405話 借り物競走3
405話 借り物競走3
「い、一緒にって……私も走者なんだよ!?」
「仕方ないだろ!? このお題に当てはまる奴が由那しかいないんだって!!」
「いや、でも! じゃあ私はどうなるの!?」
「そ、それはなんかこう、多分大丈夫だろ! 同着的なアレで!」
「雑! 答えがふわっとしてるし雑だよぉ!!」
せめて由那が一緒に走っている状態ではなく、待機列にいる状態、或いは観客席にいたならこんなにややこしい話にはならなかったんだけどな。
そもそも競い合っている相手を借り物にして連行して……って、借り物競走のルールとしてもだいぶ怪しいところだ。もしかしたら反則にされるかもしれない。
けれど……それでも、俺は由那を選ぶ。由那を連れていく。もしそれができなければ俺にはリタイアという選択肢しか残されない。
「どちみち、由那だって俺と一緒でお題ヤバかったんだろ? その様子だとゴールできそうには見えないし」
「っ……そ、それは……」
「なら、ここに一人残されて恥ずかしい思いするよりも、俺に連れて行かれたからって体でゴールした方がいいはずだ。さっきだってほら、借り物で連れて行かれたいって言ってたろ?」
「あ、ぅ……」
何故だろう。いつもの由那なら喜ぶか、絶対に勝ちたいからと頑なに断るか。そのどちらかだろうに。
この反応はそのどちらでもない。何故みるみるうちに頭から湯気を沸かせていくのだろう。恥ずかしがりたいのはこっちの方なんだけどな。
どち道このままでは埒が開かない。たった今一人目がゴールしてしまい、他の二人も借り物を見つけた様子だ。このままだと完全に取り残される。
ならーーーーっ!
「行くぞ! こうなったら無理やり連れてく!!」
「わ、わわっ!? 待って! ちょ、まだ心の準備がぁっ!!」
「心の準備ぃ!? そんなん俺の方ができてないっての!!」
『おおっと!? 一位がゴールし、残りの走者たちが一気に動き出した! だがしかし……なんだぁ!? 走者二人が手を繋いでいるぞ! あれは、まさか借り物として連行しているのかぁ!?』
は、恥ずかしい。マジで恥ずかしいぞこれ。大音量実況はやめてくれ……。
「かぁぁぁぁあみさわぁぁっ!? ざっけんじゃねぇぞ!!! 我がクラスのアイドルに何してんだァァッッッ!!!」
「んぴぃ!! んぴびぴぴぃぃぃっ!!」
「##@#/!! @@#_/###!!!」
血涙を流しながら殺意を向ける声も、とても人間の声とは思えない発狂も。ここでは伝えられない放送禁止ワードの連発も。観客席からこの世の地獄かと思うほどの声を浴びながら、ゴールへの道を一直線に突き進む。
由那の手を引っ張りながらな分、やはり速度は遅い。一人で借り物を片手に走ってくる奴らには簡単に抜かれてしまい、すんでのところで順位は最下位へ。全員がゴールの白線を数秒ほどの差で通り過ぎ、お題と借りてきたものの照合へと入っていく。
「はぁ……はひ……っ。うぅ、ゆーし乱暴だよぉ。なんで全力疾走なの? もっとこう、お姫様抱っことかしてほしかったなぁ……」
「む、無茶言うな。由那を引っ張りながら走るってだけでもどんだけしんどかったと……」
「そ、そそそれって私が重いってこと!? 私重くないもん! 確かに最近またちょっと体重は増えちゃったけど……抱っこできない重さにはなってないはずだよ!?」
「重かったなんて言ってないだろ……。まあ遅くはあったけども」
結果的に十数秒もの間、観客全員からの視線を集めることとなってしまった。ただでさえこれからお題発表がされて更に辱めを受けることになるのに。もう相当メンタルを削られたんだが。
『では、走者四人の方々はそれぞれ紙を提出してください! これから照合に入り、もし借り物が認められなければもう一度借りに戻ってもらいますからね〜っ!!』
まあでも、なんとか完走することはできた。
お題によってはここから本当にこの借り物で大丈夫だったのかと心配にもなりそうなものだが。
その点、俺は全く問題ない。
由那を連れて来れた時点で、やり直しの可能性はゼロパーセントだ。




