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『破天のディベルバイス』第17話 反攻の伊織⑧


          *   *   *


 ノイエ・ヴェルトの停泊する小惑星エロスから、現時刻では地球方面に五十五万キロ離れた場所。そこが、ディベルバイスが辿り着いた場所だった。周囲の安全を確認すると、伊織はブリッジの先輩たちに向かって「そこを動かないで下さい」と言い、五号機を降りた。僕やカエラ、スカイ、アイリッシュ、ナイジェルもそれぞれの機体を降り、伊織に近づく。

 彼は僕たちをちらりと窺うと、一時間程続いた先程の戦闘について、特に講評を述べたりはしなかった。ただ僕たちに向かって言ったのは、

「着いて来い」

 それだけだった。

 僕たちがブリッジに向かって歩く間、居住区を抜ける時、それぞれの部屋の扉が開き、生徒たちがこちらを見つめているのが分かった。彼らの目は先頭を歩く伊織に向けられ、そのいずれにも少なからぬ畏怖の念が見えた。

 ブリッジに行くと、アンジュ先輩を除くユーゲントのメンバーたちは、伊織を複雑そうな眼差しで迎えた。伊織はそれに対し、一切迷いのない表情で彼らを見つめ返した。

 ヨルゲン先輩が、やがて一歩進み出た。

「確かに、お前の言う通り火星を脱出する事は出来た、神稲。火星駐在軍で宗祇少佐に付き従っていた者たちも、あれで主力は壊滅しただろう。だが……これは一体、どう見るべき状況だ?」

「すぐ傍に、ラトリア・ルミレースの教主が乗った船が泊まっているのよ」

 ラボニ先輩も、責めるような口調で彼に続ける。

「セントー司令官とバイアクヘーは居ないとはいえ、星導師オーズの親衛隊はまだまだ沢山居るはずだわ。しかも彼らは、宇宙連合軍みたいにこっちの船を”捕獲”しようとしている訳じゃない。破壊する気満々よ。きっと容赦ない攻撃を仕掛けてくるはず」

「知っていますよ」

 伊織は、さらりと答えた。先輩たちは言葉が継げないようで、ぐっと押し黙る。

「でも、俺たちがこのような状況に追い込まれた元凶はあの星導師です。……奴を葬り去れば、俺たちの旅は終わる。そのビジョンが、俺には見えています」

「まさか……神稲君、あいつらに挑む気?」

 マリー先輩は、悲鳴のような声を上げた。

「どうして? どうして彼らを倒せば、私たちの旅が終わるの? ブリークス大佐もフリュム計画も、まだ私たちの敵は沢山居るのに」

「理由は、今はまだ言えません。ですがこれは、自棄(やけ)でも根拠のない推測でもありません。……それに」伊織は、僕たちの方を見た。「先程の戦いで、こいつらは作戦を崩し、足を引っ張るような事ばかりした。それに舵取り組が彼らに変わってから今まで、僅かにでも状況が好転しましたか?」

 アイリッシュがかっとしたように、伊織の後頭部に向かって拳を振り上げようとする。だが、すぐにスカイが「よせ」と止めた。

「ある程度、生徒たちを縛る事は必要です。ダーク・エコーズもそうしていたでしょう? 顔色を窺ったところで不満が起こるなら、最初から彼らを、暴走出来るような状態にしなければいい」

「……神稲伊織」

 テン先輩が、教え諭すような口調で彼に言った。

「それは、危険思想だぞ。締め付けて戦わせて、それで皆がどうなる?」

「それですよ、先輩。否定するだけで、何も意見を生まない。生徒たちが、今まで俺たちや先輩方にしてきた事です。でも、先輩方はその時その時で、最善になると思った選択をしてきたでしょう? その結果が、ダークの反乱と追放、そしてこの反動だったとしても」

 伊織の声に、何処か殉教者のような覚悟を感じ、僕はつい彼の横顔を見つめた。彼の本当の思惑は一体何なのだろう、と考える。少なくとも、彼がこの旅を終わらせたいと願っている事までは嘘ではない、と判断した。だが、彼がここ一週間で何を掴んだのか、推測は及ばない。

「度を越えているんだよ」

 ヨルゲン先輩は、息交じりの声で言う。

「仮にそれが最善なら、どうして理由を言わない? それじゃ俺たちには、美咲恵留があんな状態になったせいで自暴自棄になったとしか受け取れないぜ」

「………」

 伊織は一瞬、顳顬(こめかみ)の辺りに青白く血管を浮かび上がらせたが、すぐに我に返ったように息を吐き出した。それから、やれやれというように両手を上げる。

「これだから、埒が明かないというんです。俺は、誰が何と言おうともやりますよ。全てが終われば、あなた方にも分かる。分かった上で、俺が許せないというなら断罪すればいい。……それを邪魔するというのなら、もう一度ブリッジから出て行って貰います」

「出来ない、と言ったら?」

「きっと、さっきの戦闘で俺の力は皆に分かったでしょう。その駄目押しに使わせて貰います。……あなた方を、ダークギルドと同じように追放する。従わない者がどうなるのか、皆にちゃんと教え込む」

 先輩たちの中に、最早何かを言う者は居なかった。

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