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第一話 獣人少女ロレーナとの出会い

「エリアス、ガエル、マリシア、クララ、付いてきてくれるのはありがたいが、俺に許されたのは手に持てる荷物のみだ。お前たちまで国を捨てる必要はないんだぞ」


 ルーカス元王太子が父であるグレンガルド国王より廃嫡と国外追放を言い渡されてから三日後、深くフードを被った彼は人通りの少ない裏路地を進んでいた。民衆の多くに自身の顔が知られていたためである。


「我が主のあるところに我が道あり。拙者が仕えているのは国ではござらん故」

「エリアス殿の申される通り、とうに我が輩の生涯はヌシ様に捧げておりますぞ」


「この命尽きるまで、お仕えするのは御館様ただお一人にございます」

「私もマリシアと同じです。どこまでも御館様についていきます」


「お前たち……」


 四人の従者もルーカス同様、黒いローブにフードで顔を隠しているため、見た目からは男女の区別すらつかない。


 エリアスは野太い男性の声で、体躯の大きさがずば抜けている。ガエルは逆に華奢で小柄なイメージだが、声からするとそれほど若くはないように感じられた。


 マリシアとクララは共に女性で、マリシアの身長はガエルよりも小さく、クララはさらにそれより五センチほど低い。


 彼女たちの鈴の鳴るような心地のよい声の響きからすると二十歳前後ではないかと思われるが、正確なところはルーカスも聞いたことはかなった。


 この四人はルーカスが宵闇(よいやみ)衆と名づけた、彼直属の密偵たちである。とは言っても国王にすらその存在は明かされておらず、本人たち以外に正体を知るのは元王太子と彼らの配下のみだった。


「今は廃嫡、国外追放のみだが、やがて追っ手がかかるのは目に見えているのだぞ」

「なれば出来る限り早く国を出るのみにござる」


「目指すは西のランデアドーラ帝国か、東のカンダイン王国。カンダイン王国を通り過ぎてその先のトータリス聖教国に向かうという手もありますぞ」

「聖教国はないな。トルキム戦役ではきな臭い動きをしていたし、そもそも俺はトータリス教って苦手なんだよ」


「確かにあのタイミングは出来すぎでござったな」

「それに神の許では皆平等などと(うた)ってはいるものの、一部には獣人を差別する動きもありますからね。御館様の仰るのももっともかと」


「いずれにしてもこの格好で(つる)んでいては目立ち過ぎるでござるな」

「おい、あれ……」


 ルーカスが指さしたのは商人風の男と狐の獣人と思われる少女、その二人を囲んで裏路地のさらに奥に連れていこうとしている四人の男たちだった。遠目には分かりにくいが、どうやら刃物を向けて脅しているようだ。


「妙です、御館様」

「何がだ、マリシア?」


「商人っぽい者も含めて、男たちは全員こちらに気づいてます」

「それがどうかしたのか?」


 人目を避けているとは言え、同じ裏路地にいるのだから存在に気づかれても不思議はない。ルーカスは決してマリシアの意見を軽視するつもりはなかったが、商人と思しき男性と獣人少女を見捨てるわけにはいかないだろう。


 何故なら四人の男たちが堅気には見えなかったからである。少女を含む六人が奥に消えたところで、ルーカスたちは距離を詰めた。


 すると彼らの声が聞こえてくる。どうやら奥は袋小路だったようで、建物の陰に身を潜めて聞き耳を立てて様子を窺うことにした。


「フランコさんよぅ、大人しくその娘を渡してくれよ」

「そうすりゃ命までは取らねえぜ」

「もちろん俺らのことを警備兵に売ったら別だけどな」


 フランコというのが商人の名前のようだ。


「ろ、ロレーナは見ての通り《《毛なし》》の獣人です。価値などありませんよ」


「へえ、その狐っ娘はロレーナってのか」

「しかし人売り商人の言葉とは思えねえなぁ」

「な、なにを……」


「俺らが知らねえとでも思ってるのかい? 毛なし獣人は確かに力は弱えし体力も普通の人間とさして変わらねえ」

「だがよ、若えメスには別の使い途があんだろ」


 獣人は種族に限らず、体毛が多いほど優れた能力を有していると言われている。そのため一部の貴族が私兵として好んで雇う風潮があった。


 一方で毛なしと呼ばれる獣人はほぼ全身に体毛がなく、獣耳や獣尻尾を除けば見た目は人間とほとんど変わらない。しかし特に秀でた能力もないことから、動物以上人間以下として差別の対象でもあった。


 ただし稀にロレーナと呼ばれた少女のように容姿に恵まれた獣人もいる。


 黄金色に輝く長い髪に、やや紫ががったラピスラズリのごとくに深みがあり美しく透き通る大きな瞳。きれいな三角形の獣耳は髪飾りのように可愛らしい。身長からすると十二、三歳といったところだろうか。


 ふさふさの尻尾も触り心地がよさそうで、四肢や腰は驚くほど細い。胸は……慎ましやかな膨らみと言っておこう。


 つまり愛玩獣人として需要があるのだ。


「俺ぁ獣人のメスになんざ興味がねえけどよ、雇い主様が是非ともってんでな」


「この娘は売り物ではありません。得意様の許へ奉公に上がるために連れていくところなのです。お見逃し下さい」


「そいつぁ出来ねえ相談だ。痛え目に遭いたくなかったらソイツを置いていきな」

「分かってんだろ。俺たちシンタド一家に逆らったらどうなるってことくれえよ」


「シンタド一家だと?」

 ルーカスは聞き覚えのある名前に眉をひそめた。


 シンタド一家とは王都に蔓延(はびこ)るならず者の集団で、盗みから人殺しまで犯した罪は枚挙に暇がない。しかし末端を捕らえても獄中で暗殺されてしまうか、証拠不十分で釈放せざるを得ないなど、警備隊でも手を焼いていたのである。


「一説にはどこかの貴族が後ろ盾になっているとか」

「それがヤツらの言う雇い主だとしたら……」


「御館様はもう王族ではないのです。たとえそうだったとしても手出しは出来ません」

「クララの言う通りですぞ」


「建物の陰でコソコソしてるヤツら、出てこい!」


 その時、男たちの一人が叫んだ。


「言われてそうですか、と出ていくわけが……我が主!?」


 いきなり彼らに姿を見せたルーカスに、宵闇衆の四人が慌てて彼を護るように前に出るのだった。


――あとがき――

トルキム戦役については少し先で触れます。

全貌はもっと先になります。

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