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第一話 まずは商業組合

 ハロルド商会のミムーア支部が用意した物件は、二階建てでキッチンと内風呂のついた、広い部屋が一階に二つ、二階に四つのちょっとした屋敷と呼べる建物だった。広大な玄関ホールに、大小一つずつの応接室まである。


 居間も十分すぎるほどの空間で片側八人、両側で十六人が着けるテーブルが置かれていた。他にローテーブルを挟んで三人がゆったり座れるソファが向かい合わせに二つ、上座に当たる部屋の奥側に二人掛けのソファが一つ並んでいる。


「広いですね」

「馬車よりはな」


「御館様のお城の部屋に比べたら半分以下ですか」

「家具も一通り揃えましたが、何かご要望はございますか?」


 案内で同行していた番頭のルーベンが、微笑みを絶やさずに言った。テーブルやソファなどはどれも木目の美しい格調高い品々だ。いかに商会が手を尽くしたかが窺える。


 もっとも基本的には結界が張れる馬車の方で過ごすので、この家は対外的な仮の住まいとしてしか考えていなかった。


「いや。厩舎も申し分ない。隠し通路があるのも都合がいい」


「あちらの方は全ての壁に鉄板が仕込んでありますので、万が一の襲撃にも効果を発揮するでしょう」

「万が一はない方がいいがな」


 ルーカスは最初、こちら方にエリアスとガエルを住ませようと考えていた。しかし彼らは現在、様々な情報を求めて辺境伯領内を飛び回っている。拠点にするのがせいぜいかも知れない。


 代わりにマリシアが提案してきたのは、配下の者を呼び寄せるということだった。一通りの案内を終えたルーベンが去ると、人数などを詰める打ち合わせを始める。


「これだけの広さですので、建物の維持管理も含めて四人ほど住まわせるのがいいと思います」

「私もマリシアの意見に賛成です、御館様」


「知らない人が来るの?」


「ロレーナ、心配しなくてもお前をいじめたりする者たちではないから安心しろ」

「分かった!」


「人選はいつ頃までに決まる?」

「候補はすでに」


 マリシアはサントス、レグロ、ロベルタ、プリシラの四人の名を挙げた。最初の二人が男性で、ロベルタとプリシラは女性とのこと。いずれも二十代前半で、密偵としても優秀なのだそうだ。


「何日くらいで来られる?」

「遅くとも明日の昼までには」

「根回しがいいな」


「この地に拠点を置く前提で集めておきました」

「ならさっさと何を商売にするか決めるか」


 露店から始めるつもりだったので、売れる物は限られてくるだろう。


「無難なところですと小物などでしょうか」

「どこかから仕入れてか?」


「配下の者に作らせるという手もございます」

「しかしあまり儲かる気がしないな」

「お料理はぁ?」


「料理か……ロレーナの作る飯は美味いし、いいかも知れないぞ。今の時期だと温かいスープがいいか」


「ですが料理の提供となると最低でも屋台が必要となるのではありませんか?」

「確かにそうだな。しかしハロルド商会は頼りたくない」


「同感です、御館様。屋台はどこかの工房に作らせましょう。鍋や食器など、必要な物も露店などで揃えるより一括して受注してくれるところを探します」


「マリシア、頼む」

「はっ!」


「人員はいかがなさいますか? まさか御館様や我々がずっと立っているわけにはいかないと思いますが」

「ああ、それには考えがある。が、その前に冒険者組合と商業組合に顔を出しておこう」


 クラウディオ辺境伯領の領都ミムーアでは、冒険者組合や商業組合などの建物は全て中心部にあった。冒険者組合の隣に商業組合、その隣に生産者組合、向かい側には農業組合、生活組合といった感じだ。


 ちなみに屋台や食器などを発注しようとしている工房は生産者組合に属している。紹介を受けるとしたらそちらを利用することとなるが、そこにもハロルド商会の息がかかっているのはまず間違いないだろう。


 ルーカスたちが最初に向かったのは商業組合だった。受付嬢の名札にはカルラとある。二十代半ばと思われる落ち着いた雰囲気の美しい女性だ。ライトグリーンの肩までの髪に、大きな二つの膨らみには思わず目がいってしまう。


「ようこそ、商業組合へ。本日はどのようなご用件でしょうか?」

「この町で屋台を出そうと思ってな」


「商業組合へのご登録はございますか?」

「ああ、これだ」


 ルーカスは組合員証を差し出した。


「拝見致します。ルーク様ですね。冒険者組合にもご登録されていらっしゃるんですね」

「そうだ」


「屋台では何を売られる予定ですか?」

「料理を出そうと考えている。今の時期だと温かいスープなどになるだろうが、メニューは都度変えるつもりだ」


「もし食材に魔物の素材を使われるのでしたら、事前に魔物の種類を冒険者組合に届け出る必要がございます」

「理由は?」


「間違って食べてはいけない魔物が出されないようにするためです」

「なるほど、承知した」


「出店する場所はお決まりでしょうか?」

「いや、いい場所があれば紹介してほしいんだが、可能か?」


「申し訳ございません。当組合では承っておりませんので、商会か土地や建物の販売店をご利用下さい。ハロルド商会ならご希望が叶うと思います」


 ルーカスがハロルド商会以外を希望すると不思議な顔をされたが、カルラは徒歩圏内にコバルリッツという、主に賃貸物件を扱っている土地建物の販売店があると教えてくれた。


 そこはミムーアの市場近くに多く土地を所有しているとのことで、露店に土地を貸すサービスもしているそうだ。賃料などの折り合いがつけば都合がいいことこの上ない。


「税が売り上げの二割というのはご存じですか?」

「もちろんだ」


「では、場所が決まりましたらまたお越し下さい」

「分かった。ありがとう」


 商業組合を出たルーカスとロレーナ、マリシアとクララの四人は、そのまま隣の冒険者組合に向かった。

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