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400話記念話11 魅惑のチョコレート2

400話記念話11 魅惑のチョコレート2



 ホットミルクの湯気に当てられながらチョコレートの箱を開封すると、中身は個包装の小さいのが六つ。金色の包み紙は″いかにも″で、一つ手に取るだけでおそるおそるといった感じだった。


(これ、いくらするんだろ……)


 ここのブランド自体は知っているけれど、流石にこのチョコの具体的な値段までは知らない。


 ただ、少なくともただの高校生である私にとって、簡単に手を出せるものではないということは分かる。


「い、いただきます」


「じゃあ俺も。いただきます」


 二人で同時に包み紙を取って。贅沢に中身を一口。


 まず口内に広がったのは、噛むまでもなく感じ取れるほどの甘み。溶けている感じはしないのだが、そこには確かに甘いものがいるのだという圧倒的な存在感。


 そして、そこに歯を入れると。一般的な丸型チョコのパリッとした硬い食感とは違った、『ぐにゃり』と、グミに近い柔らかな感触とともに、表面とは全く別の味がなだれ込む。


「おいひい……。これ、レーズン?」


「みたいだね。ホットミルクにもよく合いそう」


 ああ、これは本当に高級な味だ。


 なんというかこう、普段食べるチョコとはあまりに格が違いすぎる。どうして私はこんなに美味しいものを我慢しようとしていたのだろう。


 ゆっくりと中身を咀嚼して、味が完全に消えそうになってから。そこに適温に冷めたホットミルクを流し込む。


 レーズンとホットミルクの組み合わせなんてしたことがなかったが、この濃いめの味と優しい温もりが合わさるとなんとも心地が良くて、身体の芯からポカポカと熱が広がっていく。


 気づけば二つ目に手を出して、隣から小動物でも見るかのような目線を送ってくる寛司には気づくこともなく、パクり。


 ダメだ、これ。こんなものを知ってしまってはもう普通のでは満足できなくなってしまう。


 そう頭では分かっていながらも、頬が蕩けそうになる幸せには全く抗えそうにない。


「そんなに美味しそうに食べてもらえると、なんかこっちまで嬉しくなるよ。口に合ったみたいでよかった」


「えへへぇ……こんなの、美味しいに決まってるよぉ」


 じゅわあ、と。染み込むようなポカポカがどんどん広がって、気持ちいい。


 ホットミルクのおかげだろうか。まるでサウナの中にいるかのようで……少し、暑い。


「……ひくっ」


「? しゃっくり?」


「出ちゃった♡ それにしてもこれ、本当に美味しいねぇ。ホットミルクいっぱい飲んじゃって、暑いや」


 着ていた薄長袖を脱ぎ、半袖シャツ一枚で身軽になってから。少し惜しいけれど、最後のチョコを口に運ぶ。


「えへへ……へへっ。ぽかぽかあ……」


「ゆ、有美? あれ!? な、なんか様子変だよ!?」


「むっ。変じゃらいもぉん。どおしたのお? 変なのはかんじのほうらよお」


「明らかに呂律回ってないって! こんなの、まるで酔ってるみたいでーーーーあっ!? も、もしかしてこれ!?」


「かんじぃ? こっち見てくれなきゃや〜らっ♡ ね、からだぽかぽかになっちゃっら。ぎゅ〜っていっぱい、シよ?」


 最後に覚えているのは、やけに身体が熱かったことと、寛司の焦る顔。




 この夜のその先の記憶はーーーー私には、一ミリたりとも残りはしなかった。

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