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『破天のディベルバイス』第6話 見棄てられた者たち⑩


          *   *   *


 不愉快な思い出が蘇ると共に、僕はあの時の恐怖心を再生させそうになった。慌てて首を振り、頭上の開閉弁を見上げる。あの後、僕の行動に唖然としたかの如く生徒たちが静まると、アンジュ先輩がその隙に間に入り、取り成してくれた。

「開閉弁は一時的なものなんでしょう? それにまだまだ材料は沢山あるんだから、ダーク君たちが満足するまで造る分には足りるわよ。ね、お願いダーク君。これ一枚だけでいいんだから、彼らにも分けてあげて」

 僕も含めて、アンジュ先輩には負担を掛けすぎているかな、と反省しながら、僕は頭を下げた。ダークも彼女の説得だったからこそ通じたのだろう、そこからは何も言わず、大人しく板を工事グループに引き渡した。

 工事自体は問題なく進み、現在は外に居るグルードマン、フランツが弁を開けるべく外で準備している。すぐ隣でカエラの二号機も待機しているので、例の共鳴するような光の点滅が発生し、ジュラルミンの表面で反射していた。それは何だか、僕の不安を煽り立てるような感じがした。

 (しば)し待っていると、弁が左右に開いていき、宇宙服姿の二人が顔を覗かせた。

『渡海! カエラ! 準備万端だ、いつでも発進してくれ!』

『人工衛星から見ると、ここは死角になっている。ユニットの下へと行動を下げて、大体二百メートルも離れれば映らないんじゃないか。そこから、その高度を維持したまま衛星に背後から近づき、一撃で破壊してくれ。大丈夫か?』

「分かった。何かマズい事があったら、逐一知らせてくれ」

 カエラにも「いいね?」と確認し、返事があると、僕は操縦桿を握り直した。

「スペルプリマー一号機、出る。二人とも、少し身を引いて」

 グルードマンたちが穴から離れたのを確認し、僕はユニットから脱出する。一瞬光の点滅が弱まったがすぐに元の調子に戻ったので、カエラが着いてきているな、と分かった。

「カエラ、一発で人工衛星を破壊するには、二号機のグラビティアローを最大出力で放って貰う必要がある」僕はヒッグス通信で、カエラに言う。

『それでも、あのサイズを完全に壊すのは難しいかもよ?』

「そうだ。だから、僕が更に重力場を操作して威力を底上げする。十分に気を付けるつもりだけど、君に少しでも負荷が掛かるような事があったらすぐに言って。衛星のカメラが動かないうちなら、最悪二回でも記録に異常は出ないはずだ」

『了解。……やっぱり、祐二君は優しいね』

「そ、そうかな?」

 下降しながら、少々体温が上がる。いやいや、と首を振って雑念を払い、進路の先に集中する。メインモニターの隅に表示されている小型マップで座標を確認し、高度を十分に下げると、水平飛行に移った。

 衛星に接近してきたのでメインカメラを動かすと、岩石から翼と望遠レンズが生えたような対象が目視でも確認出来た。あれも連合軍から払い下げになったものを、村の者が自分たちで修理しながら使っているのかな、と考える。距離と大きさを考えるに、ラトリア・ルミレースのジウスド級戦艦くらいはあるだろうか。

『射角的に、もう少し後ろからの方が良さそうね』

「もう少し?」

『あと、二、三十メートルくらい』

 上昇コースに入りながら軌道を微調整していくと、カエラが『OK』と言った。僕たちは再び機体を並べ、衛星をスコープに捉える。

『バーデやケーゼと違って、大きいし動かないから狙いが付けやすくはあるわ』

「それでも、慎重にね」

 言葉を掛け合いながら、タイミングを確認し合う。二号機がグラビティアローを抜き、人工衛星に向ける。僕は一号機の左腕をそちらに伸ばし、カエラが重力操作を開始するのを待った。

 が、次の瞬間起こった事は、恐らく居合わせた者全てが予想だにしなかったものだった。

 二号機が弓弦を引く寸前、僅か数秒早く、衛星が爆発したのだ。スコープの中が爆炎で満たされ、大光量に僕は慌てて目を離した。

『やったか、二人とも!?』

 グルードマンの声が届く。僕は、彼に見えもしないのに首を小刻みに動かした。

「違う、僕たちじゃない……僕たちはまだ、やっていない」

『何? それじゃあ……』

『祐二君!』

 カエラの悲鳴のような声が、回線に割り込んだ。メインモニターに影が落ち、彼方に見える星々の光が薄くなる。

 僕は、機体の頭部を更に傾けて上を見た。頭上を何かが横切って行ったのが見え、機体の向きを反転させてユニットを振り返る。接合部の発光が強くなり、タブレットに新たなメッセージが付け加えられた。


『STRIDSVAGNが感覚共有(シェアリング)を求めています』


『あれは……スペルプリマー?』

 カエラが、呆然と呟くのが回線を伝ってきた。僕はそれを聴くともなしに聞きながら、ユニットへ向かっていく巨大な「何か」を睇視する。

 それは、掩体壕(トーチカ)を背負った多脚戦車のようだった。背中に当たる部分にはジェット機構が並び、僕たちのスペルプリマーに似たロボットの腕も生えている。既存の機動兵器には分類し難いが、どれと言われても納得してしまえそうな、一種異様な外見だった。

『渡海、何か正体不明(アンノウン)機がこっちに来ている! 何だあれは、敵か?』

 グルードマンの声が届いた時、僕ははっとした。謎の機体の両腕に、何やらエネルギーがチャージされているのを見て取り、咄嗟に叫んだ。

「二人とも、逃げろ!」

 間に合ったか否か、分からなかった。

 誘導の二人が立っている辺りに、射出されたレーザー砲のような閃光の奔流が叩き付けられ、煙の代わりに赤黒い光が立ち昇った。

「グルードマン! フランツ! 無事か!?」

『祐二君、あれ見て!』

 カエラが、二号機の腕でこちらの肩部を掴んできた。半強制的に機体を反転させられ、僕は慌ててエアーを噴射する。

「何だよ、カエラ……?」

 言いかけ、僕にも()()が目に入った。

 マップに表示されていたのだとしたら、何故それに気付かなかったのだろう。リージョン一の軌道外から、超巨大宇宙船がこちらに接近しようとしていた。ガイス・グラ、いや、ハンニバルよりも大きい。距離感が上手く掴めないので正確な事は言えないが、ややもするとディベルバイスと同等の船長なのではないか。色は、深い石の色をしたディベルバイスとは異なり、深海の闇を彷彿とさせる群青色。

「フリュム……船……?」

 その言葉が思わず口を突いた時。

 タブレット画面に、表示され続けていた二つのメッセージを覆い尽くすように、新たな文字列が浮かび上がった。


『HORIZON』

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