となっているため、街にたどり着くためにはかなり歩く必要があった。
ノアは線路をはずれ、近くにあった大きな道路を歩き始めた。
1時間ほど歩いたときだった。
「な、なんだあれは」
ノアは目を凝らして言った。そう、あれは村だ。やっと村にたどり着いたのだ。
「やった、村だ!!」
そう叫んだが、もう歩く体力は残されていなかった。ノアはその場に倒れ込んだ。
目が覚めると、そこはベッドだった。
「はっ、ここはどこだ?!」
ノアは知らない人の家のベッドにいた。
「ああ、ようやく目が覚めたか。道端にぶっ倒れていたから心配したよ。意識がもどってよかったぜ」
そこには、ヒゲを生やした中年の男が立っていた。
to be continued




