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1.レイエスという人物。

※レイエスは主人公ではありません。








「……まったく。私という最高の人材を雇うのに、この国はいささか貧乏すぎるのではないか? あのような給料で済まそうなんて、虫が良すぎる話だ」




 深夜のファウスト魔術学園。

 レイエスの姿は、書類や電子機器の並ぶ資料室にあった。誰もいないことを確信した後、彼はあえてそう口にしながらコンピュータの液晶を操作する。

 そして、以前に盗み出したセキュリティキーを用いて内部に侵入した。



「あぁ、私は決して悪くない。悪くないのに、こんな悪事を働いてしまうなんて悲劇だ。すべては日本国の金払いが悪いのが原因であり、国家機密を容易く持ち出せるようにしている環境も悪い。本当に私は被害者でしかあり得ないね」



 レイエスはそう語るように言いながら、学内システムの情報を収集している。

 口振りはなんとも言い訳がましく、あきらかな責任転嫁に満ちていた。――そう。彼の正体は決してただの教師などではない。日本国外組織に属するスパイであり、ファウスト魔術学園へとやってきたのも、この学園にあるとされる情報を手に入れるためだった。

 もっとも、このような実行犯を任される時点で末端に過ぎないだろう。



「いやいや、本当に私は優秀だ。これならきっと、遊んで暮らせるだけの報酬が手に入る。そうなれば、このような終わるだけの極東の国から、おさらば――」



 そうして、レイエスが最後のファイルを入手しようとした。

 その瞬間だ。



「なっ……!?」



 突如として、すべての機器がシステムダウン。

 部屋の明かりもすべてが消え、暗闇の中に閉じ込められてしまった。



「なんだ……? これは偶然の停電か、それとも――」

「何をしているんですか、先生?」

「誰だ……!!」



 直後、資料室の出入り口から声が聞こえる。

 その声の正体は……。



「俺ですよ、レイエス先生。……真田凱人です」

「な、なんだ……お前か」



 担当教室の地味な劣等生、真田だった。

 彼は懐中電灯を手にしながら首を傾げている。分厚い眼鏡のせいで表情のすべては分からないが、レイエスは相手が雑魚だと分かって胸を撫でおろした。そして、



「真田、どうしてここにいる? お前は寮生ではなかったはずだ」



 両腕を大げさに広げながら、ゆっくりと少年に接近する。



「あ、いえ……課題を教室に忘れてて……」

「おやおや。勉強をしようという心意気は買うが、少しばかりよろしくないね」

「……え?」



 レイエスはそのまま凱人の前に立つと、彼の肩にゆっくりと手を置いた。

 すると、途端に口角を歪めて――。



「だって、そうだろう。私に殺人なんかをさせるのだからねぇ……?」



 ――肩を強く掴んで、魔術を行使した。

 レイエスの手のひらからは強烈な電撃が放たれ、真田凱人の全身を包み込む。人間が喰らえばひとたまりもない威力であるのは、火を見るより明らかだった。




「あっははははははははは! ホントにお前は愚鈍で、しかも運がない!!」




 殺人行為の最中であるというのに、彼は笑い続ける。

 そこに命を奪うことに対する躊躇いなどない。何故なら彼の考えではあくまで、自分の仕事中に顔を出した少年の運がなかったから、自分に非はないというものだからだ。

 だからレイエスは、まったく恐れなどしない。

 そして、これが出来損ないの人物への当然の報いと考えていた。



「……さぁて、次は停電の原因を突き止めようか。私は仕事について手を抜きはしないが、定時出勤の定時退勤が信条なのでね」



 凱人は死んだ。邪魔者は死んだ。

 それならば、仕事を再開してしまおう。

 そう考えたレイエスは、少年に背を向けて――。





「そうなんですか。……実は、俺もなんですよ」

「な、に……!?」





 その直後だった。

 殺したはずの人間が、口を利いたのは。




「真田、どうして……!?」

「それは先生の電撃が、あまりに弱すぎるからですよ」





 驚愕し、振り返るレイエス。

 その視線の先には、眼鏡を外して紅い双眸を露にした凱人の姿があった。




 





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