2話 エメリカ
エメリカの自由を象徴する首都、ワシントル。
初めてお目にかかる近代的な高層ビルや自動で動く馬車みたいな乗り物。ガスを吹き出しているのが見える。
「まあ……凄い場所ね」
そう――――私は、大統領のティランプと共に超大国エメリカへと来ていた。理由は彼から告白されたのと、この街にある裁判所であのクソ女に罰を下すためだ。
そんな私は今、数日ぶりに清潔な衣服へと着替え、シャワーも浴び、リムジンという未知の乗り物に搭乗していた。ティランプは隣だ。例のアイツは後続の小さな牢屋が備えられた車両に閉じ込められている。何か叫んでいるが、この乗り物には完全な防音設備が搭載されているので私からすれば意味不明そのもの。
「アヴァカンさん――――いや、アヴァカン、普通に喋ってもいいか?」
「いいけど……」
いきなり呼び捨てにされた上、タメ口で話してきたので少し驚いた。
「改めて紹介するが、俺はエメリカ合衆帝国第45代大統領のダナルド・ティランプだ。よろしくな、アヴァカン・キーレフ」
「え、ええ、よろしく……」
最初の頃と様子が随分変わった。紳士的な男性なのかなと思っていたけれど、実はこれが素なのかな。でも、何か憎めないような……。
というかティランプ、昼間なのにお酒を飲んでいる。こんな時間に飲んで大丈夫なのかしら。
「ねえティランプさん、お酒、やめておいた方が……」
「ん?」
彼は酒が少し残ったグラスを机に置く。
「これは酒じゃないぞ、アヴァカン。ケーラという炭酸ジュースだ。あと、俺のことは呼び捨てで構わん」
快活に笑い声を出す。車内の小型冷蔵庫から瓶を取って私に渡す。
「飲んでみろ、美味いぞ」
「う、うん……」
断れる気にもなれず、渋々受け取った。
冷えた独特の感触が掌に浸透する。
透ける瓶の中には泡立った茶色の液体。
「……」
得体の知れない飲料に若干の不安が浮かぶが、ティランプは幸せそうな表情でそれをゴクゴクと喉へ流し込んでいるので、私も意を決して蓋をもぎ取り、その液を口内に入れた。
「っ……!?」
甘くも、強烈で爽快な刺激。
喉が痛むが、そんなのは気にならない程の快感。
あまりの美味に、ケーラという未知の飲み物を一気に飲み干してしまった。
瓶の底には数滴のケーラが残る。
「こ、こんなものがこの世界に……」
手を口に添え、空っぽの瓶を眺める。
「どうだ? 俺の国の飲み物は」
「ごめんなさい……最初はマズいのかなと思ってたけど、とても美味しいわ」
「ははは、だろ? おかわりも――――お、着いたみたいだな」
リムジンとやらが動きを緩める。
窓の外にはコンクリートの無機質で大きな建造物が。
「これがエメリカ中央裁判所だ」
車を降りると、後続の車両からも警備員に取り押さえられながらクソ女が出て来ていた。裁かれるのが嫌なのか、悪あがきするが頑強な肉体を持つ男達にそれは敵わない。
裁判所の受付でチェックを済ますとティランプと共にアイツが罰される姿を見るために傍聴席へ腰を下ろしていた。
数分経過して、奥の部屋から警備員に連れられたクソ女が登場し、裁判長の前に立った。
とても虚しく悲しく悔しく憤った表情を浮かべているが、こっちから見れば面白い。もっと苦しんじゃえ、とすら思ってしまう。
「さあ、始まるぞ――――」
ティランプが静かに、少しの笑いを含ませて、呟いた。