402話 二人三脚2
402話 二人三脚2
「ねぇねぇゆーし! 一緒に声出して応援しよっ! 渡辺君と有美ちゃんも!!」
「それはいいけど、あの二人まだ戻ってきてなくないか?」
「え? 隣にいるよ?」
「おわっ。いつの間に」
ついさっきまでそこには誰もいなかったのに。蘭原さんの奇行に気を取られている間に、二人は既に由那の隣に戻ってきていた。
そして二人とも、済ましてはいるもののどこか息が荒い。急いで走ってきたのだろうか。
「ちょっと寛司、なんで起こしてくれなかったの!? 危うく競技にも間に合わなくなるところだったでしょ!!」
「いやぁ、有美の気持ちよさそうな寝顔を見てたらつい俺も……いて、いてててっ」
何やら怒った様子の中田さんに寛司が小突かれているが、話している内容は小声すぎて聞こえてこない。まあ大方イチャイチャのしすぎで遅れかけたことを怒られているのだろうけれども。相変わらずお熱いこって。
「お、次の走者あの二人だぞ。んじゃ応援、するか?」
「うんっ!!」
由那のキラキラと輝く視線が眩しい。
体育祭というのは競技に出ることは勿論のこと、応援するのも楽しみの一つだ。
元々俺はそのどちらも何が楽しいのか分からなかった。運動音痴だから競技に出るのは嫌だったし、応援するのだって。周りに合わせて声こそ出してはいたものの、心の底では運動神経のいい奴らへの嫉妬ばかり。とてもじゃないが、楽しむことなんてできなかったけれど。
今は違う。心の底から応援したいと思える友達、そして彼女さんがいて。応援されることも、本当に嬉しかった。
「じゃあいくよ! せーのっ!!」
すうっ、と大きく息を吸い込み、由那のかけ終えに合わせて。四人全員で、息を合わせる。
ーーーーそして、声が一つに重なった。
「「「「がんばれーーーっっ!!!」」」」
その大声に周りからの視線が集まり、俺たちは思わずくすりと笑みを漏らす。
恥ずかしいけれど、楽しい。
結果的に二人の二人三脚は同時に走った四組の中で最下位に終わってしまったけれど、そこには確かに笑顔が溢れていた。
「くぁーっ! 負けた負けたぁ。みんな速すぎだろぉ!」
「アンタが遅かったんでしょ。後半ヘトヘトだったじゃない」
「す、すみません……私がちゃんとペースを合わせられなかったから……」
「うんうん、ひなちゃんは悪くないよ。大変だったでしょ? これにペース合わせるのは」
「何をぅ!? おま、なんでそんな辛辣なんだ!? 頑張って戦ってきた奴には優しくしろよぉ!!」
クスクスと笑いながら蘭原さんを慰め、同時に在原さんに愛ある鞭をぶつける中田さんと、そうしていじめられた彼女をよしよしする由那。そんな四人の絡みを一歩後ろから眺める俺たち男子二人。
本当に、この六人でいると心地がいい。
「ぐすんっ。由那ママぁ……有美がいじめるよぅ。労わっておくれよぉ……」
「もぉ、薫ちゃん赤ちゃんみたい。よしよし、いっぱい頑張ったね。えらいよ〜」
「きゃっきゃっ♪ ばぶぅ♡」
さて、二人三脚も走者はあと十組程度。もう数分もすれば終わるだろう。
となれば、次の競技がすぐに始まる。おそらくそろそろ集合の放送がかかる頃だ。
「次は確か借り物競走だっけ? 俺と有美以外は全員出場だね」
「おう。ま、そこそこに頑張るわ」
負けたとはいえ、在原さんも蘭原さんも。あの運動極限音痴の二人がちゃんと最後まで走り抜け、完走してみせたのだ。
俺も、負けてられないな。




