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第一話 中継地の不届き者

 ケーパの町で一泊した後、ルーカス、ロレーナ、マリシア、クララの四人はクラウディオ辺境伯領を目指して馬車を走らせた。


 途中の帝都アバスカルまで通常なら十日ほど。しかし馬車を引く速度が通常より二倍近く速いブラックスターなら、半分にはならなくても三日か四日は日程を短縮出来るはずだ。


「御館様、今日は一つ目の中継地で昼食を摂ってから、二つ目の中継地まで進もうと思います」

「一つ目は何というところなんだ?」


「リュモ村です。いくつかの集落が集まって村になったところですね」

「食堂のようなところはあるのか?」


「あります。街道を挟んだ反対側に野営地を経営している関係で、商隊や冒険者を相手に食事を提供しておりますので」

「よく調べているな」


「我々宵闇衆の手は長いですから」


 二つ目の中継地は、商業組合で話が出た鉱山都市グリロコだった。受付嬢は新たに商売を始めるには向かないと言っていたが、鉱山都市で主だって必要とされるのは食事と宿、道具屋に衣服や歓楽街といったところだろう。


 害獣を狩って肉や素材を売るという手があるにはあるが、如何せん運要素が強すぎる。いずれもすでにそこに根ざした商人がいるだろうから、確かに新参者には向かない土地というのも頷けた。


 昼を少し過ぎた頃、一行はリュモ村に到着する。すると隣接する野営地を管理していると思われる村人の男性が駆け寄ってきた。


「ようこそリュモ村へ。こんな時間に珍しいね。近くの集落に馬車を持っているところなんてなかったはずだけど」


 多くの場合、中継地とされる町や村、野営地に到着するのは夕方から夜にかけてで、出立は早朝が基本である。ましてこの村はケーパから帝都に向かう際は最初の中継地だ。


 つまり本来ならケーパからリュモ村までは一日かけて移動する距離なのである。足の速いベイシアブラック種の馬は大変に高価で、所有しているとしても貴族か大商会くらいだから、この男性が速さを知らなかったとしても無理はない。


「こんにちは。私たちは昼食を摂るために立ち寄ったのだけど、食事は出来るかしら?」


 御者台からマリシアに話しかけられて、男性が鼻の下を伸ばしている。目つきも何となくいやらしく感じられた。もちろんマリシアもクララもそんなことには気づいていたが、嫌な顔一つせずに微笑みを浮かべているのは最早スキルと言っても過言ではないだろう。


「も、もちろん出来るよ! 休憩だけ? 野営は?」


「最近聞いたんだけど、管理された野営地で女の子が覗きに遭ったということがあったらしくて」

「こ、ここは大丈夫だよ!」


「そうなのね。でも先を急ぐので休憩だけにするわ」

「それは残念」


 村人は気落ちしたように見えたが、後でマリシアから聞いたところによると、覗き被害の話は事実とのことだった。しかもそれが起きたのはまさにこのリュモ村の野営地だったそうだ。


「なら馬車一台だから、野営地の利用料は銀貨五枚だね」

「え? お金がかかるの?」


「ここはリュモ村で管理している野営地だからね。利用料の徴収は帝国も承認済みなんだよ」

「だとしても銀貨五枚なんて。村で食事をするために寄ったのよ?」


「確かに僕も高いとは思うけどね。まあ、ちょっといい思いをさせてもらえれば特別にタダに出来るよ」

「ちょっといい思いって?」


「ちょっと、そう、ほんのちょっと胸とかお尻を触らせてもらえれば……うへへ……」

「それは聞き捨てならないな」


 ルーカスが怒りを滲ませた低い声と共にキャビンから出てきた。


「ルーク様ぁ」

「怖いですぅ」


 マリシアとクララが三流役者顔負けの大根演技を披露している。ちなみに帝国でもルーカスはルークの偽名で通すことにしていた。


「何だ、男もいたのか。だったら今の話はナシだ」

「そうはいくか。冒険者のルークだ。貴様、名は?」


「冒険者だぁ? 護衛ならどうして馬車の中なんかにいやがったんだよ?」

「質問しているのはこっちだ。名を名乗れ!」


「ふん! サンチョだ」

「サンチョ、貴様を良俗違反で捕縛する!」


 そんな法律はない。配下を侮辱された怒りに、たった今彼が作った罪名だ。だが、十中八九覗きの犯人はこの男で間違いないだろう。


 ちなみにルーカスは商人を志しているが、現時点では商売を始めていないので冒険者と名乗ることにしていた。


「ああん!? ルークって言ったな。何級だ?」

「十級だが?」


「駆け出しかよ。僕はこれでも五級冒険者にだって負けないんだぜ」


「抵抗するなら命の保証はないぞ」

「けっ! 十級ごときが笑わせるんじゃねえ!」


 そう叫んでいきなり殴りかかってきたサンチョを脇に体をずらして避け、ルーカスは足を引っ掛けて転ばせた。そして起き上がろうとしてガラ空きになった腹を思いっきり蹴り上げる。


 さらに胸ぐらを捻じ上げて無理矢理立たせると、頬に拳をめり込ませた。数本折れたサンチョの歯が口から飛び出していく。


「マリシア、縛り上げろ。クララは村長を呼んでこい」

「「はっ!」」


 しばらく待っていると村長らしき初老の男性と、村人の男性数名が駆けつけてきた。


「サンチョ!」

「一体何事ですかな?」


「冒険者のルークだ。アンタが村長か?」

「リュモ村の村長、ウリセスです」


 ルーカスはこれまでの経緯をウリセスに話し、ケーパの町から警備隊を呼んでサンチョを連行させるよう要求した。


 しかしさすがにたった一人でも、働き盛りの男性がいなくなるのは村にとって大きな損失となる。何とか穏便に事を収めるわけにはいかないかと相談されたのだが、野営地の利用料について話が及ぶと風向きが変わった。


「サンチョ、お前というヤツは……!」

「どういうことだ?」


「野営地の利用料は確かに頂いております。しかしほとんどの方が村の食堂を利用して下さいますので、馬車一台につき一泊で銀貨二枚。休憩のみの場合は銅貨五枚としているのです」


「コイツが言った額の十分の一じゃないか!」

「サンチョ、いつからだ!?」


 村人の青年がサンチョの襟元を掴んで揺する。


「忘れたよ」

「これは良俗違反なんてもんじゃないな」


「ルークさん、村の者がご迷惑をおかけしました。利用料はいりませんので、お好きなだけ野営地をお使い下さい」


「いや、今日中にグリロコまで行く予定だから、長居するつもりはない」

「ではせめて食事だけでも無料にさせて頂きます」

「いいのか? サンチョを見逃すつもりはないぞ」


「もちろんです。すでに警備隊を呼びに行かせました。警備隊が来るまでこの男は村の牢に放り込んでおきますので、ご安心下さい」


 リュモ村での食事を終えたルーカスたちは、早々に鉱山都市グリロコに向けて出発するのだった。


――あとがき――

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