咫尺天涯戦隊ヒョウリュウジャー 〜アップルパイは嫉妬の爆発を生む〜
クリームソーダ後遺症祭り 参加作品です。
咫尺天涯戦隊ヒョウリュウジャー関連のお話になっており、ページ下部にあるお話の小ネタが出ていますので、そちらを先にお読みになるほうが、話が見えるものになります。
ここは、ヒョウリュウジャーのアジト『NAROU』のすみっこ。
すみっこな場所の更にすみっこなところに、画面と睨めっこする物体が落ちている。
「よし、動作は正常のようだな。よきよき」
白いオンボロ物体は、画面に向かってキリッとした顔を向ける。
画面には、緑色の戦隊モノヒーローのようなスーツが表示されている。
「耐久テストがまだ不十分よな……かと言ってワシがブン殴るわけにも、道徳的にいかんし……」
オンボロ物体は物騒な事を口走るけれど、法律は守る。いざという時のために、潔白である状態を常に心がけている。
いざという時というのは、普通に暮らしていたら起きる確率など低いのだが、雷が目の前に落ちてきて、その余波(側撃)をもらったことがあり、低確率なものに悪い方面でブチ当たる不運な奴であるため、割と用心していたりもする。
「ちーっす」
画面に映っていた緑スーツと同じものを着用した男が、部屋に入ってくる。
物体はすぐさまWindowsボタンとLキーを押して、画面ロックをかける。セキュリティ意識は高い。
「うっす」
物体についている、ちまっとした手のようなものが上がり、挨拶を返す。
「相変わらず部屋暗いね……」
緑スーツはうっっっっす暗い部屋を見回す。
「そこはしゃーない、ワシは根暗物体だからな!」
「光に弱いからでしょ。はい、これ。お土産のアップルパイ」
「マジか、さんきゅー!! 米は入ってないよな……?」
物体は日本に住んでいるのに、主食の米がアレルギーである。ほとんどのコメがアウト。
実は至る所に入っているコメに、日夜攻撃を受けている(主にうっかり食すため
ヒョウリュウジャーパワーを持ってしても、アレルギーは防げないし弾けない。
「そこはお店で訊いたら、本部まで電話回して、確認済み」
「まさかの確認済みかよ、確認なくても食うけどさ」
「そうやって体張って、またアレルギー反応出ちゃったら大変でしょ!」
彼は、かなり気が利く優しい男である。
普通の人なら注文して、すぐパッケージングしてもらうはずの商品に、わざわざ時間をかけて確認を取ってくれる。
マメな男だ。豆のような緑色の成せる技なのかも知れない。
物体は笑顔でお土産を受け取り、お礼を言う。
安全に食せるものは遠慮なくもらうのだ。
◇◆◇どこぞのメイドカフェ
「GPS解析結果によると、アップルパイの店によってしばらく停滞。その後NAROUに行った模様」
チェリーレッドが、スマホアプリに表示されたモノを、目の前のレディたちに伝える。
ちなみに此処で言うGPSというのは、一般的なグローバル・ポジショニング・システムではなく、『グリーン』・ポジショニング・システムの事である。
「また……アップルパイに浮気してるのね……っ!!」
「しかも停滞ってことは、罪悪感と戦いつつ、誘惑に負けたのね……!」
サファイアのようなレディと、エメラルドのようなレディたちから、呆れと怒りを滲ませた震える声が出ている。
誘惑に負けたわけではなく、米アレルギー物体への土産として、安全確認を行なっていただけなのだが、GPSではそこまで読み取ってくれない。
誤解オブ誤解である。
「よし、出来た! これをグリーンに渡す時が来たわ! 善は急げね、行ってきて!」
「え、自分が?」
サファイアのレディからレッドへの指示が飛ぶ。
レッドはメイド喫茶の利用料金(特別請求含む)分の滞在時間であり、まだ途中も途中である。が、目の前のレディたちのお願いを断ってしまうと、今までの(財布の)努力は、すべて気の抜けた炭酸になってしまう。
仕方なし、バッグから折り畳まれたプラスチックみたいな板を取り出して、折り畳まれたものを広げ箱状にする。
ソーダの炭酸やアイスクリームを保護するために、ヒョウリュニウムという、特殊素材できた組み立て式の箱へ、レディたち特製のクリームソーダを入れる。
――説明しよう!
ヒョウリュニウムというのは、咫尺天涯戦隊ヒョウリュウジャーの世界にだけ存在する特殊元素で、さまざまなご都合主義を作り出すアイテムだ!
ヒョウリュウグリーンのスーツの素材にもなっているぞ!
主にとかげブルーが、魔改造を楽しんでいる。
魔改造したブツの実験は、主にグリーンが犠牲……げふごふ……性能テスターに選ばれているぞ!
他のメンバーには、テスト結果を踏まえて、実用性の高いライフハックアイテムが支給されているんだ!
「ヒョウリュニウムを売れば、お金になるのに……ブルーは「世に出すより、此処にいるみんなで楽しんでいれば、それでよくね?」って言って、便利グッズ作りまくってるよな……」
レッドはブルーの考えがイマイチ理解できないが、ブルーは世に出すための手続きが面倒なだけである。
ゲーム時間が削られる事はしたくないのだ。
トコトン趣味に突っ走る物体、それがブルーである。そのペースが早すぎて、化け物じみている時もあるが、あれは物体である。と思考を切り替え、レッドは変身した。
そして、変身したことにより、なんやかんやのパワーが出るため、すぐさまNAROUのすみっこに到着したのだった。
「ヒョーリューイーツでーす。ドア横に置いときますねー」
そして、レッドは瞬時に立ち去る。
薄暗い部屋に届くデリバリー。しかも置き配のようだ。グリーンが声と物音をした方を見る。
(ブルーが何か頼んだのかな?)
ブルーはパイを乗せるお皿を取りに行ってるので、デリバリー品はグリーンが回収した。
グリーンが手に取った時は、ヒョウリュニウムボックスではなく、ビニール袋に入れ替えられていた。
ちなみにデリバリーをしたヒョウリュウレッドは、グリーンやブルーに姿を見られる事なく、超速でメイドカフェに戻り、『萌え・萌え・キューーーン♡』タイムに戻れたようだ。
ロスした時間はわずか3分だが、特別料金を払っているため、ロス分はしっかりグリーンへ請求を回そうと、請求アプリに登録されていた。
「よーし、皿とフォークオッケーさ! 食おうぜ! って……そのビニ袋なんだ?」
「え、ブルーがデリバリーしたんじゃないの?」
「ワシ、宅配料のかかるデリバリーは頼まねぇよ……。その分のお金で作ったほうが安いから……」
「え、じゃあ、これは?!」
謎のビニール袋を取り払うと、出てきたのはブルーとグリーンに染まる素敵なクリームソーダ。
「……クリームソーダだな」
見たまんまの感想しか出ないブルーだが、グリーンはぱぁあぁっと花開くようにテンション上がる。
「これ、グリーンとブルーなクリームソーダじゃないか、新作だ! ヒョウリュウジャーへの差し入れとかエールじゃないかな!」
「うちらどっちも頼んでないなら、誤配だろ、誤配」
――説明しよう!
ヒョウリュウグリーンは今変身中だ。
変身中のヒョウリュウグリーンは、漂流力が各種アイテムにより爆上がりしている。
クリームソーダへの熱い想いと、漂流力が合わさる事で、思考の漂流も起きるのだ!
ちなみに、ブルーと呼んでいるが、変身してない物体のままだから、漂流思考ではなく、通常の危険予知思考である。
が、グリーンの勢いに飲まれているぞ!
◇◆◇どこぞのメイドカフェ
「あれ、そういやクリームソーダボム届けた場所って、ブルーの部屋っぽかったような……」
ポツリ呟くレッドだが、ルビーのようなレディが踊る様を、目に記憶に焼き付けるべく、すぐに目の前のレディに集中した。
◇◆◇NAROUのすみっこ
テンション高いグリーンの声で、かき消されている音がそこにはあった。
目の前のパイにより、ブルーの腹の虫の音も盛大に鳴り響き、とある音をかき消している。
チッチッチッチッチッチッ……
BOOOOOOOOOOM!!!!
「「ぎゃああぁあぁ!!! クリームソーダが爆発したぁああぁ!!!」」
NAROUのすみっこから吹き飛ぶグリーンと物体。
昼の空に、輝く星が流れていった。
――説明しよう!
ヒョウリュニウム製のスーツを着ているグリーンは、ビックリするだけで、中の人は一切怪我をしていないから、安心してくれ!
良い子のみんなはヒョウリュニウムスーツを着ていない人に、爆弾がついているクリームソーダを送っちゃダメだからな、約束だぞ!
「「び、ビックリした……」」
ぺたんと座り、一息つくヒョウリュウグリーンと物体。
「耐久力はあるようだな、よきよき」
冒頭でブルーがブツブツ言っていた耐久テストは、爆弾クリームソーダのおかげで出来たので結果オーライ! と、心の中の声ダダ漏れで頷く。
「ってか、変身してないのに、あの爆発で生きてるっておかしくない?!」
「ワシの変身スーツは未改造だから、変身する意味ないぞ。ドーキホーテで買った、2980円の着ぐるみパジャマだし」
「えーーー?!」
みんなの装備品魔改造が楽しくて、自分の変身スーツを後回しにしていた。
そして、ポンコツ物体は、性能が低いくせにちょっと壊れても持ち直して長持ちする、買い替えに踏み切りにくい家電のような奴である。
無駄にめちゃくちゃ頑丈なボディため、変身スーツは、ただの気分あげ道具であったりする。
「とりあえず、ウーボーイーツに気をつけよう……。爆弾送ってくるなんて……」
「あれ、ウーボーって言ってなかった気がする……ヒョーチューイーツ?」
デリバリー業者の名前など、気に留めるわけないため、イマイチ名前が出てこない。
ふと、物体は目を見開いた。
「はっ! ワシんとこに爆破物が来たってことは、なんか巻き込んだみたいだね、ごめん」
「いやいやいや、どっちも頼んでないドリンクなら、誤配だから2人とも被害者だよ……っとに迷惑な……」
「よし、今回のことエッセイにしちゃろꉂꉂ(ˊᗜˋ*)」
――説明しよう!
爆発に巻き込んでゴメンで済むあたりは、こいつらは咫尺天涯戦隊だからである。
戦隊モノは爆発シーンがつきものだぞ、爆破耐性は十分にあるんだ!
みんなは、爆破されたら怪我をしちゃうから、気をつけてくれ!
今日も元気なヒョウリュウジャー、明日も元気に漂流するんだ!
おわり。