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『破天のディベルバイス』第7話 蒼き災い③

 ③渡海祐二


 クラフトポートのゲートを無理矢理こじ開けてユニットの中に戻り、パイロットスーツから着替える間もなく港を出ると、そこに仲間たちが全員集まっていた。千花菜と恵留が転がすストレッチャーの上には、初日に保護されたオセスの村人アーノルドも載せられてやって来ている。

 フランツは最早堪えようとせず、号泣しながら仲間たちの方に駆け寄った。だが、彼の向かった先に立つアイリッシュらは何も反応する事なく、僕とカエラの方を見つめ続けた。

「何だったの、さっきの揺れ?」

 最初に口を開いたのは、シオン先輩だった。僕が言葉を探している間に、カエラが端的に起こった事を説明する。

「第二のフリュム船が、このニルバナに接近しています。名前はホライゾン、ストリッツヴァグンというスペルプリマーを有しており、先程の揺れはその攻撃が外壁に直撃したものです。私たちの取り付けた開閉弁が二次的な衝撃に耐えてくれた為ユニットに穴は開きませんでしたが、すぐ近くに居たグルードマン君が巻き込まれて死亡しました」

「死んだって、ええっ?」

 ショーンが、信じられないというように呟いた。訓練生たちの間に、動揺の(ざわ)めきが走る。フランツが「本当だよ」と潰れた声を上げたが、誰かが「黙ってろ!」と一喝した。

「スペルプリマーまであるのか、敵には……」

 ジェイソン先輩が恐ろしげに身を震わせる。ユーゲントたちは互いに胸の内を探り合うように視線を交わし合っていたが、やがてアンジュ先輩が発言した。

「そのホライゾンが他にどんな能力を持っているのかは分からないけれど、相手がユニットへの攻撃も辞さない以上、私たちも対抗するしかないわ。皆、ディベルバイスに乗って。クラフトポートを塹壕代わりに使いながら、籠城戦としましょう。攻撃には、相手も例のスペルプリマーをメインに使ってくるでしょうから、祐二君とカエラちゃんはその相手を」

「俺たちの攻撃手段は?」

 テン先輩が尋ねると、彼女は袖口をもじもじと弄り、数秒間沈黙する。

「いつも通り機銃と、場合によっては艦首レーザー重砲……じゃ、さすがに足りないわよね。ダーク君」

 急に指名され、ダークはぴくりと眉を動かした。「何だ?」

「今日で二週間目だけど、ケーゼはこれから組み立てるのよね?」

「……予定では、今夜で飛行可能になるはずだ。一応工場にあったマニュアル通りで作成し、我流に魔改造などはしていないが、念の為飛行テストなども行わねばならない」

「分かった、今夜ね?」

「嬢ちゃん、まさか」サバイユが声を上げる。

「そうよ」アンジュ先輩は肯いた。「ケーゼは組み立てが終わり次第、飛行テストは省略して実戦に投入しましょう。UF系戦闘機の操縦訓練も、皆もうやっているんでしょう?」

「そんな! 俺たちは本職じゃないんだぞ、組み立て終わっていきなり実戦投入なんて危険が大きすぎる」

 ヤーコンが言ったが、彼女は意見を曲げなかった。

「あなたたち、まさか駄目元で作業をやっていた訳じゃないんでしょう? 資源がない中で、そんなプラモデル作りみたいな……」

「それは違う!」

「じゃあ、大丈夫よ」

 言い切られ、ダークギルドの面々がぐっと押し黙る。やがてダークが、工場の方に首を傾けて「行くぞ」と仲間たちに指示を出した。彼らが足早に駆けて行くと、彼女はジェイソン先輩の方を向く。

「ごめんなさい。私、ダーク君たちとケーゼ造りを始めた事も、今勝手に指示を出しちゃった事も……」

「い、いいんだアンジュ。私としても、その方が助かるというか……」

 ジェイソン先輩は、動揺を押し隠すように咳払いし、ハンカチで顔を拭う。

「それじゃ、俺たちも」

 伊織が言い、生徒たちがクラフトポートの中へ駆け込もうと足を踏み出した。だがその時、

「お前ら、いい加減にしてくれ!」

 ストレッチャーの上に横たわったまま、アーノルドが叫んだ。声を張り上げて、炎症を起こした喉が痛んだらしい、彼は激しく咳き込み、千花菜に胸の辺りをとんとんと叩かれた。

「何がです? ニルバナが潰されたら、あなたもただじゃ済みませんよ」

 優しく叩いてから、千花菜は叱るような声を出した。

「知っているぞ、お前らは街からものを盗んだ。軍需工場も勝手に使うし、外壁は壊す。挙句に、このユニットを戦場にする気なのか? 宇宙連合軍がお前らを狙う理由も分かるってもんだ、お前らは宇宙にとって害にしかならん。悔しかったら、さっさと外に出て降伏しろ!」

「この害悪じ……」

 ショーンがアーノルドに飛び掛かろうと、回れ右をして拳を引いた。だが、ヨルゲン先輩が素早く動いて彼の首筋をがしりと掴んだ。

「少しは自重しろ!」

「んだよ、こんなに言われてもムカつかねえのかよ?」

「黙ってな。……おっさん、状況をいちばん理解していないのはあんただ」

 ヨルゲン先輩は、アーノルドに向かって突き刺すように言葉を放った。男はびくりと動き、釣られたように千花菜、恵留も身を引く。

「あいつらはもう、一人殺した。俺たちを殺す事に容赦はしないんだ。降伏なんか受け入れられない、出て行ったところを皆殺しにされる。あんたもだ、村人のお仲間が連中とどんな取り引きをしたのかは知らんが、連合がここを潰すつもりなら、それを見ているあんたも口封じされる可能性が高い。死にたくねえなら、とっとと俺たちの船に乗れ。俺たちと同じように見捨てられて、どうしたらいいかも分かんねえ癖に、偉そうに威張り散らすな!」

 ()めつけられ、アーノルドは癇癪玉を破裂させる。だが喚き始めてすぐに、聞いている方が苦しくなりそうな咳を暴発させた。千花菜と恵留は呆れたようにその様子を見ていたが、やがて乱暴な足取りで港へと進み出した。

「千花菜……」

「祐二」

 擦れ違いざま、千花菜が短く僕に囁いた。

「頼んだよ」

 僕ははっとして、彼女を振り返ろうとする。だが彼女は既に、ストレッチャーと共にクラフトポートの中に消えていた。

 ヨルゲン先輩は突き飛ばすようにショーンをクラフトポートへ追いやると、自分も身を翻した。彼に続くように、伊織たちが改めて進み始める。アンジュ先輩も僕の横を抜ける時、「信じているわ」と囁いてきた。

「祐二君、私たちも行こう」

 皆が去ると、カエラが僕の手を取って指の谷間を絡めてきた。二の腕が密着し、薄いスーツ越しに体温が伝わってくる。いつの間にか激しくなっていた動悸が、段々と落ち着いてくるように感じた。

 僕は表情を引き締め、ぐっと顎を引いた。

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