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第八話 クアドロ商会

「何者だ!?」


 商隊は生き残った盗賊に死んだ仲間を埋めさせていた。偶然を装って近づいたルーカスとロレーナに、護衛の冒険者が剣を向けてきたところである。


「あー、怪しい者ではない」

「そんな仮面を着けていてか!? 仮面を取って顔を見せろ!」


「済まないがこの下は酷い火傷でね。見られたくないし見ると吐き気がすると思うぞ」

「コイツらの仲間じゃないのか!?」


「見れば盗賊のようだが、俺たちは違うって」

「なら両手を頭の後ろに組め。武器を持っていないか改めさせろ」


「おいおい、街道を行くのに武器を持ってないわけがないじゃないか。もっともこの短剣だけだがな」


 彼はそう言うと懐から出すフリをして、マジックボックスから短剣を取り出した。そのまま剣を向けてきている冒険者の足元に放り投げる。


「そっちの小さいのは……獣人の娘か?」

「大切な友人だ。危害を加えるなら容赦はしないぞ」


「いや、偏見はない。武器は?」

「持っちゃいない。だが怖がりだから彼女の身体検査なら女がやってくれ」


「いいだろう。まずはお前からだ」

「はいよ」


 言われた通り頭の後ろで手を組むと、やたら入念に調べられた。あまり気持ちのいいものではなかったが仕方のないことだ。むしろこの慎重さこそが、護衛任務を担う者としては必要と言えるだろう。


 ロレーナの身体検査は使用人の女性が、冒険者に要点を教わりながら行った。その際に耳と尻尾には不用意に触れないようにと注意していたので、獣人の扱いにも慣れているようだ。


「この短剣はしばらく預からせてもらうがいいか?」

「何かあった時に守ってくれるならな」


「返すまでは約束しよう」

「ならいいぜ」


「お前たち二人はどこに行くんだ?」

「ランデアドーラ帝国を目指している」


「帝国へ? 何をしに?」

「それをアンタに言う必要があるとは思えないが」


 ルーカスはあまりにも上からものを言ってくる冒険者に少々不機嫌な表情を向けた。警備隊でもないのに根掘り葉掘り聞こうとする権利は冒険者にはないからだ。


 しかしこの後馬車に乗せてもらえるよう頼むつもりだから、あからさまに不遜な態度を取るわけにもいかない。なので軽い抗議のつもりで言ったのだが――


「確かにその通りだな。済まなかった」

「いや、分かってくれればいいんだ」


「今日はカーリン村で休むつもりか?」

「ああ」


「あの村に宿屋はないぞ」

「それなら心配は無用だ」


 実は宿改めの時にエリアスが自分の妹夫婦と言ったディエゴとドーラの二人は、騎士が予想した通りその地に根づいて暮らすスパイ、つまり草だった。


 夫婦にはエリアスたちから話が伝えられ、ルーカスとロレーナは親戚として彼らの家で一晩過ごすことになっていたのである。


「なるほど、親戚が住んでいるのか」

「アンタらもカーリン村で?」

「その予定だ」


「悪いがアンタらを泊めるほどの広さはないぞ」

「それこそ心配無用。我々はゲルンの町まで行くから野営の準備がある」


「ゲルンまで行くのか」

「そうだ」


「物は相談なんだが……俺はルーク。アンタの名を聞いてもいいか?」


 当然偽名である。しかしルークならロレーナがルー兄と呼んでも不自然ではない。


「ポンシオ、二級ライセンスの冒険者だ」

「二級!? 上から二番目じゃないか!」


「厳密には一級の上に特級があるから三番目だな」

「それでも凄いって!」

「で、相談とは何だ?」


「ああ、出来ればゲルンまで馬車に乗せていってもらえないかと思ってな」


「それは俺の一存では返事は出来ないな。俺たちはクアドロ商会の商隊の護衛をしているんだ。頼むならセルジオさんに言う必要があるがタダでは無理だぞ」


「分かっているさ。セルジオさんというのが商隊の隊長さんか?」

「そうだ」


「話をさせてもらえないか?」

「聞いてやろう」


 ポンシオが他の冒険者を呼んで用件を伝える。彼自身はルーカスたちの見張りを続けるということだろう。


 ほどなくして身なりのいい、スラッと背の高い男性が微笑みながらやってきた。


「初めまして、ルークさん。ゲルンまで馬車に乗りたいと伺いました」


「初めまして。俺とこのロレーナをお願いしたいのですがいかがでしょう。もちろん代金はお支払い致します」

「お二人で金貨三枚頂けるのでしたら構いませんよ」


 三枚のうち一枚は、護衛対象が増えることに対するポンシオたちへの報酬だそうだ。ただし馬車に乗れるのは移動時のみで、食事や野営のためのテントなどは提供出来ないとのこと。意地悪ではなく予定外の物資の持ち合わせがないからだそうだ。


「助かります。ではこちら、金貨三枚を……」


「ゲルンに着いてからで構いません」

「いいんですか?」


「はい。金貨をお持ちなのが分かりましたので」

「ではお言葉に甘えさせて頂きます」


「ところでルークさんは帝国で何をされるおつもりなのですか?」


 一度差し出した金貨を懐にしまうと、セルジオが興味深げに聞いてきた。


「そうですね、商人のセルジオさんになら言ってもいいでしょう。実は俺はマジックボックスが使えるんです」

「ほう!」


「それを使って商売をしようと思いましてね」

「グレンガルド王国ではダメなのですか?」


「きな臭い噂を耳にしたものですから」

「どのような噂ですか?」

「単なる噂かも知れませんので申し上げるわけにはいきません。すみません」


「いえいえ、商人にとって情報は命の次に大事だと言っても過言ではありません。易々とお教え頂こうとした自分を恥ずかしく思います」


 口ではそう言っているが、あわよくばとでも思っていたのだろう。さらに自分に教えないなら他にも教えるなという含みもあると彼は睨んでいた。


「明日は日の出から半時(約一時間)ほどで出立する予定です」


「分かりました。村の入り口でお待ちすればよろしいですか?」

「はい」


 盗賊の死体を埋める作業はまだかかりそうだったので、ルーカスとロレーナは一足先にカーリン村へと向かうのだった。

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