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『破天のディベルバイス』第13話 せめて君と一緒に⑤

 ④渡海祐二


 距離を詰めてくるエルガストルムを睨みながら、僕は操縦桿を握り締める。

 小惑星の(ひし)めいているこの宙域で、敵方のように星を容赦なく破壊しないでワープする事はもう難しい。砕かれた星々の欠片のうち、大きなものは変わらず引力を放っているので、下手をすれば一部の小惑星は軌道すら狂ってしまった可能性もある。だからと言って、火星圏にワープする事も以前から話し合っていた通り、駐在する連合軍やラトリア・ルミレースを下手に動かしてしまう原因となる。

 エルガストルムを振り切り、進路を変えないまま逃げるには、こちらに敵を引き付け、擦れ違うようにして一瞬で抜けねばならない。そのタイミングが、ディベルバイスにとってもっとも危険度の高い瞬間だった。

 僕とカエラ、ニーズヘグ及びケーゼ隊に今回与えられた仕事は、エルガストルムが質量兵器として射出してくる小惑星の欠片を可能な限り防ぎ、また敵主戦力であるスペルプリマー、ナウトゥとレインの注意を引く事。ルールに縛られている僕たちの方が不利だというのは、理不尽極まりない事だった。

『祐二君、敵の機械龍が見えてきた。作戦は一週間前と同じ、私たちで敵の攻撃を押さえつつ、ケーゼ隊にメインの攻めを任せる』

「ああ、今回は過激派船団も居ないし、前よりはやりやすいと思う。その分別課題として、エルガストルムが小惑星の攻撃をしてくる事と、ただ敵の船をディベルバイスに近づけないようにするだけでは駄目だって事だな……」

 敵も、こちらのスペルプリマーやケーゼに気付いたのだろう。ディベルバイスに向かって燃やした岩石を撃ってくる事はせず、ナウトゥ、レインを出したようだ。タブレット画面に、それらの接近を告げるメッセージが現れた。

『岩が燃えているからには物体の熱変換も同時に行っているんだろうけど、重力操作にそこまでの精度はないように思う。岩を飛ばす時は直線的にしか撃ってこないみたいだし、最初に重力の解放で速度と威力を持たせてから慣性で飛ばしているみたいだから、軌道も予測しやすいって言えば予測しやすい』

 カエラは、鋭い観察眼で敵の攻撃について語っていく。

『問題はその速さ。五百キロメートルを三分程度で飛ばしているんだから、音速以上ね。パーティクルフィールドなしに直撃したら、ディベルバイスは木っ端微塵になっちゃう。船に到達する前に打ち砕く必要があるけど、普通の動体視力ならまず無理よね。モデュラスの、一瞬の情報処理能力がなければ。私のグラビティアローなら、何とか出来ると思う』

「それでも厳しいと思うな。僕も重力操作で、なるべく速度を殺せるように頑張ってみるよ。同時に敵スペルプリマーも相手にしなきゃいけないけど、こっちにはエルガストルム本体に攻撃する必要がない、っていうのは数少ないアドバンテージかもしれない。実際に敵機に攻撃するのはケーゼ隊だしね」

 言った時、僕の位置からもレーダーと視界に敵のスペルプリマーが入って来るのが確認出来た。僕は、エルガストルムの直進コースを避けつつ接近を掛け、重力刀を抜いた。

 ナウトゥが、その機体に炎の渦を纏い始める。これによる突進、更にレインとの円陣攻撃による炎の檻は機体を一気に過熱化(オーバーヒート)させるので危険だが、回避すればすぐに次の動作に移る事は難しいはずだ。問題はその後、ナウトゥの隙をカバーするように仕掛けてくるシェアリング状態のレインだが、これについても一応シミュレーションはしておいた。

「カエラ! 遊撃を!」

 ナウトゥの後尾に連結するような位置取りで接近してくるレインを睨み、僕はカエラに言う。『アイ・コピー!』という、打てば響くような返事が返ってきて、幾分か安心した。

 若干軌道を逸れていた二号機が飛来し、丁度レインの機械龍頭部──メインカメラの辺りにグラビティアローを撃ち込む。ナウトゥが慌てたように後方を向いた瞬間、僕はその横腹に刀を振るった。

「伊織、ケーゼ隊一斉攻撃だ!」

 通信の都合上ケーゼに居る伊織には伝わらない、と分かっていてもつい叫んでしまう。それはニーズヘグとのヒッグス通信を通して聞こえたらしく、後ろから続いてきていたケーゼたちは僕たちの頭上を越えるようにして、敵スペルプリマーに向かって行く。

 ケーゼの機銃の、無数の弾丸の雨を浴び、ナウトゥは悶えるように身をくねらせて沈み込んだ。重力の拡散から解放されたレインは二号機の腹部に突進し、そこで発火する。炎上を回避するかのように、カエラが上空に機体を退避させた。

 と、そのポジションで僕は不覚に気付いた。敵スペルプリマー二機は、エルガストルムの正面から逃れている。そして岩の射線上には、僕の一号機と、ケーゼ数機が集まっている──。

(まさか、ナウトゥはわざと押された振りをして……)

 僕は青褪め、カエラに助けを求める。彼女があっと声を上げ、こちらに弓を向けた時、案の定エルガストルムは燃え上がる岩石を射出してきた。ニーズヘグに居るアンジュ先輩が『皆退避!』と叫ぶ。

 敵船とディベルバイスの中間に位置する僕たちには、着弾まで一分もない。だがカエラは、

『そこ!』

 想像を絶する精度で矢を放った。メインモニター一杯に、ケーゼたちのすぐ後ろに巨大な岩が現れた、と思った瞬間、それは射貫かれて粉々に砕け散る。岩の破片は拡散したが、それは僕が重力バリアを用いて防いだ。

「助かったよ、カエラ」

『まだまだ序の口。ディベルバイスとエルガストルムが擦れ違うまで、あと一時間半は掛かるんじゃないかな?』

 彼女はレインを避けて更に上昇し、エルガストルムの方に矢を放つ。敵船はまた発射準備を整えていたのか、艦の周囲で何かが爆発したような光が見えた。

『皆、大丈夫そう? ニーズヘグの居る最終防衛ラインを越えてしまったら、シオンに射撃組を動かして貰うけど……』

 アンジュ先輩が言ってくる。だが僕は、「大丈夫です」と応答した。

 ディベルバイスのビームマシンガンは、先の戦闘で多くが損耗してしまっている。射撃組の生徒たちも、一度死にかけたというトラウマがあったり、視力などを奪われている者と急遽交替した者たちも居たりして、可能な限り実戦には投入したくない、というのが僕や伊織の本音だった。

 予定では、僕たちは敵戦力を押しつつエルガストルムに接近する。ディベルバイスに敵戦力が近づくのを、擦れ違うタイミングのみに留める為だ。ここで僕たちが退いたりしたら、プランが総崩れになる。

「接近は上手く行っています! でも、近づけばまたあの火炎放射を受ける可能性も高くなります。本艦のブリッジ、聞こえますか? 現段階で、既に少しずつ進路をずらしておいて下さい。火星を目印にしている限り、予定コースから大きく外れる事はありません」

『アイ・コピーよ、渡海君』本艦との通信から、マリー先輩の声がする。『あなたたちは、船外で動く敵機が追って来ないように、とにかく二機を戦闘不能にする事を考えてちょうだい。無理に撃破まではしなくていい、擦れ違うタイミングで、エルガストルムの回頭より早く何らかのアクションを起こさせないように出来ればいいんだから』

「了解です」

 僕は、上昇コースに移行したナウトゥを睨み、刀を上段に構えた。

 僕たちの機体のスペックと、状況処理のキャパシティを先の戦闘から知ったのは相手も同じなのだ、と自覚する。勝率は五分五分だが、以前より戦いやすくはある。これをものにせねばならない、と考え、再び機体を前進させた。

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