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第三話 等級詐欺

「十級冒険者のマリシアです」

「同じく、十級のクララです」

「そちらがパーティーでくるんだ。こちらも十級パーティー『狐の尻尾』として闘わせてもらう」


「人数合わせか、構わねえぜ。女相手だからって容赦はしねえぞ。顔に傷が付いても文句垂れんなよ」


 冒険者同士の私闘は禁じられている。ただし決闘の手順を踏めばその限りではなかった。手順は互いに名乗って等級を相手に伝えることと、最低一人の立会人がいることである。


 立会人は無関係の赤の他人、もしくは戦闘試験をパスしていない冒険者組合員と定められていた。ただ今回は城壁の窓、()()から騒ぎを聞きつけた門兵たちも見ているので立会人には事欠かないだろう。


 ルールは相手に致命傷を与えないことと、降参した場合に追い打ちをかけないことである。勝敗はどちらかが気絶などで戦闘不能になるか降参すれば決まる。


「言っておくが致命傷を与えないってルールは力が拮抗していた場合のことでな。俺らとお前たちのように等級差があった場合には勢い余ってって言い訳が通用するんだぜ」


「それは逆も同じと考えていいのか?」

「うん?」


「等級がはるか上の『(あま)(かけ)翼竜(よくりゅう)』を相手に『狐の尻尾』は全力を出すしかなかった。結果()()()戦闘不能に追い込んでしまった、というのはアリかと聞いている」


「こりゃあいい。ルーク、お前俺たちに勝てるとでも思っているのか?」

「質問に答えろ、ビニシオ!」


「アリだよ。可能性はないがな!」

「確かに、等級で考えれば望みは薄いだろう」


「望みは薄い? 薄いだと!? そんなもの端からねえんだよ!」


 剣を振り上げてビニシオが踏み込むと同時に、ピエールとトマスも向かってくる。しかし勝負は一瞬でついていた。


 ルーカスが地を蹴りビニシオの腹にタックルを決めた時、振り上げられた剣は未だ頭上高くにあった。自身の踏み込みとルーカスの突進の反動でくの字に曲がった体は無様に尻もちをつき、首筋に峰打ちを受けてビニシオの敗北が確定する。


 一方ピエールとトマスの二人の肩には短剣が深々と突き立てられていた。


「「ぎゃーっ!!」」


 ビニシオは一度はメンバーの非を認めたので、今後も冒険者生活を続けられる程度のダメージしか与えなかった。しかしピエールとトマスは放置すれば罪を重ねる可能性があったため、二度と剣が振るえないように肩の筋力を奪ったのである。


 相手が殺しに来ていたにも関わらずそうしたのは、組合への報告時に温情をかけたと認めさせたかったからだ。


 ちなみにピエールとトマスに短剣を突き立てたのはマリシアとクララの二人だった。彼女たちには口に出さずとも、ルーカスの意図が伝わっていたのである。


「私たちは強いと言ったはずです」

「あの二人は明日、冒険者組合に突き出させてもらう」


「ま、待て、待ってくれ! そんなことになれば我ら『天翔る翼竜』は……」

「解散だろうな。だがそれは自業自得というものだ」


「聞かせてくれ。何故十級の『狐の尻尾』がこれほど強いんだ!?」

「俺たちが冒険者組合に登録したのは数日前だ。十級なのはそのためだよ」


「つまり実力は三級の俺たち以上ということか!?」


「さあね。実力がどの程度なのかは自分では分からないからな」

「等級詐欺かよ……」


 翌朝、開門と同時に門兵たちが駆け寄ってきて『天翔る翼竜』の面々を連行していった。十級冒険者と非力に見える少女二人に決闘で負けた彼らに同情する者はいない。何故なら正義はルーカスたちにあったと認められたからだ。


「お嬢さんたち、凄かったな!」

「ありがとうございます」

「可愛いのに強えとか最高かよ」


 検問時の門兵の讃辞に御者台のマリシアとクララが微笑みで返す。本来なら昨夜グリロコで一泊して今朝旅立つはずだったが、決闘の件で冒険者組合に顔を出す必要があるため予定が狂ってしまった。


 そして冒険者組合へ。


「ようこそ冒険者組合グリロコ支部へ。本日はどのようなご用件でしょうか?」

「昨夜『天翔る翼竜』という冒険者パーティーと決闘した『狐の尻尾』だ」


「では貴方がルーク様ですか?」

「そうだ」


「門兵の方から話は伝わっております。決闘の勝利、おめでとうございます」


 受付嬢は和やかに勝利を讃えてくれた。しかし組合の職員が一方に肩入れするとは考えにくい。そこで彼は理由を聞いてみることにした。


「実は怪我をされたピエールさんとトマスさんですが、色々と迷惑行為を繰り返していたようなんです」

「そうだったのか」


「組合にもあちこちから苦情が寄せられておりまして、対応に苦慮していたところでした」

「なら役に立てたということだな?」


「はい。任務とはなっておりませんので、報酬をお支払い出来ないのが心苦しいですが……」

「問題ない」


「ところでサンチョという名に覚えはございますか?」

「ああ、リュモ村の野営地を管理していたヤツだな」


「警備隊に逮捕されたようです。その件で報奨金が受け取れます」


「いや、そのまま口座に入れておいてくれ」

「かしこまりました。組合員証をお出し下さい」


 サンチョの不正を暴いた報酬は金貨二枚だった。


 その後簡単な事情聴取に時間を取られたが、長時間ではなかったことが幸いだったと言えるだろう。


「どうせだから町を見て回るか」


「ルー兄、美味しいものあるかな」

「ロレーナが作る飯が一番美味いぞ?」

「えへへ!」


「御館様、ロレーナさんはそういうことを言っているのではないと思います」

「クララ、ロレーナはどうしたいんだ?」


「おそらく、屋台で売っているものに興味があるのではないかと」

「そうなのか、ロレーナ?」


「クララ(ねえ)、凄い!」

「クララ姉?」


「姉というほど年は離れていないのですけど」

「んとね、着替えさせてくれたりお風呂一緒に入ってくれたりするから!」


 彼女がマリシアよりクララに懐いているのは、最初の頃から色々と世話を焼いていたからだろう。ロレーナの中では一番がルーカスで、二番がクララとなっているようだ。


「御館様、この時間ですと今出発すれば陽があるうちに次の野営地に到着出来ますが」


「近くに村とかはあるのか?」

「ありません。街道の脇に開けた土地があるだけです」


「宿に泊まるよりはっきり言ってキャビンの方が快適だし、屋台で食い物を買い込んで出発しようか。ロレーナ、それでもいいか?」

「うん!」


 美少女が御者を務める馬車が出ていくことを知って門兵が残念そうな顔をしていたが、手を振る彼らに背を向けて、一行は次の野営地に向けて走り出すのだった。

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