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『破天のディベルバイス』第11話 闇の時代④

 ②ベルクリ・ディオクレイ


 新生護星機士ユーゲント、ベルクリ・ディオクレイとガリバルダ・カバルティが上から呼び出され、ボストークのクラフトポートに向かった時、自分たちを待っていたのは宇宙連合軍司令官、ブリークス・デスモス大佐だった。

 決して、電撃的といえるような事ではなかった。あらかじめ届いていたHMEによる指令書はブリークス大佐の署名になっていたし、彼からベルクリたち個人に話がある、という事もメッセージにはしっかりと書かれていた。だがそれでも驚いてしまうのは、やむを得ない事だった。ベルクリは、そして恐らくガリバルダも、大佐は今後の宇宙戦争の命運を分けるオルドリン奪還作戦、通称アポロ作戦の為にガイス・グラで指揮を執っているものとばかり思っていたのだ。

 ユーゲントには、否、宇宙連合軍全体には、そのように通知されていたはずだ。派遣先で上官にこのメールを見せた時も、自分たち以外に事前にこの事が説明されている様子もなかった。つまり、この会合はほぼ完全に「お忍び」で行われている、という事になる。

「ディオクレイ、カバルティ、両一等兵。諸君の呼び出された理由について、見当は付いているか?」

 ベルクリたちが敬礼すると、ブリークス大佐は低い声で問うてきた。その重圧に、「はっ」と答えようとした言葉が詰まる。ガリバルダが、心配そうに片手を胸に当てながら口を開いた。

「恥ずかしながら、分かりかねます。何か、自分たちに落ち度があったのだとすれば……」

 ブリークス大佐はそこで、ふっと息を漏らした。彼女が気に障るような事を言ったのか、と思ったが、すぐにそうではないと分かった。

 大佐は、微かに笑ったのだ。気難しく、怖い人物だと思っていた為、ベルクリはやや不意を突かれたように思った。

「そうだろうな。推測出来るはずがない事だ。だが、私は諸君の非を責めようとしている訳ではない。むしろ、諸君を特別に評価し、極秘の任務を与えようと考えているところだ」

「極秘……でありますか?」

 ベルクリは、ただ繰り返した。

「リージョン三駐在軍、第〇八戦闘機中隊のウォリア・レゾンス一等兵も行った任務だ。いや、あの者は准尉だったな。名誉の死により二階級特進したので、最終的な階級は中尉か」

 大佐は、独り言のように呟く。知っている名前に、ベルクリは緊張した。

「レゾンスが関わっていた任務? しかも、命を落とした……」

「非常に危険度の高い任務だが、諸君らには適性があると判断された。特に今回必要とされるのは、二人以上の連携だ。私が諸君に求める事はただ一つ、口の堅さだ。それを、聴く前によく考えて欲しい」

 ベルクリは、ガリバルダの方をちらりと窺う。自分は大型宇宙船の操縦課程を特に専修しており、ガリバルダはSF系列の空母で、タッグを組んで訓練を行っていた相棒だ。呼吸を合わせる事には慣れている。

「私の照会したところによると、連携については申し分ないように思われる。問題は口の堅さだが、これは一歩間違えれば宇宙連合全体を巻き込む騒乱に発展しかねない件だ。誓って、機密を口外しないと言えるか?」

「レゾンスはそれに、失敗したのですか?」

 ガリバルダが尋ねる。

「そうだ。だが、問題はない。内容自体は、そこまで難しくはないのだ」大佐は一呼吸置き、それを告げた。「二ヶ月前、月地球間往還軌道上でサウロ長官を殺し、新型戦艦を奪取したラトリア・ルミレース、特殊攻撃部隊。それを殲滅する」

 ごくり、と思わず喉が鳴った。

 新型戦艦を地球に輸送していたのは、ユーゲントの同期生たちだった。ヨルゲン・ルンなどとは、専攻で顔を合わせ、友人にもなった。それを、あの特殊部隊は皆殺しにしてしまったのだ。

「あらかじめ告げておくが、生半可な気持ちで当たれる任務ではない。ウォリア・レゾンス准尉が奴らとの戦いで命を落としたのは、紛れもない事実だ。適性は、判断材料の全てではない。そこを、よく考えた上で返事をしろ。今なら私も諸君も、まだ引き返せる」

「……ご命令、確かに承りました」

 自分とガリバルダの声が、微塵も乱れずに重なった。思わず顔を見合わせ、数秒の後に肯き合う。覚悟は変わらないな、と思うと、ベルクリは後を続けた。

「自分もカバルティも、連合の機密は決して口外致しません。ただご命令のまま、任務を全うするのみであります」

「宜しい。その言葉を忘れるなよ」

 ブリークス大佐は身を翻すと、「着いて来い」と言った。


          *   *   *


 大佐に案内されて辿り着いたのは、土星地球間往還ロケットの発着場だった。自分たちが退役するまで、絶対に足を踏み入れる事はないと思っていた場所だった為、ベルクリは呆気に取られる。

 ガリバルダが自分の方に口を寄せ、「ねえ」と囁いてきた。

「私たちこれから、土星圏に行くのかな?」

 彼女は、ちらりとロケットの下を見る。そこには土星圏開発チームの制服を纏った作業員が、数人の護星機士と共に立っていた。

 HMEの文面に、一週間分の着替えや携行食を持参するように、という注意書きがあった事を思い出す。まさか、自分たちが任務を引き受け、説明を受けたらその場で土星への旅が始まるのだろうか。

「今回、両一等兵には土星の衛星タイタンに向かって貰う。その案内役を務めて頂くのが、開発チーム筆頭インヴェステラ社の浪川(ナミカワ)殿だ」

 ブリークス大佐は、作業員を指し示す。彼は進み出てくると、「浪川です」と名乗った。「私は大佐の協力者です。あなた方を、安全にタイタンまで送り届ける事を約束します」

 どうも、と曖昧な声が出る。だが何故、という疑問が渦巻いた。

「無色のディベルバイス。それが、奪取されたフリュム船の名前だ」

「ディベルバイス……フリュム……?」

「新型戦艦という情報のみが、偽りだ。本来あの船は、人類の希望。レゾンス准尉の搭乗した水獄のホライゾンは、それを人殺しの道具として転用した過激派によって沈められてしまった」

 大佐の言葉に、ベルクリはいよいよ”連合の機密”の核心へと踏み込んだような気がした。背筋を伸ばし、どのような衝撃的な言葉が飛び出しても動揺しないように、と自分に言い聞かせる。

 だが、その後に大佐が続けた台詞は、その身構えすらも粉々に打ち砕くようなものだった。

「諸君には、現人類をやめて貰う事になる」

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