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『破天のディベルバイス』第8話 分かり合う為に⑨

 ⑨ウォリア・レゾンス


 絶え間なく動き続ける無色のディベルバイスの内部に、ヴィペラ弾を投げ入れる事は宇宙連合軍の護星機士たちにとっても至難の(わざ)のようだった。幸い、弾頭を搭載したミサイルを積んだハイラプターは、ディベルバイスの周囲を旋回するばかりでここ一時間攻撃を仕掛けていかない。ウォリアが危惧していたように、急上昇する船に衝突されてはいけないと考えているのか、その機体はビームマシンガンの死角となる位置を、船とはかなり離れて飛行しており、接近する様子を見せなかった。

 ストリッツヴァグンの修繕が終わるや否や、ウォリアはすぐにそれに乗り込み、発艦した。ヒッグスビブロメーターにより届くレーダー反応には、まだスヴェルドが大破してはいない事が示されている。上手く行けば、あのモデュラスに語り掛ける事も可能かもしれない。

 ウォリアは味方の機体を、攻撃の巻き添えを装って破壊する事は躊躇われた。だからヴィペラ弾の炸裂を阻止する為には、ミサイルが発射された瞬間、射出された対象だけを数秒間のうちに破壊せねばならない。それも、故意に邪魔をしたと思われないようにしながら。それには、スヴェルドのモデュラスに破壊を実行させるのが良い。武装にしても、小さい的を狙うにはこちらよりもスヴェルドの方が明らかに適しているだろう。

(ジェイソン、君は生きていた……じゃあ、アンジュは? ラボニは? 皆も、船の中に居るの? 過激派に捕まっているの? ブリークス大佐はどうして、君たちが死んだなんて……)

 そもそも彼らが本当に過激派なのかどうかすら、最早怪しいのだ。少し前、ストリッツヴァグンのメンテナンス終了を待っている間、ユニットが突如浮上を開始した。あたかも、ホライゾンの展開した重力フィールドの干渉を受け、圧潰する事を阻止するかのように。

 ブリークス大佐はこのユニットについて、追放された住民たちから直接、過激派を討滅する為ならば破壊しても良いという許可を得た、と言っていた。ニルバナは彼らに占拠されて魔の巣窟となり、最早運営の継続は困難だから、と。だが、今戦っている相手は、ユニットを守りながら戦おうとしているようだった。

 ニルバナは、考えてみれば過激派にとって魅力のあるユニットではないのだ。一時的な駐在所になっても、リスクを冒してまで守り、拠点として維持してくべき場所ではない。

 彼らは本当に、ラトリア・ルミレースなのか?

 ウォリアのその疑問は、段々と膨らんでいくようだった。だが、それを知る為にも今は、成すべき事を成すしかない。

 上空のディベルバイスにではなく、その下に広がる海に向かって加速していく。スヴェルドの反応を示す光点に座標が接近していくと、機体接合部の発光がまた点滅を開始し、あのメッセージが表示された。

 あの時、シェアリングが行われた状況を思い出そうとする。どうすればもう一度、あのようにして向こうのモデュラスと話し合えるのだろう。確か前回は、敵スペルプリマーと組み合い、共に重力操作を行った。そして、どのようなタイミングでそれに突入したのだったか……

(とにかく、あいつを水から引き摺り出さないと)

 ウォリアはストリッツヴァグンの軌道を下方に向け、水中に飛び込もうと操縦桿を倒そうとした。

 だがその時、ユニットの方で何かが動いたので、ウォリアはメインカメラを上に向け、その正体を確認せねばならなくなった。

「あれは……!?」

 つい、独りごちた。ユニットの上部、最初にウォリアが攻撃した場所と思われる辺りから、青い光芒が緒を曳き、ディベルバイスの方に向かっていく。目を凝らすと、それはスペルプリマー二号機、ボギであると分かった。だが、形がおかしい。何か大きな箱のようなものを抱えているらしい。その後ろから、小さな機影が三つ程続いてくる。

(戦闘機……バーデ?)

 いや、それよりも。

 ウォリアは何か、良いものとも悪いものともつかない予感を抱きながら、もう一度水中に飛び込もうとした。今は急いで、スヴェルドを引き上げなくては。

 だが、ボギの動きは自分よりも早かった。

 こちらのタブレット画面に、その接近を告げるメッセージが現れるのと同時に、ボギは海面にエナジーの矢を放った。重力干渉効果を含むそれにより、水面に一瞬空白が出来ると、そこにボギが飛び込む。水中戦仕様ではないスペルプリマーはその一瞬のうちに、海中から一瞬現れた赤の光源──スヴェルドを引き出した。

 泡となりながら上昇してくる水飛沫(しぶき)を避けるように、ウォリアは咄嗟に機体を後退させた。意図せず最初の目的が達成されてしまったが、この後どうするべきか。重力で圧を掛ければ、向こうも対抗して重力場を形成してくるだろう。それで、あのシェアリングが起こった時と状況はほぼ同じになるはずだ。だが……

 ウォリアは、油断なくこちらに頭部を向けているボギ、そしてその腕の中、支えられるようにしながら水滴を散らせているスヴェルドを見つめる。今スヴェルドは、エンジンが浸水状態なのだろう。ボギの手を借りなければ、宇宙空間に浮かんでいる事すら難しいようだ。

 今下手に接近すれば、攻撃と見做されてしまうかもしれない。

(……いや)

 ウォリアは、すぐに考え直した。大切なのは、相手に自分の情報を伝える一瞬だけだ。それならば、シェアリングを行う必要はない。機体同士を密着させ、有線で通信すれば良い。

 だがそれは、ややもすれば、

(……一回、あいつらに攻撃されなきゃいけないんだ)

 自分の死すら、意味するかもしれない事だった。

 怖い。生物としての本能的な怯えが、パイロットスーツの下の足をぞわぞわと粟立てた。存在の喪失。そのような言葉を想起した時、これと同じ感覚を、以前も一度味わっている事に気付いた。そして、それを()()()()()()事も。

 そうだ。あれは──スペルプリマーの登録を行った時。モデュラスとなり、人間としての自分が死んだ時の事。人間から、全く別の生物へと生まれ変わった瞬間。自分は一度、死を経験している。

(そっか、もう、皆が生きていても……皆と一緒に居る事は、出来ないんだよね。それなら、せめて皆が……無事であってくれるなら)

 ウォリアは覚悟を決めると、ディベルバイスのスペルプリマーたちに飛び掛かるかのように、機体を前傾させてジェット噴射の兆候を見せた。

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