401話 二人三脚
401話 二人三脚
『さあ、いよいよ午後の個人競技がスタートです! 初めは二人三脚! 出場する生徒は集合してくださーいっ!』
昼休憩が終わり、競技はクラス対抗から個人へ。
ちなみに現在、赤組と白組の点数差はほぼ同率。やや俺たちの属している赤組の方がリードしているものの、この程度の点差なら簡単にひっくり返されてしまってもおかしくない。
「二人三脚って、おれら六人の中だと出るのは……」
「薫ちゃんとひなちゃんが出るよ〜っ! 二人とも頑張れ〜!!」
ああ、あの二人か。
というか、別にいいけど寛司と中田さんはどこ行った? まだあの二人の出る競技はしばらく集合がかかることもないとはいえ。まさかまだどっかでイチャイチャしてるんじゃないだろうな。
「うぷっ……昼飯食いすぎた……」
「だ、大丈夫ですか? 薫さん、顔色悪いです……」
俺たち四人「運動音痴組」は、俺と由那が全く同じで借り物競走と障害物競争、あの二人は二人三脚と借り物競走に出場する。
当然、俺たちの目標は一着なんて大層なもんじゃない。そりゃどうせやるなら目指しはするが。クラス対抗と違って完全に個の力が求められる午後の競技で優秀な結果を残すのは相当厳しいだろう。
そして実は、俺たち四人の全競技の中で、実はあの二人の二人三脚が一番不安だったりする。
二人、というかもっと言うと……
「だ、大丈夫だ。せっかくひなちゃんと走れるんだから、負けてらんねえよ。最下位だけは回避してやろうぜ!」
「ひゃ、ひゃひっ! が、ががが、頑張りまひゅ!!」
蘭原さん、あの様子で本当に二人三脚なんてできるのだろうか。
運動能力に関しては別に心配していない。二人三脚なんて最悪ゆっくりでもあまり違和感が無い気がするし、普通にやれれば完走はできるだろう。
普通にやれれば、だが。
「うっし、じゃあ脚の紐結んでくれ」
「……ゴクリ」
しばらく蘭原さんを見ていて、よく分かった。
「はぁ……はぁ……っ。か、薫しゃんの脚……しゅきぃ♡」
彼女はヤバいだけじゃない。ヤバすぎる変態さんなのだ。しかもあの在原さんに対してだけの。
そして実は俺たちだけでなく、クラスの奴らも。そのほとんどが彼女のヤバさに気づきつつあった。我がクラスの三代美女と持てはやされる三人のうち二人は彼女がおり、最後の一人の在原さんには玉砕させられた男子が数知れず。
どうやらその三人の次に男子人気の高かったのが蘭原さんと湯原先生だったらしいが、最近では蘭原さんに告白しようかなんて声もめっぽう聞かなくなってしまった。もちろんその原因は彼女の狂信的な在原さんへの好意が周りに認知され始めたからだ。
「どした? 結ぶの難しそうなら私がやるぞ?」
「い、いえ! 大丈夫れふ!! ……じゅるっ」
本当、なんであの調子で在原さんは気づかないんだろうなあ。あまりに不思議だ。もしかして在原さんはああ見えて意外と自己肯定感が低かったり……って、流石にそれは無いか。あの在原さんだしな。
「ふふっ。ひなちゃん、薫ちゃんと肩組んで顔真っ赤になってる。緊張してるのかなあ」
「……そうだな」
俺にはあの顔、確かに感じる在原さんの胸部装甲の圧を楽しんで興奮してるようにも見えるけど。口には出すまい。




