403話 借り物競走
403話 借り物競走
「ぬおぉ!? しゃ、シャーペン!? こんなん今日筆箱持ってきてる生徒なんていねぇんだから激ムズじゃねえか!?」
「甘い物……え? 食べ物を借りてくるんですか……?」
二人三脚が終わり、次の借り物競走へ。
序盤で在原さんと蘭原さんが既に出場を終えているのだが、どうやら実行委員の粋な計らい(?)で中々にお題が難しいらしい。
まあでも、簡単よりは断然いい。簡単すぎたらもはやただの徒競走と遜色無くなってしまうからな。きっと俺たちみたいな運動音痴にもチャンスを与えるためにそういう設計にしたのだろう。
「……で、どうして由那さんはここに?」
「ふふんっ。ゆーしさんと走るレースが同じだからなのです」
「マジか」
「マジなのです」
本人が言うなら……うん。そういうことにしておこう。
入学式当日、男子に頼み込んで俺の隣に座ってきたような奴だ。こっそり裏で順番の入れ替えくらい行なっていそうなものだが。
「あ、もしかして信じてないなぁ? 言っておくけど私は不正なんて一切してないからね! というかむさろゆーしとは別のレースになって「可愛い人」とか「好きな人」のお題を引き当てたテンプレゆーしさんにゴールまで連れて行ってもらうつもりだったんだもん!!」
「えぇ……そんなベタな」
というかそれ、シンプルに恥ずかしすぎるだろ。
まあ由那は全くそういう気持ちにはならないだろうけども。少なくとも俺は由那を連れてゴールまで走った後にお題発表でそれを暴露されるとかなり恥ずかしい。さっき挙げられた二つのお題なら尚更。
「でも、一緒になっちゃったのは仕方ないもんね。こうなったらゆーしに勝って一位で独走しちゃうから! 勝負だよ〜っ!」
「ほほう? あの超絶運動音痴で有名な由那さんが、いくら運も絡む借り物競走とはいえ俺に勝つと? 笑わせないでもらおうか」
「むぅ……負けてからごめんなさいしても遅いからね?」
「望むところだ」
そりゃ、俺が負ける可能性だってあるにはあるのだろうけど。
所詮相手は由那だ。体育の時はウォーミングアップのグラウンド二周だけでへばり、未だ腹筋の一回もできないでいる由那だぞ?
負けるかもしれないとか以前に、負けたくない。彼氏としてとかそういうのはもう度外視だ。借り物競走とはいえ″競争″で負けるなんてこと、絶対にあってはならないのだ。
「由那ちゃ〜ん! がんばれぇ!!」
「勇士ー、彼女さんに負けたらダメだよー?」
う゛っ、アイツめ。絶妙に嫌な応援を。
「それじゃ、次の走者はスタート位置についてください。ほれ、あとが詰まってんだ。早く早く」
湯原先生に催促され、スタートの白線前へとスタンバイする。
同じクラスということもあり、由那は隣。ここに立った瞬間、俺には男子からの大ブーイングが。由那には男女共に黄色い声援が。なんとも飛び交う応援の声に差がありすぎるなぁと思いつつも。意識をこれから鳴らされるピストルの音にだけ集中させ、構える。
「絶対負けないよ、ゆーし」
「こっちの台詞だ」
「いちについて! よぉ〜いっ!」
パァンッ!
火薬の爆発するような激しい音と共に。俺たちは一直線にスタートを切った。




