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第十三話 二つの組合

「ようこそ、ランデアドーラ帝国商業組合ケーパ支部へ。本日はどのようなご用件でしょうか?」


 受付の女性は美丈夫なルーカスを見て頬を染めていたが、職務には忠実のようだ。


「新たに組合員になりたいんだが、どのような手続きが必要なのか教えてほしい」


「他の組合で登録はされてますか?」

「いや、してないな」


「承知致しました。登録は商会と個人のどちらをご希望でしょうか?」

「質問に質問で返して申し訳ないが二つの違いは?」


「商会の場合ですと最低でも会頭一名、番頭一名、会計一名と使用人が五名以上いることが条件です。個人はそういった制約はありません」

「そうか、なら個人だな。この四人で活動しようとしているのだが、それぞれ登録が必要になるのか?」


「代表者が雇用主という形を取れば名前だけの登録で済みますが、組合費はそれぞれにかかります」

「組合費はいくらだ?」


「月毎ですと一人当たり銀貨五枚。一年分を一括で納めて頂くなら小金貨五枚になります」


 銀貨十枚で小金貨一枚と同額、小金貨は十枚で金貨一枚と同額だ。


 銀貨が五枚あればそこそこの宿に一泊出来る。小金貨五枚なら場所にもよるが共同住宅一室の家賃一カ月分といったところ。つまり一年分を一括で支払ってしまった方が銀貨十枚、四人分なら小金貨四枚もお得になるということである。


「他に口座を開設して頂きますので、手数料が一口座につき銀貨一枚必要です。こちらは初回のみのお支払いとなっております」

「それは帝国全土で有効なのか?」


「はい。全ての組合でも共通で決済利用も出来ます。もちろん各組合毎に口座を開設することも可能です」

「いや、一つで十分だ」


「承知しました。それと帝都アバスカルで商売なさる場合には、別途鑑札が必要となります」

「ほう?」


「鑑札は五年毎の更新で、初回は金貨二枚。以降は金貨一枚を納めて頂かなくてはなりません」

「この四人全員が手に入れなければならないのか?」


「いえ、お三方は従業員ですので代表のルーク様お一人で結構です。また、鑑札は途中で不要になれば返還も可能です。返金は月割りで計算されます」

「そこそこ良心的と考えるべきなんだろうな」


「お祭りの時などに限って露店を出す場合は、出店が年間二十日間を越えなければ鑑札は不要です」

「そういう制度もあるんだ」


「売り上げの二割を納税することに変わりはありませんが」

「税は売り上げにかけられるのか」


 店舗を持たず、馬車を屋台として使うなら最低限稼がなければならないのはルーカスとロレーナの生活費だ。宵闇(よいやみ)衆は基本的に自給自足だから彼らのことは考えなくていい。


 とは言えカツカツなのも問題だろう。今はセルジオから受け取ったり王城の宝物庫からせしめてきたりした金貨があるが、出来れば万が一の時のために使わずに取っておきたい。


「帝都以外で大きな都市や町はあるのか?」


「もちろんありますよ。一つ目は帝都方面に馬車で二日の距離にあるグリロコ。ただ鉱山都市なので活気はありますが、新たに商売を始めるには向かないかも知れません」

「他には?」


「ここから帝都まで馬車で十日ほどかかりますが、さらに西に五日行ったところにあるクラウディオ辺境伯領のミムーアは、都市と呼べるほど栄えてます」

「辺境伯領?」


「ビオジブラ共和国と国境を接している領地です」

「国境の町だから栄えているのか」


「共和国とは友好な関係にあるので治安もいいと思います」


「ならそこを目指すか」

「あの……」

「うん?」


「このケーパで商売をなさるという選択肢はないのですか?」


 受付嬢からしてみれば、自分のいる支部で商人を増やしたいと思うのは当然だろう。しかしグレンガルド王国との国境に近いこの町に留まるのは危険である。


「悪いな。元々帝都で一旗揚げようと考えていたんでね」

「そうですか……あ、大切なことを忘れてました」

「なんだ?」


「鑑札の期間の区切りですが、年度毎になります」

「と言うと?」


「年度は毎年一月から十二月までですが、年度途中に鑑札を取得した場合、更新のカウントが始まるのは次年度からなんです」

「つまり?」


「二月に鑑札を取得した場合、最初の更新が五年と十一カ月後になるということです。ただしそれまでの間に返還されますと、カウントされない期間の分も月割りで計算されますのでご注意下さい」


 なお、一月中に取得してしまうとそこからカウントがスタートするらしい。


「今は十二月になって間もないので、鑑札を取得するなら二カ月ほど待たれた方がいいですね」

「それはいいことを聞いた。どうするかはじっくり考えてみるよ」


 ルーカスは商業組合員として登録を済ませ、四人分の年間組合費を支払ってその場を後にした。



◆◇◆◇



 次に四人が訪れたのは冒険者組合である。どこかお役所的な雰囲気だった商業組合と違い、酒場が併設されているせいか騒がしい。まだ夕方にもなっていないというのに酒を煽っている者までいた。


「ようこそランデアドーラ帝国冒険者組合ケーパ支部へ。ご用件を伺います」


 商業組合の受付嬢も美しかったが、こちらは美しさに加えて色気も感じられる。


「組合員になりたいので手続きを頼みたい」

「他の組合で登録はされてますか?」


「たった今商業組合で登録してきた」

「では組合員証を拝見させて下さい」


 ルーカスは受け取ったばかりの組合員証を差し出した。


「ルーク様と従業員が三人ですね」

「そうだ」


「冒険者組合は商業組合と違ってお一人ずつに組合員証をお出ししております」


「三人も登録が必要ということか?」

「はい」


「登録の費用は?」

「組合員証発行手数料の銀貨一枚となっております」


「有効期限は?」

「ありません。ただし紛失された場合には再発行手数料として銀貨一枚がかかります」


「商業組合とはずい分違うんだな」

「冒険者は常に命がけとお考え下さい」

「なるほど」


「ただ町の清掃や害虫駆除など、危険の少ない任務もありますので」


 登録したその日に冒険者に与えられるのは初級資格で、そこから達成した任務の数や種類により十級から一級へと昇級していくとのことだった。


「それと当組合に登録されるのでしたら戦闘試験を受けることをお勧めします」

「受けないとどうなるんだ?」


「受けて合格しないと、公共任務のうち討伐系と言われる任務が請けられません」

「待て、このロレーナは獣人だが……」


()()()なので弱いということですね。ルーク様のパーティーということでしたら、試験は代表者であるルーク様の結果次第ということになります」

「それなら問題ない」


「ただし戦闘試験をパスしていない組合員が討伐系の任務に参加して負傷、あるいは死亡しても当組合は一切の責を負いません」

「逆にパスした者がそうなった場合は?」


「等級と状況により見舞金が支払われます」

「なるほど」


「それとパーティーでの護衛依頼は請けられなくなりますのでご注意下さい」


 パーティー内に非戦闘員がいれば、護衛任務は任せられないということだろう。


「そう言えば公共任務って?」


「詳しいことは後ほどご説明致します。そちらの女性二人はいかがされますか?」

「いや、俺だけでいい」


「分かりました。それでは準備致しますので、あちらにお掛けになってしばらくお待ち下さい」


 それから間もなく、ルーカスたちは地下にあるという戦闘訓練場に案内されるのだった。

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