第四話 新しい仲間たち
翌日の昼前、家に四人の若い男女が訪ねてきた。この家の維持管理のために集められた、宵闇衆の配下の密偵たちである。
ルーカスはロレーナと共に居間の上座に据えられた二人掛けソファに腰を降ろした。
「御館様、左からサントス、レグロ、ロベルタ、プリシラです」
マリシアに紹介された四人は揃って跪いた。
サントスは長身で肩幅が広く、ルーカスより三つ年上の二十五歳。濃紺の短髪で実年齢よりも若く見えるイケメンだ。
レグロは二十八歳、サントスとは対照的に小柄で身長はマリシアやクララと同程度である。茶髪で猿のようなイメージだが、見た目通りかなりすばしっこいとのことだった。
ロベルタは女性としてはやや背が高く、胸もそれなりに目立つ二十三歳。金髪で顔は高級クラブにいるような美人タイプ、スタイルがよく立ち姿も美しい。
プリシラは快活そうな雰囲気の、紫の髪をポニーテールにしている二十一歳だ。マリシアやクララと同じくらいの身長でかなり華奢に見える。胸はわずかに膨らみが分かる程度だった。
「お初にお目にかかります、御館様!」
「サントス、顔を上げて楽にしてくれていいぞ。他の三人もだ」
「「「「はっ!」」」」
「まず重要なことから話そう。ここにいる狐獣人のロレーナは特級警護対象と認識してくれ。彼女を泣かせたり傷つけたりする者は容赦しないしするな」
「「「「はっ!」」」」
「後で案内させるが、俺とロレーナ、マリシアとクララの四人は基本的に厩舎にある馬車のキャビンで過ごす。こちらに来るのは来客時などに限られるだろう」
「馬車のキャビンですか?」
「ロベルタ、御館様のお言葉に疑問を抱いてはなりません!」
「はっ! 申し訳ありません!」
「いや、そんなに堅苦しくせず立場的には普通の使用人として振る舞ってくれればいい。過度の謙遜も他人には不自然に映るから不要だ」
「「「「はっ!」」」」
「それからすでに聞いていると思うが、俺はルーカスではなくルークと名乗っている。あとはそうだな、この家の部屋は自由に使ってくれて構わない。風呂も使っていいぞ」
「「「「ありがとうございます!」」」」
「その他の細かいことはマリシアかクララに聞いてくれ。不明点があれば俺に直接でも構わん」
「「「「はっ!」」」」
そこで彼はふと思いついた。
「一つ仕事を頼みたい」
「「「「承ります!」」」」
「近くに身寄りのない子供を預かって育てている施設や教会の類いがないか調べてくれ。財務状況や職員と子供の人数もだ」
「私が行かせて頂きます!」
「プリシラだな、頼む」
「はいっ!」
残った三人をマリシアがキャビンに連れていき、居間にルーカスとロレーナ、クララだけになったところで家の扉がノックされる。やってきたのは別行動を取っていたエリアスとガエルの二人だった。
「我が主、久しいでござる」
「ヌシ様、ご無沙汰でありましたぞ」
「二人とも、陰から支えてくれてありがとう」
「なんの! 今後は我々もここを拠点にするでござる」
「ああ。好きに使ってくれ」
案内を終えたマリシアが戻ってくると、その場にいないプリシラ以外の三人に彼らも共に住むことになったことを伝える。もっとも初対面というわけではなかったらしく、五人は再会を喜んでいた。
「ところで御館様」
「どうした、クララ?」
「なぜ施設や教会の調査を?」
「それか。実はな」
理由を聞いた一同が納得したところで、エリアスが手を挙げる。
「我が主、よいでござるかな?」
「うん?」
「領都の北の外れに、トータリス聖教から見捨てられたメンテノーラ教会というのがござる」
「本当か!?」
エリアスが集めた情報によると、司祭が司教の殺害を企てたが失敗。司祭は即座に護衛の兵士に殺されたため動機などは不明のままだが、悪霊となって出没するようになり信徒が寄りつかなくなってしまったという。
「聖教も何度か後任の司祭を送っていたそうにござったが、悉くが不審死を遂げるか気が触れるかで、とうとう匙を投げたのでござる」
「悪霊なんて本当にいるのか?」
「ガエル殿と探ったが分からんでござった」
「不審死というのは気になるが、このタイミングで話が出たということは教会に何人か子供が住んでいるんだな?」
「左様。シスター二人と子供が九人」
「過去にシスターや子供たちが不審死したり気が触れたといったことは?」
「調べた限りではござらん」
そんな危険なところにシスターと子供たちが住み続けている理由は、彼らが悪霊を見たことがないのと他に行き場がないからとのことだった。
子供は六歳の女の子が一人、十歳の女の子が四人、十一歳の男女一人ずつと十二歳の男女一人ずつの九人だそうだ。シスターは一人が四十代後半、一人が二十代前半と見られるとのこと。
「どうやって食いつないでいるんだ? 信徒が寄りつかないんじゃ寄付金も集まらないだろ?」
「教会の裏手で作物が作られているようですぞ」
「しかしガエル、それだけではどうにもならないんじゃないか?」
「男の子二人は冒険者組合に登録しており、任務を請けてわずかばかりですが収入もあるようですな」
「子供たち、いや、シスター二人も合わせて健康状態は?」
「今すぐどうということはござらんだろうが、全員痩せ細ってはいたでござる」
この後ルーカスの命令で出ていたプリシラからの報告でも、メンテノーラ教会の名が出たことで彼は行動することを決めた。
「ロレーナ、明日はお出かけしようか」
「するーっ!」
「馬車を使おう。朝食を済ませたら出るからクララ、御者を頼む」
「御意」
◆◇◆◇
「お父様、第三騎士団の団長も落ちましたわ」
「よくやったぞ、フリア」
グレンガルド王国センテーノ侯爵家の王都邸執務室では、当主フェリペ・センテーノとかつてルーカスの婚約者だったフリア・センテーノが互いに口元に不敵な笑みを浮かべていた。
「なかなか言うことを聞いてもらえませんでしたが、あの方から頂いた媚薬で獣のように盛っておりました」
「お前は大丈夫なのか?」
「ええ、傀儡に身代わりをさせましたので」
「あまりメイドを使い潰すなよ」
「これでいよいよですわね」
「いや、まだだ。どうも兵士どもの士気が低すぎるようでな」
「ですがあの地は完全に復興は成っていないのではありませんでしたか?」
「背後が巨大なのだ。事はさらに慎重に進めねばならん」
「フェリペ閣下にご報告がございます!」
執務室の扉をノックする音と共に、使用人の男の声が聞こえた。
「入れ!」
「はっ! 失礼致します!」
「報告とは何ですか?」
「フリア様、相変わらずお美しい」
「いいから報告せよ!」
「はっ! 標的を追った者たち全てが消息を絶ちました」
「な、何だと!? それは成し遂げた後か!?」
「いえ、分かりません。こちらの放った鳥は残らず撃ち落とされてしまい……」
「役立たず共め! 目障りだ、貴様も去ね!」
男は侯爵の怒りに血の気を失い、一目散に執務室を飛び出していった。
「お父様……」
「標的の暗殺は失敗したと見て間違いないだろう。あの方の指示を仰ぐしかない」
時を同じくして、トータリス聖教国とカンダイン王国との軍事同盟が締結された。




