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7話 カエルとバトル

 店長の代理を任された以上、断るわけにはいくまいと開店の準備を進め始めていた。何しろ私は一文無しの女だし、断る権利なんかもはやない。


 「……ねえ、ティランプ」


 薄汚れたテーブルを布巾で洗いながら、何もしていない彼に語り掛ける。


 「あなたも手伝いなさいよ!」

 「What?」


 ティランプは両手を広げ、ポカンとした表情を。


 「いやいや、これ結構しんどいのよ」

 「……うーん、そうか。大統領が手伝うのは威厳に関わりそうだが、そこまで言うなら仕方ないな」


 納得してくれたのか、彼は古びたロッカーからバケツとモップを引っ張り出す。

 意外と素直なのね、コイツ。

 彼が店の掃除を手伝ってくれたおかげで、私の想像よりもだいぶ早くに終了した。

 埃が積もっていた店内はすっかりピカピカ。よほど目がいい人じゃないと、ゴミを見つけ出すのは困難だ。

 さて、少し休憩を――――と思った時、店のトイレからティランプのどこかユニークで間抜けな声が。


 「ちょっと何よ?」


 呆れ気味に、椅子に座りかけていた腰を上げる、

 トイレの方へ向かうと、水がバシャバシャと跳ねる音が聞こえて来た。


 「何してるのティランプ……」


 彼は慌てた様子でトイレから飛び出し、私にしがみ付く、


 「怪物が、現れた――――」


 珍しく、冷静な声。


 「はあ? 怪物なんか絵本の……え、な、なにっ!?」


 突如、何かが吹っ飛ばされる轟音が響き、その音の発生源であるトイレへと視線が刺さる。


 「おい行くな! 本当に危険なんだ!」


 ティランプに呼び止められるが、何が起こったのか気になってトイレに入る。

 ……男子トイレだけど、まあいっか。


 「ちょっと、ほんとに何なのよこれ……」


 眼前に広がる光景を受けて、思わずそんな困惑した独り言が。

 個室の内の一つから水が溢れている。身を隠すための扉も大破だ。

 そして、何らかの生物の足音が鼓膜に漂着する。

 ペタペタ、と水が体に張り付いた音。

 この異様な状況に息を呑み込み、壊された個室を覗くと――――


 「ひゃあっ!? 何よこの生き物!?」


 こんなの、私は知らないし見たこともない。

 粉砕された便器に跨るのは、付着した水で緑の体が不気味に光るカエル。しかし、サイズが尋常ではない。私や他の人達が想像するカエルは掌に収まる程の可愛い生き物。が、目の前にいるソイツは幼稚園児と同じくらいの身長だ。多分、一メートルはあると思う。あと、背中に無数の棘も。


 「か、カエルなのこれ……?」


 絶対違うと分かりながらも、そう言ってしまう。


 「あっ――――」


 戸惑っている内に巨大カエルが飛び掛かって来た。地面に伏せられ、下劣な舌で顔を舐められる。


 「は、離れろ……! キモイ……」


 大きいとはいっても所詮はカエル。

 すぐに引き離せると思っていたが、中々の腕力。私の力の無さも相まって拘束力は強くなっていく。

 首を粘液が付いた手で締められ、途端に息が困難に。


 「う、ぐっ……!」


 気道が狭くなっていくのがよく分かる。このままだと、私は、死ぬ。


 「Fu〇k You!」


 侮辱の意を含んだティランプの叫び声と共に、カエルの頭部に彼が投げたであろう花瓶が直撃し、私は拘束から解放された。


 「はあっ……!」


 地面に転がり、呼吸を確保。


 「アヴァカン大丈夫か!」

 「ええ、何とか……」


 少し咳を吐き出しながら、駆け寄って来たティランプの肩に掴まって立つ。


 「それにしてもこのカエル、一体何なの……」

 「普通のカエルだ。ただ、こういう田舎だと巨大化しやすい」


 至って普通に述べたが、一ミリも理解できない。こんなヘンテコなものをカエルとは認めたくない。というかここまでの巨大化はもはや突然変異だ。


 「だが、こんなにデカいのは久々だな……」


 何故か小さく笑うティランプ。


 「てぃ、ティランプ?」

 「アヴァカン!」


 いきなり大きな声を掛けられて体が一瞬震える。


 「この店には二階がある。そこに行ってAC-15を取って来るんだ」

 「な、何それ?」

 「自動小銃だよ、自動小銃。ともかく上に行けばそれがあるから頼んだぞ」

 「わ、分かったけど……あなたはどうするのよ?」

 「こいつを広い場所におびき寄せる。なに、心配は不要だ。カエル如きにやられては大統領をやるのは不可能だからな」


 天に浮かぶ太陽のように眩しい微笑みを浮かべる。

 このティランプとかいう政治家、たまにイケメンになるのズルいわね。

 彼の言葉を信じてトイレを颯爽と離れ、二階へ直行。

 固い木材の階段が駆け抜け、上に到着。一つのドアがある。ここに自動小銃とやらがあるんだろう。


 「……」


 入室する寸前、騒々しい音が響く一階に視線を送った。

 ドアノブを捻り、個室にお邪魔させてもらう。

 内装はとても質素で、実用的だ。

 目に映るのはベッド、机、クローゼットぐらいだ。本棚も一応あるけれど肝心の本がほとんどない。


 「これに入ってるのかな?」


 ベッドの横に置かれた頑丈そうな金庫を発見。鍵は掛かっていない。鋼鉄の扉に銃のマークが描かれている。

 重たい鉄の扉を手前に引けば――――軍隊で使われているのではと思う程の洗練された風貌の小銃が姿を現す。私が知るマスケット銃とは根本的に見た目も構造も異なる。


 「変わった銃ね……」


 本当に、色々と特異だなと思う。

 真っ黒な銃――――グリップは細長く独立していて、ストックは面白いことに伸縮が可能。バレルは前方に伸びておりサイズそのものは大きいが、不思議と重量はそこまでない。素材も鉄と……樹脂みたいなのが混じっている。

 ティランプに託された珍妙な小銃を両手で抱え、一階へ足早に下る。

 物音は一段と激化。


 床には食器や家具が散乱。

 そして、カウンターの前では巨大カエルと、どこからか持ち出して来たハンマーを片手に睨むティランプが。

 殺気だけが蔓延るこの空間。

 まさに、空前絶後の恐ろしさ。


 「ティランプ持って来たわ!」 


 彼に謎の物質で生成された銃を手渡す。


 「Thank Youアヴァカン!」


 ティランプの表情に勝利を確信するものが宿る。

 手慣れた動きで何らかの黒い箱を銃の底部に差し込み、レバーを引いて構える。


 「Fuck y〇u!」


 この大統領、何回放送禁止用語連呼するのよ……と思っている間に、険しく冷酷な銃声が一つ、また一つと。

 紫の体液が床に染み渡る。言うまでもなく、それはカエルの液だ。

 カエルの腹部と頭部にそれぞれ穴が開けられている。ティランプは政治家の癖に戦闘もこなせるのね。万能極まりない。

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