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『破天のディベルバイス』第7話 蒼き災い①

 ①ウォリア・レゾンス


『レゾンス准尉。目標ユニットの外壁に、テロリストと思われる人影を確認した。人工衛星の破壊後、奴らを殲滅しろ。本作戦第一フェイズの目標は、過激派のディベルバイスを(おび)き出す事にある。状況終了後は直ちに帰艦せよ』

「アイ・コピー」

 フリュム船「水獄のホライゾン」艦長に任じられた上官イマニュエル・ペンデュラスの命令に、ウォリア・レゾンスは端的に答えた。目標とされる、過激派に奪取されミサイル発射装置に改造されたという人工衛星は、ユニット一・一「ニルバナ」の入口から四十五度程傾いた上空に位置している。ここは目標ユニットから二十キロメートル程離れているが、ほぼ直線で到達出来そうだ。

 ウォリアは、再度深く呼気を放った。心が静まり、視界が開ける。

 水獄のホライゾンも、付属していたスペルプリマー「ストリッツヴァグン」も、ウォリアにとっては全く未知の存在だった。ストリッツヴァグンに「登録」を行った際は、脳回路に大量の情報が流れ込み、またそれを常軌を逸した速度で自己が処理している事も分かり、自分が人間ならざるモデュラスとなってしまった事が嫌でも実感された。機体の操縦がごく自然に可能になり、同時に五感が極限まで研ぎ澄まされ、一瞬ごとに無限に近い情報を自分の中に取り入れているような気がした。

 何より驚いたのは、ホライゾン本体が持つワームピアサーという装置を用いた「ワープ」だった。フリュム船に備わっている重力操作能力を空間の一点に使用し、小型ブラックホールを生み出す。本来このような「ブラックホールが連結したワームホール」には如何なる物質も侵入する事が出来ない。異常な潮汐力により、素粒子レベルにまで粉々に分解されてしまうからだ。だがワームホールを通過する一刹那、船からも発生する重力が、ブラックホール内で全方向から襲ってくる重力に抗う為穴が大きく広がり、形状を保ったままワープが可能になるのだという。

 と聞いても、ウォリアにはよく分からなかった。そのような緻密な重力操作を可能とする技術が如何なるものなのか、どのような素材ならばそのような負荷に耐えられるのか、宇宙連合が何故そのような力──これらは「力」としか表白しようがない──を手に入れたのか、全く理解が及ばなかった。

 ただ、ホライゾンは本来二年以上掛けて往復する地球・土星間を一瞬で空間跳躍した。それは確かな現実だった。また、「フリュム船同士の共鳴」というこれまた正体不明の力を用い、連合軍が姿を見失ったディベルバイスの居場所を一瞬にして突き止めた。これには、イマニュエル艦長自身が最も驚いていた。

 その場所は中立ユニットである一・一、ニルバナ。艦長がブリークス大佐から聞かされた話によると、ホライゾンが突き止めたこの情報からニルバナに連絡を取ってみたところ、ユニットは過激派の特殊部隊に占拠され、彼ら住民は多くの犠牲を出した後に追放された、という事だったそうだ。

 ウォリアたちの目標はディベルバイスの回収、及び過激派の殲滅。故に、ユニットへの損害をなるべく減らしつつ戦うには、ディベルバイスごと過激派を(おび)き出す必要がある。ウォリアに最初に下った命令は、その為の嚆矢(こうし)を放つ事だった。

(アンジュ、ラボニ……皆の仇は、必ず取ってあげるよ)

 ウォリアは覚悟を決めると、ストリッツヴァグンの無数の脚部をカタパルトに載せた。操縦桿を握り、力強く宣言する。

「ウォリア・レゾンス准尉、ストリッツヴァグン、行きます!」

 自分の意志に呼応したかのように。

 カタパルトが動き出し、機体が前進した。体の線がはっきりと見える薄いパイロットスーツ越しに、腹の底にGがぶつかってくる。宇宙空間に投げ出されると、スロットルレバーを操作して更に加速した。

 人工衛星の後方に、これまた見覚えのない人型ロボットのような機体が二機浮かんでいる。あれが、過激派が乗っ取ったというディベルバイスのスペルプリマーだろうか。名は確か、スヴェルド、ボギ。アクラ・ザキは土星への出発の際、安保理議長のシャドミコフが危惧していたように、第二のモデュラスが現れてしまう可能性について零していたが、それが現実になってしまったらしい。

(出来損ないのモデュラスは抹消。でも、それはホライゾンに任せていい……)

 スヴェルド一機ならば破壊しても問題ないと言われたが、さすがに二機も壊してしまうのはいけない気がする。やむを得ない場合は許可されるだろうが、ホライゾンが自分よりもスマートなやり方で敵スペルプリマーを確保してくれる事も有り得る。ここは、自分の出る幕ではないだろう。

 ウォリアは、自機を追うようにこちらに進んでくるホライゾンを引き離すかの如く加速し、敵スペルプリマーの後上方まで移動した。主武装「ハドロン・カノン」を起動し、衛星を狙う。重力操作システムも同時に使用し、衛星周辺に強力な重力場を発生させる。目標に圧力を掛けつつ、事前に説明をされたハドロンの拡散による威力減殺、という課題を補う為だ。

 意を決してそれを放った時、衛星が一瞬にして爆砕された。自分が賽を投げ、それを見守る、というような刹那の緊張も生じない程に一瞬だった。

 嘘、と、ウォリアは自分で自分が信じられなかった。

 その人工衛星は、小型戦艦程の大きさがあったのだ。それが、自分のたった一発の攻撃により、粉々に破砕された。このストリッツヴァグン一機があれば、ラトリア・ルミレースの戦艦何隻を沈められるのだろう。いや、それだけに留まらず、彼らの旗艦ノイエ・ヴェルトを落とす事も可能になるかもしれない。ホライゾンの能力にもそれが言える。フリュム船がこの戦争に投入されれば、たちまち押され気味の宇宙連合軍は反撃に転じる事が出来るのではないか。

 ──これらの船がもっと早くから動かされていれば、アンジュたちは死なずに済んだかもしれないのに。

 考え、慌てて思考を引き戻した。

 何を考えているのだ。フリュム船やスペルプリマー、モデュラスについては、事前にザキ代表から詳しく説明された。やむを得ず軍艦とされてしまっているが、本来であればフリュム船は戦争の道具ではないのだ。

 状況に集中、と自分に言い聞かせ、ウォリアは更に前進する。

 敵スペルプリマーの頭上を旋回し、ニルバナへ接近する。擦れ違う際、機体接合部で発光している水色が点滅を始め、コックピットの下から生えているタブレット端末の画面に『SVERDが感覚共有(シェアリング)を求めています』『BOGIが感覚共有を求めています』と表示された。

 気になったがそれを無視し、ニルバナ外壁を凝視。研ぎ澄まされた視覚が、そこに佇む宇宙服姿の二人組を拾い上げた。

(……過激派め、さっさとくたばってしまえ!)

 ウォリアは再度、ハドロン・カノンを放つ。外壁が吹き飛び、赤黒い光が煙の如く立ち昇る中、微かに金属質な輝きが目視出来たようだった。

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