第十四話 冒険者ルーク
「最初にお聞きしますが、ルーク様は戦闘は魔法のみということはありますか?」
「魔法も使えるが、剣での戦いの方が得意だな」
「承知しました。試験は試験官と一対一で模擬戦を行って頂くことになります」
「分かった」
「試験官はこちらのバートナー二級冒険者が担当致します」
バートナーは筋骨隆々のいかにもという風体で、上背も二メートルはあるように見えた。ルーカスを見下すような笑みを浮かべながら、木剣を肩に当てペチペチとやっている。
「ポンシオと同じ二級か……」
「はい?」
「いや、何でもない」
「ルールをご説明します。まず模擬戦には必ずしも勝つ必要はありません」
「なるほど」
「魔法も使えるとのことですが、今回は使わないで下さい」
「そう言えば魔法のみで戦う者はどうするんだ?」
「その場合は魔法を見せて頂くのが試験となります」
「それで先に聞かれたのか」
「はい。次に戦闘の内容で試験官が問題ないと判断した場合は戦闘可能な初級冒険者として合格です」
「ふむ」
「ただし初級では討伐系の任務は請けられませんので、早めに十級に上がることを目指して下さい」
「意外に制約が多いんだな」
「組合員が身の丈に合わない任務を請けて命を落とすことのないようにするためですから」
「そうか」
つまり初級とはお試しで、向いてなければ早めに別の仕事を探せということなのだろう。
「なお、万が一ですが試験官に勝った場合は一つ上の十級冒険者として登録になります」
「二級に勝っても十級なのか?」
「決まりですので申し訳ありません」
「おいおい、ルークとやら。お前まさか俺に勝てると思ってるんじゃないよな?」
「そんなわけないだろう。だがまぐれがあるかも知れないから念のために聞いただけだ」
「まあ想定外ってのはよくあることだからな。しかし今回に限ってまぐれはねえよ」
「胸を借りるつもりで頑張るさ」
軽く持ち上げられただけでバートナーは気分をよくしたようだ。当然、思いっきりフラグを立ててしまったことには気づいていない。
「ルーク様、こちらから木剣をお取り下さい」
「分かった」
「それでは、始め!」
一瞬の出来事だった。ルーカスを舐めきっていたバートナーは木剣を構えもしていなかったが、その表情が青ざめるのに時間は必要なかった。
視界から新人の姿が消えたと思うと、鳩尾に激痛が走っていたのである。そして気がついた時には首に剣が突きつけられていた。
ルーカスは柄頭でバートナーの鳩尾を打った後、体をくの字に曲げた試験官の首に剣を突きつけたというわけだ。
「おい、俺の勝ちでいいのか?」
「はっ……しょ、勝者ルーク様!」
あまりの予想外の展開に、受付嬢は固まってしまっていたようだ。ルーカスの勝利を告げた声も裏返っていた。
◆◇◆◇
「驚きました。まさかバートナーさんに勝ってしまわれるなんて。どこかで剣術を習っていたのですか?」
「秘密だ。それとも答えなければならないのか?」
「い、いえ。失礼致しました。単なる私の興味本位ですから」
「いいさ。それよりこれで十級スタートということだよな?」
「はい。では任務についてご説明させて頂きますね」
「頼む」
「まず、冒険者組合には大きく分けて三つの任務があります」
一つ目は公共任務。主に魔物や害獣などの駆除と公共施設の維持、管理、運営などに関する任務で、決められた成果報告をもって任務達成となる。盗賊の捕獲や討伐もこちらに分類される。
次に依頼任務。人や物を探したり依頼された素材を採取したりする任務で、公共任務の魔物や害獣駆除と重なることがある。依頼者の判断によって任務達成の成否が判断される。
最後は特別任務。これはほとんどが帝国や領主から指名依頼を請けるもので、稀に冒険者組合や他の組合から依頼されることもある。こちらも依頼者の判断によって任務達成の成否が判断される。
「組合を通さずに依頼を請けても違反にはなりませんが、当然我々は一切の責を負いませんし、トラブルが発生しても仲裁には入りません」
「それはそうだろうな」
「また冒険者組合に依頼を出される場合は、報酬の二割を仲介手数料として申し受けます」
「覚えておこう」
「最後に支払われる報酬についてですが、任務は個人で請け負ってもパーティーで請け負っても決められた額は変わりません」
「報酬が金貨一枚なら一人でやろうと四人でやろうと一枚だけってことだな?」
「そうです。報酬は先ほど商業組合で作成した口座に振り込まれることになりますが、都度冒険者組合員証の提示が必要となります」
「その場で金を受け取らなくてもか?」
「はい。口座への振り込みを了承して頂くためです」
「なるほど、了解した」
「パーティー申請は同時に行われますか?」
「頼む」
「それでは皆さん、こちらに必要事項をご記入下さい。ルーク様はパーティー申請書にもご記入をお願い致します」
ロレーナは文字が書けなかったので、代わりにクララが代筆して各自の登録を済ませた。
「パーティー名か。すぐに決めなきゃだめか?」
「後でも構いませんが、決まるまでパーティー申請出来ません」
「うーん、ロレーナ、何がいい?」
「ルー兄!」
「いや、それは俺のことだから」
「御館様のお好きな『狐の尻尾』というのはいかがでしょうか?」
「クララ、名案だ! 採用!」
「それではパーティー名は『狐の尻尾』で登録致しますね。リーダーがルーク様、メンバーはロレーナ様、マリシア様、クララ様の四人でお間違いないでしょうか?」
「間違いない」
「お疲れさまでした。これで手続きは全て終了です。ようこそ、冒険者組合へ」
四人それぞれが組合員証を受け取り、やるべきことを終えてケーパの町に繰り出す。
なお、お約束のようにバートナーが仲間を引き連れて因縁をつけてきたが、戦闘試験をパスしていないマリシアとクララにあっさりと返り討ちにされた。
これは彼らにとって非常に恥ずべき結果であり、今後二度と他の冒険者にも同じことをしないと約束させて組合への報告を猶予したルーカスだった。
――あとがき――
以降、ルーカスは自らをルークと名乗って行動します。
次話より『第二章 辺境の地へ』となります。
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