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『破天のディベルバイス』第1話 地球が終わる日④

 ②アンジュ・バロネス


 護星機士養成所へ入る為には、厳しい競争倍率で宇宙飛行免許を取得する合宿を受け、あらかじめ訓練をしておかねばならない。その為、リバブルエリアに於いて訓練課程二期生(ソフォモア)とは決して名誉ある言葉ではなく、むしろ「数少ない合格枠を奪った癖にいつまでも正規機士団に養われている(ごく)潰し」という、後輩から白い目を向けられる立場だ。

 幸い、去年の訓練生たちは皆一年で正規軍に昇進する事が出来、ソフォモアは発生しなかった。これはこれで珍しい事らしく、アンジュたちは地球圏防衛庁のサウロ長官から「二五九八年度の訓練生は優秀揃いだ」と激賞され、特別にユーゲントと呼ばれるようになった。

 輸送船のブリッジで、アンジュは今回の地球降下任務を受けたメンバーたちをぐるりと見回す。

 やけに晴れ晴れとした顔で、ヴィペラの雲に覆われ何も見えないはずの地球を窓から眺めている青年はジェイソン・ウィドウ。養成所でのクラスはアンジュと同じで、成績はアンジュより僅かに上で学級内一位だった。その為ディートリッヒ教官からルーム長を任されていたが、実際に行う学級活動と言えば清掃班を決める事、クラス間の親睦会くらいで、彼は張り切ってはいたがそこまで「皆のリーダー」というような印象はない。修了時の成績も、他クラスと比較すれば訓練生全員のうち首席には及ばなかったようだ。

「サウロ長官直々の地球降下命令とは、我々も誉れ高いねえ」

 この任務でビードルに降り立った際、ジェイソンはそう言い、進んで班長に立候補した。別に誰も、今回の任務に於いてそのような者を決めるつもりはなかったようだが、アンジュが「せっかくだから」と言ってまとめた。

 アンジュは、彼のように窓の外を眺める気にはなれなかった。

 視線を下に向ければ、致死毒の雲海ヴィペラが広がっており、逆に上を向けば、段々と群青から闇色へとグラデーションを作る空に、時折流れ星のような光を目視してしまう。その流れ星の正体が、宇宙船や戦闘機が爆散する光だと考えると、どうしても怖くなってしまうのだ。

「アンジュ、酔ってる?」

 隣で読書をしていたラボニ・ヴァルナが、目を休めるべく顔を上げた際にアンジュの様子が見えたらしい、(おもむ)ろに話し掛けてきた。

「えっ?」

「机の上見たまま、寒そうにぶるぶるしているんだもん。酔い止めあるけど、あげようか?」

「ああ、えっとね……大丈夫、酔ってる訳じゃないから」

 ちゃんと戦闘機の操縦も出来るようになったんだし、と心の中で付け足す。

「私たちが運んでいるのって、軍艦……なのよね?」

「地球で戦闘が起こるんじゃないか、って思ってるの? ないない、サウロ長官から輸送命令が出たの、過激派が月軌道に入るより前だよ。戦うとか、そんな大袈裟に考えなくたって」

 ラボニはぱたぱたと手を振る。アンジュは、ちらりと後方を窺った。

 ビードルに降り、長官から運ぶものを見せられた時の事を思い出した。

 元から巨大宇宙船を素体としているビードルの上に停泊していたその船は、宇宙連合軍最大の旗艦ハンニバルの属する「ガイス・グラ級」を遥かに上回る大きさをしていた。ハンニバルも、地球圏軍司令官ブリークス大佐の搭乗するガイス・グラもそれ程の大きさはしていなかった。アンジュも、宇宙連合がそれ程大きな船を所持しているなどとは知らなかった。

 輸送船にしては随分大きな船ですね、とジェイソンが言った時、長官は黙って首を振り、船の側面をよく見るようにとユーゲントに示した。見ると、現在アンジュたちが搭乗している輸送船の後ろに、更に大きな軍艦が連結されている事に気付いた。

 地球に運ぶものは、その軍艦だという事だった。

「この船は、いざという時まで隠しておかねばならないんだ。ラトリア・ルミレースはこの存在について、情報は掴んでいるが確信している訳ではない。リージョン一のユニット群もそろそろ危ないだろう、だから場所を変える必要があるんだよ」

 長官が言ったのはそれだけで、この巨大戦艦にどのようないわくがあるのかについて、詳細を語ろうとはしなかった。

 だがアンジュは、ラトリア・ルミレースがこれを狙っているという事が気掛かりだった。そして、いざリーヴァンデインを降下し始めた頃になって過激派が月面とビードルの往還軌道まで侵入してきたという事が、不安に拍車を掛けた。

「やっぱり私、ちょっと怖いよ。宇宙連合軍が強い事も分かってはいるけど、不安は理屈じゃないでしょ。私だって……」

「女の子なんだから?」ラボニは、ふうっと溜め息を()いた。

「あのねえ、今じゃ女性の軍人とか普通だよ。アンジュ、几帳面なのは養成所での成績には良かったかもしれないけど、繊細が度を越しちゃ問題だよー。戦時下では案外、図太い方が生き残るの。あんたも、多少図太くならなきゃ」

「図太く……かあ」

「ゆったり構える、って言い換えてもいい。大丈夫、アンジュは元がいいから、多少図太くなっても可愛いままだよ」

 気張りすぎは逆にストレスになって肌に良くないよ、と彼女が言った。ラボニはあまり化粧はしない方だがそれでも肌が綺麗なのは、私よりもゆったりした気持ちで生きているからかな、と本気で考えかけた。

「ほら、ちょっと下見てごらん。もうすぐ天蓋突入だよ。トンネルが見える」

 ぱたり、と完全に本を閉じた彼女は、身を乗り出すようにして窓に顔を付け、リーヴァンデインの下を見た。気が滅入るようなヴィペラの雲だが、アンジュも意を決して大きく下へと視線を動かす。

 ヴィペラの中に、大きな黒い穴が見えた。アンジュは、リージョン五出身の同期生から借りて読んだ『銀河鉄道の夜』という大昔の小説を思い出す。あの中に書かれていた「石炭袋」というものは、このように見えたのだろうか。考えてみれば、訓練生時代、作業船や戦闘機でリーヴァンデインを行き来した頃は、トンネルをこれ程上空から見る事はなかった。

「ここを降りたらもうリバブルエリアよ。大気圏突入より怖くないって」

 何だか吸い込まれそうな気がして、アンジュは身を引く。視線を机に戻し、突入を待った。

 窓を、下からシャッターが上がるようにトンネルの外壁が通過する。窓の外が暗くなっていき、反応したかのように船内の照明が明るさを増した。

 船体が完全にトンネルの中に入ったのでは、と思われた時、後方でナビゲーターを務めていたヨルゲン・ルンが声を上げた。

「輸送船のデッキに、所属不明機が着陸した模様」

「何だと?」ジェイソンが立ち上がる。

「マリーとガストンが外回り中だ。あの二人に確認して貰おう」

 ヨルゲンが通信機を弄り始めるのを見、アンジュは咄嗟に「待って」と立ち上がった。

「敵……じゃないよね?」

「それだったら、ニュース速報が出るだろう。もしくは、サウロ長官直々に何かしらの連絡が届くとか」

「私、ちょっと見てくる。いざって時、二人だけじゃ危ないから」

 ブリッジメンバーは時々交替し、輸送船内部の見回りを行っていた。その際持ち出す武装といえば拳銃のみで、仮に敵が侵入してきたのだとしたら危ない。

 ラボニやジェイソンが制止する声が追い駆けてきたが、アンジュは入口の所に下げられているショットガンを取り、廊下に駆け出した。

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