400話記念話9 ready to fight5
400話記念話9 ready to fight5
『おおおおおぉっ!!!』
「わぁっ!? う、嘘!? 真島さんが勝った! 勝ったよぉぉおっ!!」
「な、なんだ今の動き。あの人、マジにすげぇ人じゃん……。かっこよすぎだろ……」
新星さんのダウンと共に、試合終了のゴングが鳴る。
真島さんの強烈な二連撃は本当に一瞬の出来事で、数秒時が止まったかのような静寂をもたらした。俺も、由那も、会場の人たちも。湧き上がったのは、新星さんが膝から崩れ落ちて地面に伏した後のことである。
『うおおぉっ! 穂高ーっ!!!』
『おわっ!? な、なんすか先ぱーーーーどわぁっ!?』
『『『『わーっしょい! わーっしょい!!』』』』
『やめ、ちょ、マジでやめろぉっ!! 俺高所恐怖症だって知ってんでしょぉっ!?』
リングには筋骨隆々な男たちが上がり、四人で真島さんをこれでもかと言わんほどに上へ、上へと飛ばす。
あの日ーーーー俺と由那を救ってくれた人は、今。誰の目から見てもヒーローそのものだ。
『あ、あのっ! 勝利者インタビューありますので! 観客席へ戻ってくれません!?』
『がはは、そう言うなよ! 俺たちの可愛い可愛い後輩がプロボクサーぶっ倒して見せたんだぜぇ!? お前は俺たちの誇りだぁっ!!』
『ぎぃやぁぁぁっ!?!?』
はは、真島さん涙目になってら。
よっぽど極度の高所恐怖症なんだろうな。いやまあ、どあげであんな吹き飛ばされてたら誰でも怖いか。
それから、番組スタッフの人たちが困り果てた様子でしばらく声をかけ続ける事しばらく。数分経ってようやく真島さんの先輩たちがリングから降りていくと、ぜぇぜぇと息を切らしながら倒れている真島さんにマイクが当てられる。
『あ、あの……大丈夫ですか?』
『これ……これがっ! 大丈夫に、見えるんすか……っ!!』
もはや試合よりも、どあげされたことによる疲れで息を切らしているように見える。やっとな様子で膝を立てて身体を起こすそれは、もう激闘を制した後の光景だ。
『えっ……と。まあなんかすごい乱入がありましたが、とにかく勝利です! どうですか、今の気持ちは!! なにか言いたい事など!!』
『言いたい事ぉ? ん〜、そうだな……』
『視聴者の方に向けてでもいいですし、ご家族やご友人に向けてのメッセージでも! この勝利を伝えたい相手はいらっしゃいませんか!?』
『家族、かぁ。う〜ん、なんかピンと来ねえな。勝利を伝えたい相手……あっ』
『お、どなたか浮かんだようですね! ではお願いします!』
マイクを手渡された真島さんと、目が合ったように感じた。
いや……ただのカメラ目線、か?
『あ〜……っと。見てるか分かんねえし、見てなかったらクソ寒いだけなんだけどな。俺が一番かっけぇと思ってる奴に、一応』
真島さんが、一番かっこいいと思ってる奴……。
「かっけえ奴の名前は覚えときてえじゃん」
あの日、最後に投げかけられた言葉がフラッシュバックする。
ま、まさか……な?
『見てるか! 神沢勇士ッッ!! 俺もテメェみたいに、最高にかっけぇ奴になって、クッッッソ可愛い彼女作ってイチャコラしてやる!! だからお前も、ずっとかっけぇままでいろよ!!』
「はぁ!? ちょ、はぁっ!?!?」
「えへへ、私の彼氏さん……間接的にテレビデビューしちゃった♡」
天に掲げられたガッツポーズと共に真島さんの叫びが響くと、会場はもう大盛り上がり。名前をテレビで叫ばれたことと横から由那がニマニマと顔を覗かせてくることへの恥ずかしさで真っ赤になる俺とは裏腹に、とても満足そうな表情が映し出されていた。
なお……このテレビを見ていた男女何人かに夏休み明け、俺は質問攻めという名の詰問を受けることになるのだが。この時の俺はまだ、そんな事は知る由もない。




