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第七話 盗賊と商隊

 翌朝、騎士たちは早々にテントを畳んで王都に帰っていった。それはいいとして、ロレーナがルーカスに妙に懐いている。


「ロレーナ?」

「朝ご飯作る。その前にギュッてしてほしい」


「ヌシ様……」

「御館様……」


「ち、違うぞ。何もしてないぞ」


(きつね)()よ、何故にそこまでヌシ様にじゃれつくのだ?」


「ルーカス様、優しく抱きしめてくれた」

「もしかして商人を殺した時のことか?」


「うん。すごく安心出来た」

「そうか。これでいいか?」


 要望通り彼女のか細い体を抱きしめると、満足げな表情で毛布から出ようとして慌てて抱きついてくる。


「さ、寒いぃ」

「ガエル、暖房は使えそうか?」


(もや)が立ち込めておりますし、騎士たちも去りましたので問題ないでしょう」


「ならすぐに頼む。クララ、ロレーナに服を着せてやってくれ」

「かしこまりました」


 しばらくすると室内の温度が上がってきた。中は魔法で広げられているとは言え、物理的な空間は少し大きめのキャビンだ。寒さを感じなくなる程度まで温度が上がるのにそれほど時間を要しなかった。


 すぐにロレーナが朝食を作り、四人が食事を終えた頃にエリアスとマリシアが合流する。


「お前たち、食事は?」

「宿で済ませたでござる」


「村人たちの様子はどうだ?」

「この時期は家に籠もってほとんど出歩かないようでござるな」


「なら俺たちはもう少し気温が上がってから出発することにしよう」


「御館様」

「マリシアか、どうした?」


「このままランデアドーラ帝国に向かわれるのでしょうか?」

「そうだな。まずは王国を出るのが目的だから、帝国領を目指すことにしよう」


 そこでガエルがふと閃いたように顔を上げた。


「それよりも北の王弟殿下を頼られたらよろしいと思いますぞ」

「いや、叔父上に迷惑をかけるわけにはいかん。今や俺は盗人だからな」


「まったく、我が主には呆れるでござるよ。まさか宝物庫から馬車まで盗んでこられるとは」


「ああ、そうだ。どこか適当なところで装飾品を全部引っ剥がしてくれ」

「板張りにでもするのでござるか?」


「うん、それがいいだろう。金は溶かせるか?」

「炉がないと難しいでござる」

「そうなると鍛冶屋か」


 逃亡生活で鍛冶屋を利用するのは現実的ではない。しばらく加工は諦める他はなさそうだ。


「宝石類はどうだ?」


「この馬車の宝石はさすがに簡単には売れませんぞ」

「何故だ、ガエル?」


「王家の馬車の装飾品ですからな。その辺の商人ならまず偽物を疑いましょう」


「凄すぎてってことか?」

「はい」

「真贋も見極められんとは」


「御館様、見極められたら出所まで知られます」

「マリシアの言う通りでござる」

「困ったな」


「もっとも盗品を扱う商人もおります故、いずれは何とかなるでござるよ」


 しばらくしてどうにか耐えられるほどに気温が上がってきたので、キャビンをマジックボックスに収納して一行は旅を再開した。とは言っても街道をいくのはルーカスとロレーナの二人だけで、宵闇衆の四人は姿を隠しての同行となる。


 そうして間もなくカーリン村に差しかかろうというところで、エリアスが二人の前に飛び出してきた。


「我が主、この先で争う音が聞こえたでござる」

「ケンカ、なわけないよな」


「おそらくは盗賊の類いかと」

「誰かが襲われてるのか?」


「ガエルとクララを確認に向かわせたでござる。盗賊ならそのまま討伐してくるでござろう」


 盗賊と聞いてロレーナが彼の腕に強くしがみついてきたので、小さな手に自分の手を重ねる。それからものの数分でクララが戻ってきた。


「御館様、五人組の盗賊でした」

「被害は?」


「護衛の冒険者が一人負傷しておりましたが、商人に被害はありません」

「商隊だったのか」


 荷馬車が二台に商人一人と使用人と思われる者が四人、冒険者三人の一団だった。冒険者が手練れだったため、被害は最小限で済んだようだ。ガエルとクララの出番はなかったらしい。お陰で二人の存在は彼らに気づかれていないとのことだった。


 なお、盗賊は三名が死亡、二名が生け捕りにされていたという。この二人も極刑は免れないだろう。王国法では理由の如何を問わず盗賊行為は死罪だったからだ。


「どこに向かっているんだろうな」

「商隊の規模からすると、おそらくはゲルンの町ではないかと」


「確か帝国との国境手前の町だったか」

「カーリン村で一泊、そこから野営地で一夜を過ごせば着く距離です」


「ロレーナだけでも馬車に乗せてもらえないかな」

「ルーカス様と一緒がいい」


 離れないぞ、という強い意志を示すかのように、さらに彼の腕にしがみつく力が増す。


「じゃ、二人で乗せてもらえないか聞いてみるか」

「うん!」


「代金を払うからと交渉されてはいかがでしょう?」

「そうだな」


「ただ、商人であれば御館様の顔を知っている可能性が高いと思われます」

「それは問題ない」


 彼はマジックボックスから、額から鼻頭の上まで隠れる白い仮面を取り出した。


「酷い火傷を負っていることにすればいいだろう」

「あとはロレーナさんが御館様を呼ぶ時ですが……」


「ロレーナ、これから俺のことをルー兄と呼んでくれ」

「るうにい?」


「そう、ルー兄だ。いいか?」

「これからずっと?」


「その方がいいな」

「分かった。これからはルー兄って呼ぶ」


「御館様、旅の目的を聞かれたら何と答えますか?」


「マジックボックスを生かして商売を始めるために帝国に向かっている、というのはどうだ?」

「よろしいかと思います」


 他にも細かいことを決めてロレーナに口裏を合わるように言ってから、二人は商隊の後を追う。その時すでに宵闇衆の四人は姿を消していた。

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